22、温泉といえばラッキーなんちゃらだったりする
温泉のマークについては最初はただの黒い点だと思っていて、藤乃からの指摘で気づいたものだったりする。
藤乃サマサマでございます。拝んでおこう。
脱衣所の入り口は男性、女性、その他に分かれている。
イケオジな御二方は「男性」の入り口から、モフモフさんたちは「その他」に入っていく。もちろん私は「女性」に入りますよ。ええ。
体の大きいモフモフ山さんがどうするのかと思っていたら、「にゅるん」と吸い込まれるように入っていったのが面白い。
おそるおそる脱衣所に入ると、案内板がある。
貸し出し用のタオル、ボディソープやシャンプーなどもセットで置いてあって、ひとりひとつ持ち帰りOKと書いてある。
何よりも嬉しいのが、着ている服を預けるとクリーニングしてくれるらしい。一刻ほどかかるってあるけど、一時間くらいだと思えばいいかな?
せっかくだから利用しようそうしよう。
貸し出し用の浴衣もあるから、それを着て待っていればいいよね。
「わぁ……すごい……」
お風呂は露天のみで、洗い場が狭いわりには湯船が広い。
いや、広すぎるよ。これ池? 沼?
「あ、そうか」
慌てて脱衣所に戻って、貸し出し自由の「湯文字」を手に取る。
なんかあまりにも広すぎて、外に繋がっている感じだから危険だ。うっかり入ってきた人に全裸を見られてしまうかもしれない。
ちゃちゃっと体を洗った私は湯文字を身につけ、いざ温泉へ。
岩風呂といった感じになっているところから、深くなるにつれ感触が変わってくる。
「あまり奥に行かない方がいいかも」
「キュゥー!」
奥の方からコンちゃんの鳴き声が聞こえてくる。
親のほうは鳴かないから分からないけど、たぶん一緒にいるんだろうな。
「なんか、湯けむりがすごすぎるんですけど」
その証拠に、奥にいるモフモフたちがまったく見えないではないか。
某動物園で温泉につかるカピバラに癒された私としては、ぜひともモフモフたちを見たい。
いや、ちょっと待って。
「入口が別々だったのに、なんで同じところにいるの……?」
その時、フワッと吹く風を感じた私が振り返って見たものは、とてつもなく仕上がった肉体を惜しげもなく晒した御二方。
艶めく筋肉をつたう水滴が、なんともいえない色香をガンガンに出していて……。
「ひぇっ!?」
思わず自分の体を押さえると、布の手触りにホッとする。
いつもやらかす私が、奇跡的に湯文字を着ていた件! これはファインプレーすぎるのではなかろうか!(自画自賛)
冷静(当社比)になった私は、御二方をチラチラ見ながら状況を確認する。チラチラ見てしまうのは位置確認のためですが何か!? 何か!?!?(冷静、とは)
「ちょ、ちょっと! なんで御二方が!? こ、ここ、混浴だったのナンデ!?」
「落ち着いてください。今、衝立を戻しますから」
「大丈夫だ。彩綾を見てはいない」
それならばよし! ちょっと複雑な気持ちになるのは何でだろう!
ギンセイさんが衝立を作ってくれたことにより、身を隠せたことにホッとしていると、湯けむりの中でモフモフ山が申し訳なさそうに項垂れている。
どうやら湯に入る時、勢いあまって衝立を壊してしまったらしい。
「もう! コンちゃんママ! 壊したらダメでしょ!」
「…………」
うん。反省しているモフモフ、かわいいから許す。
せっかくだからモフモフ(大小)と一緒に、心ゆくまで温泉を楽しむことにした。
お揃いの浴衣を身につけた私たち三人は、なぜか用意されていた冷たいお茶を飲みながら涼んでいる。
脱衣所の横に併設されていた休憩所は、いくつかスペースが区切られていて、畳とクッションが置かれていた。
なんだろう。この至れり尽くせり感。
「あー、まぁ、管理局のお偉方用ってやつだろ」
「彩綾の好きな果物入りのゼリーがありますよ」
「あ! 白桃入りだ!」
すると膝に乗っているコンちゃんも反応して、鼻をぴくぴく動かす。同じく、窓から見えるモフモフ山の耳もピクピク動いているのが面白い。
キュゥキュゥ鳴いて欲しがるコンちゃん、かわいいけれど困る。
「甘いのとか、あげてもいいのかな?」
「普通の動物とは違うので大丈夫ですよ」
笑顔で教えてくれるギンセイさんの隣で、仏頂面のアカガネさんが二杯目のお茶を注ぎながらボヤく。
「本来の神獣は『人の食い物なぞいらぬ!』って感じだけどなぁ」
「…………」
外にいるモフモフ山は相変わらずの無言?だ。
窓から白桃ゼリーを乗せた手を出すと、ペロンと舐めて目を細めた。やっぱりかわいい。連れて帰りたい。
「ダメだからな」
「子はともかく、親はこの地にいてもらわないと」
御二方から同時にツッコミを入れられてしまう。
いやいや分かってますって。私だって成長しているんだからね。
「わかってるもん。また来ればいいんだもん」
「ぜんぜん分かってねぇな!」
「異界のことを、少し離れたところに住んでいる親戚の家みたいに言いますね」
親戚……!?
そ、そんなことないもん!!
「いいよ。お前がそうやって笑えているなら」
「彩綾が望むなら、また来ましょうね」
こうやっていつも御二方は私を甘やかす。
私の親よりも過保護な保護者といった感じで、なんだかくすぐったい気持ちになるんだ。
そういえば御二方は、ずっと私を見守っていたとか。前に藤乃が言っていたのを思い出す。
「生まれた時から甘やかされていた!?」
「そうですね。彩綾が赤子の頃、アカガネは頬をつついて泣かせていましたよ」
「うるせぇ。お前だって七五三の着物は絶対に赤だって文句言ってたじゃねぇか」
「……赤?」
夢にみた赤い着物には、金糸銀糸が織り込まれていて……花と……鞠と……。
「彩綾の親御さんが、親戚から借りた着物も、悪いものではなかったと思いますよ」
「さんざん文句言ってたくせに」
「愛らしい彩綾には、どの色の着物でも似合いますからね」
そう言って私を見て微笑むギンセイさんに、私は夢から覚めたような気分になる。
今のは、何だったんだろう?
「キュゥ?」
白桃ゼリーの追加をねだるコンちゃんのかわいさは至高。モフモフ万歳。
そこで追加の甘味が投入され、もう少しだけ宴は続くのでした。まる。
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