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赤と黒と金色の記憶

アカガネさん視点です。


 覚えているのは、空と同じ色。

 初めて組んだ時の感想は「こいつと一緒なら空も飛べるんじゃないか」なんていう、本人には絶対に言えない恥ずかしいことだったりする。


 一度だけ、奴と手合わせしたことがあるが、結果は僅差で負けた。

 奴に「俺が槍だったら勝てた」と言ってやれば、確かにそうだと真顔で肯定されてしまった。

 その時、生まれて初めて「戦って勝つ」以外の喜びを知ることができた。これも本人には絶対に言えない恥ずかしいことなのだが。




 戦いだけの人生の俺たちの最後は、もちろん戦いの中だったはずだ。

 しかし、よく分からない存在から「落とされ」て、今は文官のような仕事をしている。


 この世界?で「城」と呼ばれる建物の一室で、紙に埋もれた生活は単調ではあるが、不思議と飽きることなく続けることができていた。

 もしかしたら戦うことを生業とする武官よりも文官のほうが向いているのかも……いや、それはないか。


 今でも暇を見つけて鍛錬し、奴の槍と手合わせしたりもする。

 たまに本気になって地面を荒らしたり、周りの建物を壊したりして怒られるまでが、ここ最近の流れだ。


『これは貴方の配分ですね』


『また俺かよ。最近多くねぇか?』


『そっち系の感情が溜まっているのでしょうか』


『そっち系ってどっち系だよ』

 

 俺たちで六色まで色別に仕分けることができる。それ以外のものが混じっていた場合、別担当に渡していくところまでが仕事だ。

 この紙束は「世界」にあるもので、集計することによって「世界」をどう調整していくのかを「上」が決めるようだ。

 世界とは一つではなく、多種多様にある。しかしながらそれを形作っている「もの」はどれも同じで、それらを分かりやすく色として見れるのが俺らみたいな存在らしい。


『たまにこういうのが増えるよな』


『そうですね。私と貴方が見れば、大概どうにか仕分けられるはずなのに……』


 俺の背後には、うず高く積まれた未処理の紙束がある。

 それらについては俺が最後の確認者だから、これは色がないということになる。


『色付けは上の仕事……というか、上の世界の仕事だろう? 間に合ってないってことか』


『もしくは、他から大量にもたらされた、でしょうか』


 相変わらず状況を見ることに長けているなぁと感心しながらも、前線で戦っている同僚たちがどうなっているのかと考える。

 俺たちは死ぬことはない。だが、何度も倒れることになれば存在が希薄になっていく。

 古参で名の知れた存在なら現世で祀られているから、早々どうにかなるもんじゃないが。


『俺らが出るわけにはいかねぇもんな』


『複数色持つ者の仕事は、他ではどうにも負担がかかりますから……。そういえば、そちらの鬼はどうですか?』


『うちのは、二色目が見えるかどうかってところだな。そっちは?』


『あの子は二色目が見えたようです』


 無表情だった奴の顔が少し柔らかくなる。ちっこくて年下でとはいえ、俺らと同年代の鬼なんだが。

 まぁ、仲がいいのは良いことだ。うちのはすっかり母親みたいに口うるさくなってきたから、少し羨ましい。


 基本、仕事をやっていれば年功序列で補佐が入るようになる。

 俺には「赤」を見る鬼。

 奴には「青」を見る鬼。

 名前は知らんが、俺らの存在にとって名は「縛る」ことになる。迂闊に名付けたり名付けられたりするのは危険だ。

 愛称でも似たような力があるから注意する必要がある。


『二色ずつなら、俺らがここを離れてもいけるか?』


『そうですね。少しの間なら……かなり無理をしてもらうことになりそうですが』


 なぜ今、この確認をしたのかは分からない。

 たまたまとれた休みで現世うつしよに行くから、という理由だったと思う。


 この時は、そう思っていた……はずだ。







 産声と共に、溢れ出す光。

 周りには見えていないだろうが、子の父親らしき男が「嫁にはやらん!」と叫んでいるのに激しく同意した。

 もちろん、隣にいる奴も同じ気持ちなのだろう。見たこともないような蕩けるような表情をしている。

 奴のことは笑えない。俺だって顔が緩んで仕方がないからだ。


 赤子を抱いている女が困ったように笑っている女性は、出産の疲れからか顔色が悪い。


『与えるか』


『与えましょう』


 女性は元々体が弱かったのだろう。しかしこの先は子を守れるよう、しっかりと「気」を回しておこう。

 六色あれば安定するからな。


『運命だな』


『運命ですね』


 透明の箱に入れられた子を、時間を忘れてずっと見入ってしまう。

 俺だけじゃない。奴も同じだ。

 本当の父親よりも父親のような顔をしてやがる。


 俺は、どうだろう。

 ただ愛しさばかりが溢れてくるだけで、どうしたいという気持ちはない。


 今は、だが。


 二人同時に指を差し出すと、子は笑顔で両手を伸ばして掴もうとする。

 どちらかではない。両方だ。


『欲張りさんですね』


『……嫁にはやらん。俺がもらう』


『駄目ですよ。この子にはたくさんの可能性があります』


『百年後は?』


『生を終えて、この子が良しとしたらですよ』


『いいのか?』


『もちろん、私も側にいますが』


『……それは、当たり前だろう』


 ずっと共にいると言ったんだ。

 それは言わなくても分かるだろうと思ったが、改めて誓うために言っておくことにする。








 そして。


『俺らの運命だ。悪いが、しばらく現世うつしよにいる』


『100年ほど休暇をもらいます。何かあれば呼びかけなさい』


『御意』


『かしこまりまちた!』


 後のことは鬼たち任せ、休暇をもぎ取った俺たちは急いで現世へと向かう。

 運命に出会えた。


 なぜ、あの子なのか……それは分からない。

 ただ感じるがままに動くだけだ。


『貴方のことは私がとめます。ですから私のことは貴方がとめてください』


『おう、任せとけ』


 冷静に見えて、奴は俺よりも激しい感情を持っている。

 普段抑えつけているから、なおさらなんだろうな。


 だからこそ。

 俺らの運命は、絶対、誰にも渡さない。


『駄目ですよ?』


『冗談だ』




 ……絶対に、だ。

お読みいただき、ありがとうございます。


次回から主人公視点に戻ります。

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