5、できれば真っ当な人間でありたい
新しいお茶をいれたところで、ひと息ついた藤乃は寛いだ様子で口を開く。
「作戦会議といっても、今やれることは限られているのだが」
「さすが藤乃。進むべき道は見えているんだね!」
「お前の両側にいる存在も、後ろにいるのも私には視えていたからな」
「なんですと!?」
正座している私の両脇を陣取っている御二方も驚いているみたい。
え? ずっと? そしてこの二人以外にもいるの?
キョロキョロ見回すけれど、イケオジ以外は視えない。これは一体……。
「出会った頃から視えていたぞ。だからイケオジたちもいわゆる『守護霊様』というやつだと思っていたが……もっとやっかいなものだったか」
「やっかいなもの? 守護霊って良いものじゃないの?」
「人ならざるものは、それでしかない。良し悪しを判断するのは人間だ。結局は自分にとって有益かどうかということになる」
「それって……なんか嫌だな」
「そう思うなら、それでいい。だからこそ、これらが側にいるのだろう」
今回だけじゃない。出会ってから、藤乃の言っていることを理解できないことが多くある。
でも私は深く考えないタイプで、その時その時の感じたままを伝えてきた。
「御二方は、善きイケオジだと思う」
「そうか」
微笑む藤乃。
そして私の両脇にいるイケオジたちが交互にヨシヨシしてくれる。えへへ。
『ありがとうな、彩綾』
『ずっと側にいますからね』
赤ちゃんの頃から見守っていてくれていたという、御二方には感謝だね。
「じゃ、めでたくまとまったところで私は帰る」
「ちょっと待ったー!!」
慌てて藤乃の足にしがみつく私。まだ帰ってもらっては困る。
「このままじゃ困るよ!! 毎日イケオジから愛でられる人生も悪くないけど、このままじゃ私お嫁に行けないよー!! あと他にもいるっていうのが気になるよー!!」
「いいじゃないか。イケオジたちに愛されていれば」
「私は、ごく普通の結婚して、ごく普通に家庭を築き、ごく普通に子どもを育てていきたいのー!!」
『なんだ。彩綾は子が欲しいのか』
『それはどうにかしないとですね……子作りですか……』
いや私が悩んでいるの、御二方が原因ですからね!? あとギンセイさんの言葉が不穏なので、それ以上はやめてもろて!!
「知り合いがいれば、何とかなるかもしれんが……」
「なんとか連絡をとってくださいよ!! 藤乃様!!」
「連絡はとっているのだが、この件に対して、やけに腰が重くてな」
藤乃の整っている横顔を見て、なぜか学生時代を思い出す。
昔の彼女はモテていた。ヤバいくらいにモテていたのだけど、一度も恋人を作っていなかったっけ。
まぁ、女子校だったから、告白する子たち全員女子だったけどさ。
「で、その人がいたら、どうにかなるの?」
「そうだな。大体のことは何とかなるぞ」
「引き続きよろしくお願いします」
あとやたら広くなったこの部屋、元のワンルームに戻りますか? アパートの管理会社から怒られないといいなぁ……。
平日は仕事をして、藤乃からの提案を土日にこなすことにした。
出来ること、その一。
願いを叶えてもらった神社で酒盛りをする。(良い子は真似しないでください)
「来ないなぁ……おじいちゃん」
『そうそう来ないだろ。あん時は祝い事の後だったのもあったしなぁ』
『あ、このお酒美味しいですね。どこのお酒ですか?』
『高知ってあるぞ』
『この国は各地に美味しいお酒がありますよね』
御二方は日本酒だけじゃなく、お酒ならなんでもいけるみたい。
私は日本酒特化型だから、近所の酒屋さんに取り寄せてもらってたりするけど、普通はここまでやる人は少ないだろうなぁ。
『んで? これがダメならどうするんだ?』
『私たちの起源を探るみたいですよ』
うう、どうにかしようと思っている、その元凶の方々に色々と作戦が漏れている件。
しょうがない。だって私に関することは、御二方に全部筒抜けなんだもん。
頬を膨らませている私に、アカガネさんは少し垂れた目を細めて微笑む。
『いいじゃねぇか。離れてやることはできねぇけど、彩綾が俺らを知ろうとしてくれてるのは嬉しいからな』
するとギンセイさんも切れ長の目に色気を滲ませる。
『隠すことでもないから、何でも見ていいですよ。ほらどうぞ、さぁどうぞ』
「いや脱がないでください」
『なんだよ、ギンセイだけじゃなく俺のも見ろよ』
「いやだから脱がないでください」
イケオジたちのお色気ムンムンなお肌を見せつけられたら、鼻血どころか色々な汁が出ちゃいそうなのでやめてもろて。(動悸、息切れ)
ところで、御二方のルーツってどこなんだろう?
「御二方とも名前がなかったし、やっぱり妖怪みたいなものなのかな? 狸とか狐みたいな……」
『んなわきゃねぇだろ。あとその並びだと狸は俺か? 俺なのか?』
『ふふ、元人間ですよ……一応』
「元人間!?」
アカガネさん、狸っぽいと思ったけどダメなの? かわいいと思うけど。
そして狐っぽい枠のギンセイさんはクスクス笑っている。
『彩綾が可愛がってくれるなら狸になってやろうか?』
『系列が違うから、少し大変だけど頑張ります』
「いやいやそれは置いといてもろて……元人間って、どこの人だったんですか?」
『さぁ、何だろうなぁ』
『アカガネ、意地悪をするものじゃないですよ』
ニヤニヤしているアカガネさんを、ギンセイさんが軽く注意しているけれど。
「やっぱり教えてくれないのかぁ……」
『彩綾が知ろうとするなら、そう動くと思いますよ。試してみてください』
「動く?」
なんですかそれ???
そろそろ酔いが回ってきて、いい気持ちになってきておりますれば。
調べものなら図書館かな……。
『わかってんじゃねぇか』
よし、明日は図書館に行こうっと……。
なんか急に……眠い……。
『ああ、やっぱり来ましたか。彩綾は寝てしまいましたが』
『おやすみ』
ん。
おやすみなさい。
お読みいただき、ありがとうございます。
明日もがんばりたいです。←