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16、過去よりも今を生きよう


「名をつけるということは、現世うつしよに御二方を存在させることになる。だから、本来の力を封じられてしまうのだけど……河野さんは独身でしょう? せめて婚約とか、何かしらの契約が先に結ばれていたらよかったのだけど」


「な、なんですか、それ……」


「つまり、彩綾がやらかしたことによって、イケオジたちが大変なことになっているということだ」


 おっとりと語る氷室さんと、スッパリバッサリと私のメンタルを切っていく藤乃。

 確かにやらかしていたことは認める。でも、まさかこんな大事おおごとになるとは思ってもみなかったのだ。


「もし、私が結婚をすることになると……」


「二重契約という扱いになるのかしらねぇ。重婚みたいなものかしら」


「名前を付けただけで……」


「親が子に名を与えるように、家族と同じ繋がりが出来てしまうかもねぇ」


「ん?」


 氷室さんの言い方に、少し引っかかりを感じる。


「ちょっと待ってください。名前を付けた時、同じ状況にならない時もあるってことですか?」


「もちろんよ。全てがそうだったら、ペットに名前をつけることも出来なくなるでしょう」


「やらかした彩綾も悪いが、そっちのイケオジどもも便乗してやらかしているってことだ」


 楽しげに笑っている氷室さんと、呆れ顔がデフォになっている藤乃。

 これはもしやと思って後ろを見れば、なぜか御二方とも頬を染めている。中年の色香がダダ漏れているので、それちょっと引っ込めてもらえませんかね?


『嬉しくて、つい生涯共にいると誓ってしまいました……』


『家族になろうと言われたようなもんだから、つい、なぁ……』


 御二方とも軽率に「つい」重いことをやり過ぎじゃなかろうか。

 しかも自分たちの力が封じられたり、良くないことが起こるのが分かっていたくせに私と繋がりを強くするなんて……。


「なんで、そんなことしたの」


『気にしないで……と言っても気にするでしょうけれど、ただ私たちは彩綾の側にいたかっただけなのです』


『彩綾が望むなら、嫁にいくのを反対はしない。つい相手を半殺しにするかもしれねぇけど』


「御二方とも不穏なことを言っている!」


 ギンセイさんとアカガネさんが絡むと妙な方向になるので、氷室さんと藤乃から詳しく聞くことにしよう。そうしよう。


 未婚の女性が名付けをすると、結婚して伴侶を得ること、子を産むことで繋がりが薄れてしまう。名字が変わることが多いのも原因としてあるのかも、とのこと。

 ちなみに、男性の場合「家長」であれば、名付けの影響は少ないらしい。

 くそっ! 男も子どもを産めればいいのにっ! 不公平だ!


「繋がりが薄れると、御二方の存在も薄れてしまうの。それはかなりの苦痛を伴うとされているから、きっと河野さんは悲しむと思って」


「当たり前です!」


 危なかった……何も知らずに結婚しちゃって、御二方が大変なことにならなくてよかった。


 でも、氷室さんの心配はありがたいけど、結婚に関して言うならまだまだ大丈夫だと思うんだよね。


「彩綾、大丈夫か?」


「やだなぁ藤乃、もう終わったことだし」


 私は「いつか結婚したい」と思っている。

 普通に結婚して、素敵な旦那様とかわいい子たちに囲まれて生きていきたいと思っている。


 ……いや、思っているというよりも、正しくは願っているのだ。


『彩綾、すみません』


『思い出したくないよな。悪い』


 ああ、そうだった。

 姿は見えなくても、御二方は私の近くにいたから知っているんだっけ。




 誰が悪かったわけじゃない。

 たぶん、私が子どもすぎたのと、タイミングが悪かったんだと思う。

 結婚というものに憧れるだけで、それから先の未来を見ることをしなかった。

 悲劇のヒロインのように彼から去った私は、悲劇のヒロインらしく自分をずっと責めていた。


 結婚とは、愛する二人がするもの。


 なぜかそう思い込んでいた私は、私と彼を取り巻く家族や親戚の介入に我慢ができなかった。

 自分の思う通りにいくことなんて、社会に出れば滅多にないことだと分かっていたはずなのに。

 あれよあれよという間に進んでいた相手家族と同居の話。

 結婚式のこと、子どものこと、仕事のことまですべて、彼の家族や親戚たちが決めていく。

 彼に言っても「楽じゃないか」と笑っていて、最後には「わがままを言うな」と諭される。

 当初、二人で話し合ったことばすべて否定され、どんどん変わっていく流れに私だけがついていけなかった。


 だから、逃げ出した。




「口では幸せな結婚したいとか子ども欲しいとか言ってるけど、正直、自信がないんだよね。逃げた私が何言ってんだって思っちゃう」


『彩綾だけのせいじゃない』


『あの時は見守るだけでしたが……』


 ションボリ俯いていると、両側からあたたかなもの包み込まれる。


『今はこうして守ってやれる』


『それが嬉しくて、少しだけ悔しいです』


 あの時も、御二方がいてくれたなら……なんて、どうしようもないことを考えてしまう。


『あの時、ひとりで泣いていた彩綾を抱きしめてやりたかった』


『彩綾は、彩綾の好きに生きてください』


 両側からムチムチ筋肉に包まれた私は、それをしっかりと堪能する。

 すりすり、くんかくんか、これぞ至福である。


 うん。

 今の私なら大丈夫だ。


「河野さんたちが絆を確かめ合ったところで、本題に入りましょうか」


「……本題?」


 抱きしめられたり頭を撫でられたりと忙しい私は、穏やかに微笑む氷室さんを見る。

 すると彼女は、テーブルに置いてある私の本を指差した。


「ここに答えがあると言った、鬼がいたでしょう?」

 



お読みいただき、ありがとうございまっする!

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