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青と赤はいいところを見せたい

前半ギンセイさん、後半アカガネさん視点です。


 現世うつしよから異界へ引きずり込まれた彩綾は、その衝撃で意識を失っていた。

 すぐに目覚めると思うが、界を越えるだけで彩綾に負荷がかかるということは……。


「今世のは、かなり弱いな」


「まさか、ここまでとは……」


 いつも明るく、自信満々のアカガネが苦い顔をしているのは珍しい。それだけ彩綾を思っているのは分かる。

 私たちは二つであり、一つ。同じとして違うモノなのだから。


 生きている人間、誰もが必ず「命題」というものを持っている。

 人それぞれ違う「命題」を持って生まれてくるのだ。

 中でも彩綾は「異界に関わる命題」を持って生まれてきたはず、なのだが……。


 穏やかな表情で寝ている彩綾を見守りながら、今後の算段をつけるために鬼たちを使うことを決意する。

 なにせ我らは「名前」で縛られているのだ。理において彩綾から離れることはできない。


「前の地よりもここは不安定だな。負荷もかかる……か」


「きゅぅ?」


「私たちが動けるということは、彩綾の魂が適応できていないということでしょう」


「きゅぅー」


 先ほどより、アカガネの頭から妙な鳴き声が聞こえてくるのだが。


「ついて来ちまったな」


「きゅぅぅ♪」


 彼の黒髪の隙間から見えるのは、金色の毛玉こと神獣の「コンちゃん」だ。

 どうやら異界に来たことで、私たちの場所を突き止めたらしい。わりと能力の高い毛玉であることが判明し、何かと使えそうで良かった。


 しばらくして目覚めた彩綾に事情を説明していると、風の揺らぎを感じる。

 アカガネに目で合図を送れば、心得たとばかりに刀を手に持つ。もちろん私も着流しを身につけて戦闘態勢をとった。


 アカガネが刀を振るい、私は横抱きにした彩綾を木の上へと避難させる。

 私たちと一緒に毛玉がついて来たのは、アカガネが大立ち回りをしているのと、彩綾を守れと指示されたからか。


 本来なら、管理する側であった私たちに襲いかかることはない。彩綾以外の人間であったとしても、この地を守る神獣が理性をなくすというのは有り得ないことだ。

 白く長いものを相手していたアカガネは、辛うじてそれを傷つけずに収めることに成功していた。

 アカガネが制した白いものは、この地一帯を守っている神獣の末端・・だと思われる。

 咄嗟に木の上に彩綾を退避させたのはいいが、この後にくるモノについて彼一人では手に余ることは分かっていた。

 まだ幼いとはいえ、ここに神獣の子がいるのは運が良かった。名付け主を守るだけならば、この毛玉にも可能だろう。


「もう少し、ここで待っていてください」


「え? ここで?」


「大丈夫。神獣の子がいますから、落ちることはないですよ」


「きゅぅー!」


 彩綾の腕の中で元気よく鳴く毛玉。きっと「任せておけ」と言っているのだと思う。

 アカガネなら深く理解できるだろうが、今は新たに増えていく白いモノの相手で手一杯のようだ。


「ギンセイさん……気をつけて」


「すぐに戻ります」


 不安そうな彩綾に気づいたアカガネに気合が入ったのに気づき、思わず頬がゆるむ。

 最近、運動不足気味だったから、ちょうどいいだろう。


 私たち二人が、本気を出す頃合いに。







 ああ、もう泣かせたくないと思っていたのに。


「まだですよ」


「そうだな」


 そうだ。まだ泣いていなかった。

 今世の彩綾は弱いが、驚くほど心は強いからな。


「速攻で」


「へぇ……了解っと」


 いつになくギンセイが急いているのは、彩綾が心配しているからだろう。

 誰かに心配されるという、どこかくすぐったいような感覚は未だに慣れないんだよな……。


「ま、悪くはないけど」


 投げ渡された槍を手に取り、己の刀をギンセイに投げ渡すのが始まりの合図だ。

 混じり合うお互いの「気」を練り上げ、迫り来るモノを迎え撃つ。


 永きに渡って共にあれば、やがて一つになるものだ。

 しかし、個であることは停滞を招く。


 俺たちは二つだからこそ、常に変化をする。

 俺たちは一つだからこそ、常に不変である。


 向かってくる大量の白いモノを槍で払えば、刀で確実に鎮めていくのはギンセイだ。

 さっきまで俺がやっていた物理的な攻撃とは違い、互いの武器に流す「気の力」で「神を鎮める」のが目的となる。


「祓い給え」


「清め給え」


 同時に荒ぶる理由を探っていけば仄かに邪を感じる。

 互いに背中合わせになりながらも、足場を組み替えていく。何度も地面を擦ったことで印を刻んでいくと、やがて辺りがぼんやりと光り出す。


「頃合いですね」


「戻すぞ」


 再び互いの武器を交換し、手に取ったことで歓喜する愛刀を振るえば済んだ音で応えてくれる。

 ああ、やはり刀を振るうのは楽しい。

 それ以上に、あの子を……彩綾を守り、戦えることが嬉しい。


「ここまで乱れていると、他も気になります」


「守りを増強させたいが、鬼たちは入れんからなぁ」


 せめて子狐が戦力になれば……と思うが、まだ無理だな。俺らが格を上げてやるしかないのか……。

 ここにいる神獣の本体を鎮めたら他も安定すると思うが、事はそう簡単にいかない予感がする。これ絶対、面倒なやつだ。


「ギンセイ、任せる」


「逃しませんよ」


「彩綾の手料理」


「作ってもらいましょう」


 しょうがない。俺らのやる気を出すために、彩綾に頑張ってもらうことにしよう。




 さてと。

 末端は封じたことだし、木の上のお姫様を迎えに行くとしますか。





お読みいただき、ありがとうございます。

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