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13、用途不明のものは処理に困る

お読みいただき、ありがとうございます。


 現場は混乱カオス状態だった。

 それは日本人ではない体形の美丈夫が二人、さらに言えば色香ダダ漏れのイケオジがいるのが原因だ。

 いつもは「若い男が好き!」と言っている女子たちも醸し出される年上に魅力には抗えないようで、話しかけたそうにソワソワしている。


 しかし、実際に話しかける猛者はいない。


「彩綾、終わったんだろう? そこにいるカンジってのが教えてくれたぞ」


「飲みすぎては……いないようですね。迎えをよこしたので帰りましょうか」


「……ちょっと待って」


 色々と待って。


 現在、御二方は注目の的になっているのですが、お心当たりありますでしょうか?


「ほら、スーツはどうだ? 似合うか?」


「鬼たちが経費で支払ったので、お金の心配はないですよ」


 いや、そういう問題じゃないです。


 聞きたいことがたくさんありすぎるのだけど、この場では何も聞けない。何も出来ない。

 そしてさっきまでギンセイさんに抱きしめられていた私は、続いてアカガネさんに力強く抱きしめられている。むしろ絞められているのに近い。むちむちむぎゅう。


「アカガネ、気持ちはわかりますが彩綾が苦しそうです」


「おっと悪い。大丈夫か?」


「……御二方、外に出ようか」


 ツラ貸せやとばかりに、イケオジ二人を外へと連れ出す。

 店の外に出て、ふと振り返れば呆然とした様子で私を見ている同期の面々がいる。


「が、外国から知り合いが来たので、今日は帰りまーす! お疲れ様でーす!」


「お前、いくらなんでもその言い訳は苦しいぞ?」


 池手くんのツッコミは、聞かなかったことにしたい。(希望)

 何よりも、明日も仕事だという事実が辛すぎるのですが。(白目)




 外に出ると、迎えが来ているという場所へと向かう。

 通り過ぎる人が皆振り返って、私たちを……というか御二方に釘付けとなってしまっている。


 気持ちは分かるよ。

 こんな色香ダダ漏れの人なんて、芸能界にだってなかなかいないもんね。


「あのさ、どうして皆が御二方を見ることができるの?」


「今夜は朔だからな」


「昼は太陽が、夜は月がありますから」


 ふむ。朔っていうのは、新月のことだよね。

 ギンセイさんの言いかただと、新月だけじゃなく日食の時も同じことが起きるのかも。


 ひとり納得して頷いていると、ギンセイさんが「よくできました」と言って撫でてくれる。

 えへへ、ほめられた。


 ……じゃなくて。


「他の人に姿が見えるようになったのは良いとして……」


 まわりに人がいないのを確認した私は、大きく息を吸って、精一杯背伸びをして叫ぶ。


「聞きたいのは、なぜ! わざわざ! 私の会社の人たちの前に姿を見せたのかってことですよ!!」


「虫よけ」


「私たちを見ても彩綾に言いよるならば、見込みがあるほうだと思いまして」


 うん! 意味が分からないよ!


 私の不満そうな表情を見たアカガネさんは、やれやれといった様子で苦笑する。


「現に、いただろうがよ。お前の変化に気づいた奴」


「え? ああ、池手くん? 確かにそうだけど……」


 まさか彼が、あそこまでだとは思わなかった。

 私だって夢見る乙女でもなければ、何も知らない小娘でもない。

 それなりに恋愛のようなものを経験してきたし、男性が私に向けるものだって分かっている。多少は。


「あの男は、以前よりずっと彩綾を見ていましたから」


「……そうだったんだ」


 他の同期からも、ずっと言われていたんだよね。池手くんが私のことを好きなんじゃないかって。

 でも否定してきた。

 彼ならもっと、彼に相応しい子がいるだろうからって。


 考え込む私の頭を、ギンセイさんは慰めるように優しく撫でてくれた。


「彩綾には、彩綾の考えがあってのことだったんでしょう? 人の情のやり取りにおいて、善悪などありませんよ」


「うん。ありがとうギンセイさん」


「ただ、彩綾の気持ちは言葉にしないと伝わらねぇぞ。ちゃんと言ってやれよ」


「わかった。ありがとうアカガネさん」


 でも明日、会社で何を言われるのか分からなくて怖いんですけど。

 二人の行動について怒りたいのに、上手くかわされた感じがすごく悔しい。


 ぐぬぬとなっていると、明るく広い通りに出た。

 タクシーでも呼んだのかなと思っていたら、目の前で黒塗りの高級車が止まるではないか。


 いや、待って。


「まさか迎えって、これ?」


「そうですよ」


「俺らの設定に合わせただけだ。家に帰ったら明日の打ち合わせすんぞ」


「どゆこと?」


 なんでそんな、面倒なことになってるの?

 そもそも私が望んでいないのに、巻き込まれただけのような気がするんですけど。


「彩綾、さっきの店では日本酒が出ていなかったでしょう? 今日はいい魚があるので刺身にして、先日仕込んだイカの一夜干し塩辛を出しましょうか」


「刺身と塩辛!?」


 説明しよう!!

 ギンセイ先生のお手製の塩辛は絶品で、もう市販のものは食べられないと思うくらいの出来なのだ!!


「春酒もあるぞ。時期的に最後だって蔵元が出したやつだ。彩綾が飲みたいって言ってた桃色の酒」


「え!?」


 それって、取り寄せしようとしたけど売り切れで手に入らなかった日本酒では!?

 一体どんな手を使ったんですかアカガネ先生!!


 感動に打ち震えている私を、御二方はさっさと高級車へと押し込む。

 前の座席にいたのは……。


「あれ? 鬼さん?」


『はい、そうですヨ』


『ボクもいましゅ!』


 チャイルドシートから小鬼くんも顔を出す。

 こう見えて彼はギンセイさんたちと同い年くらいなんだよなぁ……と思いながら見ていると、顔がだんだん不機嫌になっていく。


あるじ、やはりこれは子ども用なのでしゅね?』


「仕方がないでしょう。子どもの体なのですから」


 なだめるギンセイさんに対して、小鬼くんは頬をパンパンに膨らませている。たぶんそういうところだと思うよ。

 そうだ。


「アカガネさん、鬼さんのほうは美術館のオブジェが形代かたしろだったよね? 大丈夫なの?」


「あれを作った作家のところに似たようなのがあって、経費で買ったんだ」


「なるほど……って、あの大きさのがうちにあるってこと!?」


「広くしてあるから気にすんな」


 いやいや気になりますし!!


『大丈夫ですヨ。必要なくなれば持ち帰りますかラ』


 それならいいんだけど。




 ……持ち帰って、どうするんだろう?(深まる謎)







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