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ウマ娘に見るギャグの作り方

- ウマ娘に見るギャグの作り方 -

 ギャグとはどういう技術か。その答えを書くならば、私はこうと答える。


「ギャグとは、ツッコミ所を作る技術である」


 ただしこの「ツッコミ所を作る」には一つ重要な前提がある。それは、「テンポよく」ツッコミができることだ。

 故に、テンポの悪いギャグと言うのはそれだけで面白みが無くなってしまう。無論そうでない物もあるであろうが、あくまで『多くは』そうなるということである。


 ギャグがつまらない人間の特徴としては、ギャグを「ただ単におかしなことを言うこと」だと勘違いしていることだと私は思う。

 皆も一度は見たことがあるだろう。ただひたすらに変な事を言うばかりで、出てくる発言の全てがつまらなくて教室や現場を白けさせてしまう人間を。私なのだが。


 なぜそうなってしまうかと言えば、その場の雰囲気を読んだり、流れを読んだり、そう言った能力に疎いからである。

 テンポ良いツッコミを皆ができるようになるためには、そうした細かな状況を敏感に感じ取り、ここだというベストなタイミングで「ちょっと」ズレたことを言う必要がある。これは小説におけるギャグではなく、あらゆる場面にて活用できる技術と言えよう。



 というわけで、本題である。この優れたギャグの良い例と言うのが、ウマ娘のアニメにてよくよく見られたのでそれを書き連ねていく。


 例えばだが、アニメ第一期の主人公・スペシャルウィークが食堂にて初めてご飯を食べるシーン。


 スペシャルウィークはウマ娘の中でも随一の食いしん坊キャラである。そんな彼女は食堂にてこれでもかという位にご飯やおかずを盛り付け、他のウマ娘たちから「誰かツッコんで」と内心叫ばれている。

 一方そんな彼女がご飯を食べている後ろの方で、背景の一部にモブキャラのように食事をしているのが作中最強の食いしん坊、オグリキャップだ。スペシャルウィークが盛り付けまくったご飯を食べようとして皆から内心ツッコまれている最中、その量を遥かに超える食事を「いただきます」している。


 そして次のカットに切り替わった瞬間には「ごちそうさまでした」をしている。他のウマ娘たちは誰一人オグリキャップのこの行動には触れないが、一連の流れを見ている視聴者は「いやいやいやいやww」「主人公よりえげつない量食ってる奴後ろにいますけど?ww」「いや全部食うんかいwwww」と内心ツッコみまくっている。


 ギャグとはすなわちこれである。ツッコミ所を作る、と書いたが、このツッコミをしているのはまずその作品を見ている「読者、視聴者」である。別段、作中のキャラクターがツッコミをせずとも成立するのだ。

 他方、日本の漫才によくよく見られるツッコミは非常に良い手段だ。そこがツッコミ所なのだとテンポよく明示することで、見ている人の心を操作できる。ツッコミがあるからこそギャグが映えるというのは真理であろう。


 ちなみにだが、ウマ娘のこの一連のギャグの素晴らしいところは、作中で時間を取っていないことである。

 大概の作品では、ギャグシーンと言うのはそこで多少の時間を取ることが多い。銀魂などはわかりやすく、「オイオイオイ」「死ぬわアイツ」と発言させることでわずか数秒であっても本編の内容に割り込んでしまう。

 しかしオグリキャップの一連の流れは、まさしく「背景で流れているだけ」なのだ。彼女について一切の時間を取る事は無く、それでいて効果的にギャグを演出している。そのため本編の内容を阻害することは一切なく、例え彼女で笑えなくとも物語を邪魔することが無いし、何より本編進行のテンポが良くなる。



 またオグリキャップの一幕で言えば、もうひとつわかりやすいギャグシーンがある。



 オグリキャップがわんこそば千杯を食べるというシーンである。これからチャレンジが始まるという中、堂々と登場したオグリキャップは既に何かしら食事をしており、なんとお腹が少し(ウマ娘比)出てしまっている。オグリキャップはこれに対し、「ウォーミングアップに食べてきた」と謎理論を展開している。


 発想が常人の逆、と作中でもツッコまれていたが。このシーンで特に重要なのは、オグリの「ウォーミングアップに食べてきた」という発言であろう。

 冒頭にてわざわざ鍵括弧を用いて【「ちょっと」ズレた】、と表記したのはこのシーンの考察を行いたかったが故である。


 考えて欲しい。当たり前だが、大食いをこれから行うというのなら、当然すべきは「胃の内容量を減らすこと」である。

 しかしオグリはそれを敢えてせず、むしろ何かを食べてから会場にやってきている。しかしだが、単にこれだけを見れば実のところそう面白いとは言えない。

 ではなぜこのシーンがアレほどまでに面白いのか。それは間違いなくだが、オグリの発言に理由がある。


 例えばだが。堂々と会場に現れたオグリが腹を出していて、そこで彼女が言った言葉が「我慢できなくてつい」だとしたら、どうだろうか。

 正直「うん」という感じだ。しかし実際のオグリの発言は、「ウォーミングアップに食べてきた」なのだ。

 いやいや。確かに、試合前にウォーミングアップで走ったりして体を温めることは大事だが。大食いの前に飲食をすることを「ウォーミングアップ」と表現するのは違うだろう。

 しかしとは言え、「走る前に少し走り込みをする」というのと、「食べる前に少し食べておく」というのはまあ字面を見れば近しい概念ではある。故にオグリは「ウォーミングアップ」と表現したのであろうが。


 つまるところ、重要なのはここだ。確かにオグリはズレた発言をしているが、一方で、何かしらの関連性はあるのだ。

 所謂、「うまいことを言う」という奴だ。ウマ娘なだけに。

 加えてこの発言から余裕の雰囲気(と天然な様子)が伝わりキャラ付けとしても非常に良い。脚本家は相当に優秀であると諸手で賛辞を送りたい。



 これが例えばだが、『とある学生と校長のやり取り』をテーマに漫才をしたとして、突然校長役が白鳥の頭の付いたフリフリのスカートと全身タイツ着用でのそのそと現れたらもう笑う笑わないの話ではない。ただただ困惑する。そして『で?』と言う感情になってしまう。

 そうして会話の流れも作らないままに変なことばかりを言っても『で?』となってしまう。かくして高校時代の私は文化祭で大滑りをしてしまったのだ。


 世間で一発屋と呼ばれる人々の大きな特徴もこれで、偶然当たったネタを擦ることしか出来ないのだ。しかしその当たりを何発も出せるほどのアイデア力があるのならそれで良いが、多くはそうはならない。適格に流れを把握し、テンポ良く適切なネタを仕込まなければ笑いというのは生まれない。



 ウマ娘のオグリキャップのわんこそばはそうした問題を解決するための大層な参考になると私は思う。ひとつひとつのシーンを『面白い』で済ませず、『なぜ面白いのか』を考えることで一歩進むことができるのだ。



 ただしゴールドシップ、テメーはダメだ。マジで何やってるかわからないのに面白いのなんなんだお前。

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― 新着の感想 ―
[一言]  大食いのひとが 「ちょっと食べておかないと胃が吃驚して全然食べられない! なにも食べずにやってくるなど愚の骨頂!」  っていってました!
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