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2、棚からイケオジは栄養過多です


 仕事のある日は、目の前のことに集中できるから心が平穏だ。

 しかし、プライベートな時間では、まったく心落ち着かないのが現状である。


 イケオジは、私にしか見えないらしい。

 たまに半透明になる彼らが人間じゃないとは、状況的にも理解はできているつもりだ。                         

 それでも実際、外に出て周りの人たちの反応から「やっぱりそっち系なのか……」と現実?を突きつけられた気持ちになった。


 そっち系の人たちを見たら、気づかなかったフリをして普段通りの生活を送るようにって、心の友は言っていたけど……さすがに何日もご滞在されてしまうと……。


「なるほど。それで急に会いたいと連絡してきたのか」


「忙しいのは分かっているけど」


「いや、遅すぎるくらいだ。ここまでよく我慢できたな」


 土曜の昼下がり、いつもの喫茶店でテラス席を陣取り、私はちびちびとカフェラテを飲んでいる。

 対して友人、藤乃ふじのは優雅にアイスティーをストローで飲んでいる。私もアイスにすればよかったなぁ……って、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 藤乃はサングラスをしていて、どこへ視線を向けているかわからないけれど、たぶん彼女は私の後ろを「視て」いるのだろう。

 昔から変わらない藤乃の口調は、いつも私に安心感を与えてくれる。一見冷たいように見えるけど彼女は優しい人間だ。


 あの日のこと……同僚の結婚式が終わってからのことを藤乃に話すと、サングラスをかけているはずの彼女が呆れた目をしているのが分かってしまう。

 うん。そうだよね。

 いくら酔っ払っているからって、神社で酒盛りはさすがに無いよね。


「前に何かが見えてしまった時は、気にしないで生活したほうがいいっていうの思い出してさ。でもさすがに難しくって」


「そりゃそうだろう」


「しばらくしたら消えるかと思ったけど、なかなか消えなくて」


「だろうな」


 こくりと頷いた藤乃は、頭に手をやると短い髪をわしゃわしゃ掻き回す。普段は冷静な彼女なのに、珍しく焦っているみたい。

 え、そんなにヤバい状況なの?


「やっぱり、そっち系のヤバいやつだったりする?」


「そっち系よりも、視えるようになる前の話がヤバい」


「神社で酒盛り?」


「それもヤバいが、一緒に飲んだ御方のことだ」


「え? なんか優しそうなお爺ちゃんっぽい人だったけど……」


 あの近辺にいる「そっち系の人」かと思ったけど、目の前の彼女は無言で首を横に振る。


「それ、神様だ。彩綾の近所の神社といえばあの系列だろうが……まさかあの御方が出てくるとは……」


「神様?」


「つまり、神様に直接酒を奉納し、神様に直接願いを叶えてもらったってことになる」


「……マジですか」


 確かに好みのイケオジと出逢いたいって言ったけど、こういうことじゃないのよ。

 できれば「そっち系の人」じゃなくて「リアルの人」がいいのよ。


 ところで友人は知識が深いわけじゃなく、ただ視えるらしい。

 学生時代も「勉強しなくても視えるから特に歴史のテストは苦労する。教科書と違うものが大量に視えてくるんだ」などと言っていた。あの頃はだた羨ましかったけれど、今この状況になって少しだけ気持ちが分かる。

 確かにこれは苦労するよ……。


「理想のイケオジを眺めていたいと言ったんだよな? 彩綾の後ろにちょうどいいのがいたから、それを視えるように目を良くしたってところか」


「えっ、マジすか……。これからどうすればいいの?」


 半泣き状態の私に、友人は苦笑する。


「そう邪険にするな。イケオジたちも彩綾が生まれた時からずっと見守ってくれていたんだ」


「守護霊なの?」


「その言い方は正しくない。イケオジたちは神のような存在だからな」


「えーっ!?」


 驚く私に向けて、さらに藤乃は追い討ちをかける。


「それに、イケオジたちは彩綾が視えるようになったと気づいているぞ」


「えーっ!?!?」


 思わず振り返ると、別テーブルでのんびりくつろぐイケオジたちがいた。

 彼らの様子は、ここ最近見ていたものと同じで、特に変わった様子はないようだけど。


「視えない時の彩綾は、あのイケオジたちがいつもベッタリでな。彩綾が何かするたびに褒めるし頭を撫でるしデロッデロに甘やかしていたぞ。正直見るに耐えられなかった」


「えーっ!?!?!?」


 やだ何それ恥ずかしい!! 

 ていうか、藤乃がいつも私から目をそらすのって、イケオジたちのせいだったのね!! 何だかとっても申し訳ない気持ちになるよ!!


 そ、それ(甘やかし)は置いとくとして、だ。


「でもさ、その事と私が視えるようになったのが関係あるの?」


「大有りだろう。いつもくっついて甘やかしている『モノたち』が離れているんだぞ? 彩綾に気をつかっているとしか考えられないだろうが」


「あ、そ、そうか」


 それ(甘やかし)は置いておけなかった件。


 つまり、いつも藤乃の見ていた風景ではない私の現状から見れば、イケオジたちに私が「視える」ようになったということがバレているということか。

 なるほどねぇ……って、それってどうなっちゃうの!?


「諦めて受け入れるか、視える力を失くす方法を探すかだな」


「後者でお願いします」


「伝手を辿ってみる」


「ありがとう……助かる……」


 こうして頼れる友人から、紙に書いたいくつかの注意事項を渡される。

 スマホで画像を撮っておくように言われて首を傾げると「失くしそうだから」とのこと。

 うん、確かにこういうのどこにいったか分からなくなるタイプです。細やかな心づかいをありがとう。今回の件だけじゃなく、常日頃の行いについて猛省します。

 

 とりあえず、今日は家に帰ろう。




 そして、じっくりと話し合うことにしよう。


お読みいただき、ありがとうございます。

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