第十五話 エコえこ①
散り始めた桜の花びら
掃除の人、大変だろうなと感じる
学校生活にまだ馴染めていない
4月上旬、新規部活動申請直後
元文芸部部室にその人物は訪れた。
「一年、丘 流人なるふざけた名前の者はいるか。」
ノックも無しに扉は開かれ
開口一番でそれだ。
入皆も真黒井さんも
まだ来ていないコトもあり
僕は脊髄反射で定番の返しをしてしまった。
「ふざけてなどいない。
丘は先祖代々受け継がれた立派な姓だ。
流人は尊敬する両親が
僕に命の次に与えてくれた名前だ。
僕はこの両方に誇りを持って生きて来たし
これからも決して変わる事は無い。
もう一度言う
僕はふざけてなどいない。
この名を侮辱する者には
例え相手が誰であろうと
誠心誠意、徹底抗戦し考えを改めてもらう。
この件に関しては丘一族の先祖の英霊が
そのスピリチュアルパワーで
僕をどんな苦難にも立ち向かえる
バーサーカーにしてくれるだろう。
骨が折れようと肉が裂けようと
僕は止まらない。
自らは名乗りもしない無礼者よ。
初める前に
この事を踏まえた上で
さっきの言葉をもう一度言ってくれ
冗談であるなら
今即取り消す事を希望する。
ああ
英霊が来る・・・3・・・2・・・。」
からかう相手のタイプ別に
対処法は色々あるが
真面目で頭の良さそうな相手には
この対応が一番だ。
冷静に殺気立つ
この定番のポイントだ。
声変わりも終わった今では
以前より迫力が増しているコトだろう。
「済まなかった!!許してくれ!!」
珍客は僕と背丈が同じくらい
当然、女子では高い方だ。
彼女は空手家が氷のブロックを
頭突きで割る様なアクションで
入って来た時以上の大声で謝罪を始めた。
僕以上の殺気だ。
しかもその殺気は相手に対してでは無く
自分自身に向かっている。
思わず心配になる。
殺気だけでなく
セリフも僕以上に長くなりそうだ。
これは早目に止めた方が良い。
僕は彼女の謝罪に無理やり割って入った。
「冗談なら、それで良いんです。
謝罪を快諾します。この件はお終いです。」
「え英霊さまは・・・。」
僕も会ったコトは無い。
「去りました。」
と言うか来てくれた事は一度もない。
もしかしたら来てくれているのかもしれないが
僕には霊感というモノが皆無なので
分かっていないだけかも知れない。
「そ、そうか・・・。」
ホッとした様子だ。
信じたのか
僕よりこの部に向いているんじゃないだろうか。
深呼吸した彼女は
通常モードに戻り自己紹介を始めた。
「仕切り直しだ。私は・・・・。」
3年の女子で
何と生徒会長だった。
黒髪のストレートロングで
凛々しい顔立ちだ。
声も女性にしては低め
宝塚なら
間違い無く付け髭する役をやりそうだ。
実直
この言葉を人族女性に変換すると
この人になる気がする。
そうなると冒頭の暴走が引っかかる。
「会って数分ですが
あなたは真面目で誠意のある人だと感じます。
冒頭の暴言は会長の言葉とはとても思えません。」
「あ・・・アレはだな。その・・・。」
少し頬を紅潮させ
会長は語り出した。
「人との円滑なコミュニケーション。
それに大きな力となるジョークがある。」
一見すると喧嘩でもしているのかと
思う程の罵詈雑言だが
それが笑顔でとても楽しく続いている。
この学校内でも良く見かけるそうだ。
「私はジョークが得意では・・・
いや、ハッキリ言おう
今まで言った事が無く
習得の為の練習中でな・・・。」
そう言うコミュニケーションに
憧れすら感じているそうだ。
冒頭の暴言も
ジョークの習得の為という事だそうだ。
はぁ
こっちもハッキリ言って置こう
「会長には向いていません。
止める事を推奨します。」
「ぐっ・・・しかしだな。」
同じ事を周囲にも言われている・・・
に決まっているな。
僕は言葉を続けた。
「海を渡るのに魚は泳ぐし鳥は飛びます。
どれも正解です。
泳ぐことが正しいのでも
飛ぶ事が正しいのでもありません。
それぞれ適切な手段があると思います。
冗談が言えない?
良いじゃないですか
この人の言葉は100%真実
そんな信頼、得ようと思っても
中々得られるモノではありません。
逆に羨ましいですよ。」
「丘1年・・・・。」
少しだけ目を見開いている会長。
「そうか、しかし飛び魚になってはいけないだろうか
飛んで見たいというのも事実なのだ。」
所説あるが
あれは飛びたかったと言うよりは
鮫から少しでも逃げたい逃避なのだが
そして
飛んだ瞬間、カモメにパクリというオチ。
釣り船のオッサンに直撃などという不幸もあるらしい。
「そうですか。
相互理解の上
練習相手をキチンと選定した方が良いと思いますよ。」
その後
何故か僕が練習相手に選定された。
まぁ美人と話せるなら
何でもいいので了承してしまった。
「有意義だった。では失礼する。」
爽やかな笑顔で退室していく会長。
「違ーうっ!!」
閉まった扉がすぐに開き
会長は叫んだ。
「ですよね。
僕が相手の用事
当初の目的があったはずですよね。」
「知っていながら何故、私の退室を止めない。」
この人
マイペース過ぎる。
ブックマークやポイントでテンション上がります。
どうかお願いします~。