15、偏差値を高くする方法
「それで恋愛偏差値がマイナスになっている彩綾は、私に泣きついてきたと」
「無理!! もういっぱいいっぱいになってる!!」
「確かに相手が何かしら行動に移しているならば反応できるが、何も言われていないのであれば行動する必要はないだろう」
「うう……そうだよね? そうだよね?」
イケオジとの同居から、そこに鬼たちが加わり、さらには唐突な実体化で心がピョンコピョンコするんじゃよ……。
いつもの喫茶店でアイスミルクティーをすすりながら、親友の藤乃に泣きつく私は鼻をすする。
私だって恋愛っぽいことをしていた時代がある。でも池手くんの件は、今までと違うリアルというか重さというか、そういう流れに対して心が拒否している感じなのだ。
こうなったらもう、ケーキも頼んでしまおうか。チーズケーキかフォンダンショコラか迷うところ。
「だがしかし、煮え切らない態度をしていた彩綾もどうかと思うが」
「うわーん!! 両方頼んでやるー!!」
メニューを涙目で見る私の後ろに、御二方が現れる。
いつもなら気をつかって別テーブルにいるのに、イケオジたち急にどうした???
『彩綾、あの女性と会うことができるか聞いてもらえますか?』
『いくつか聞きたいことがあるんだ』
「あの女性……氷室さんのこと?」
ちょっと前に会った、ほんわりと笑う和服美人を思い出す。
藤乃を見ると、まずいものでも食べたかのような表情をしている。そっちもどうした???
「今から来る」
「……え?」
「今から来るんだよ。ここに」
なにゆえ?
そして二人がけだったはずのテーブルには、気付けば椅子がひとつ追加されている。
『なるほどなぁ、血筋もあるか?』
『それもあるでしょうが……人の身であるのに、だいぶこちら寄りになっているところが気になります』
藤乃が頭を抱えているけれど、この様子だと今回やらかしたのは私じゃないってことになるのでは。
喜ぶところじゃない。でも心の余裕があるって大事だと思う。
「氷室さんは何の用で来るの?」
「渡したいものがあるんだと」
待ち時間はそれほどではなかった。
頼んだケーキを(やけに疲れた様子の)藤乃とシェアしながら片付けたタイミングで、前と変わらず和服で登場する氷室さん。
ふわりとお香の匂いが漂い、場の空気が変わるのが分かる。そして、さっきよりも藤乃の表情がエグくなっていくの、ほんと怖いから落ち着いてもろて。
その顔は女子として危険すぎるから、頑張って元に戻していこう?
「こっちにまで、変な世界を持ってくるな」
「あら、私は河野さんに落とし物を届けにきただけよ?」
テーブルに置かれたのは、以前の私が購入した本だった。
表紙には『おいでよ魔界の地!」とあり……、
「え? これ、氷室さんも買ったんですか?」
「拾ったと言ったでしょう?」
そう言って私の後ろを見て……いや、視ている氷室さんは怪しい笑みを浮かべる。
「河野さんの本だと思うのよ。ほら、ここにレシートが挟まっているでしょう?」
「あ、本当だ……って、なんでそれを氷室さんが……?」
後ろにいるイケオジたちを見ると、バツの悪そうな顔をしている。
ふむ、なるほど。
「この本に『答え』があると、氷室さんに言われたから、隠していたと」
『わるかった』
『彩綾を危険に巻き込みたくなかったのです』
巻き込む、とは何ぞや?
本を開くと日本各地にある『魔界』と呼ばれる場所が地図入りで載っている。
しょんぼりとしているイケオジ御二方に、藤乃が呆れている。
「そんなに落ち込むなら、やらなきゃよかっただろうに」
『その本に記されている場所は、俺らでも気軽に行けない場所だ』
『彩綾の安全のためです』
「その安全で、本当に彩綾を守れると思っているのか?」
藤乃の言葉に、アカガネさんは舌打ちして、ギンセイさんは眉間にシワを寄せる。
確かに色々あったけど、鬼さんたちが来たおかげで偏頭痛とか肩こりは減ったし、会社でひと波乱あったけど大丈夫っぽかったし……。
「甘い顔をしていたらダメだ。彩綾はもっと怒っていい」
「でも、御二方とも優しいし……」
「そりゃそうだろう。なんか知らんが、生まれてから親よりも長く側にいるんだから」
「なんでだろ?」
「知らん。聞いてみればいい」
私たちのやり取りを、氷室さんはずっと笑顔で見ているだけだ。
そういえばこの人、わざわざここに来たのって、本を渡すためだけなの?
「藤乃さん、そろそろ本題に入っていいかしら?」
「……私は反対だ」
「それでもこのままにしていたら、大変なことになるでしょう?」
「……」
渋い顔で黙り込む藤乃の横で、氷室さんは困ったように微笑み私を見る。
「そちらの方々が何も言っていないようだから、私から確認させてもらうけれど」
何だろう。
前からも後ろからも、張りつめた空気を感じる。
「河野さんが名前を与えたことによって、御二方と繋がりが強くなったというのは分かるかしら?」
「はい。それは何となく……」
「それと同時に、御二方は力を失う可能性も生まれたということだというのは?」
「失う?」
慌てて後ろを見ると、そっぽを向いている御二方。
こんな大事なことを言わないなんて!! 一体どういうことなの!?
「……イケオジたちを責めるなよ。彩綾のためを思って黙ってたんだろう」
「でも藤乃! 力を失うって大変なことだし!」
「大丈夫だから落ち着け。彩綾が今のまま『恋愛偏差値』が上がらずにいればいいだけなんだから」
「はい?」
私の恋愛偏差値が低いのが、御二方とどう関係あるのさ?
「イケオジたちが力を失う流れはいくつかあるが、その内のひとつに『結婚すること』がある」
は?
はあああああああっ!?
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