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10、隙あらば甘くするのやめようか


 疲れ果てた様子の藤乃は、これから仕事ということでタクシーを呼んでいる。

 クライアントがタクシー代もってくれるってことだけど、一体どんな仕事をしているのやら……。


「安心していい。氷室さんと同じような仕事だ」


「まったく安心できません」


「……彩綾を守れよ、イケオジども」


『おう任せておけ』


『言われずとも守りますよ』


「ふん!」


 ツンツンしながらも少しホッとしたような表情だから、相当心配していたみたい。なんだかよく分からないけど、私がやらかしててすみません。


 送迎のタクシーに乗る藤乃を見送り、私たちはのんびりと駅まで歩いて行く。

 氷室さんの話は色々な意味で衝撃的だったけど、自分の気持ちを自覚できて良かったと思う。


 すごく恥ずかしいけれど!

 すごくすごく恥ずかしいけれど!!


『彩綾、少しいいですか?』


「ん? どうしたの?」


 立ち止まったギンセイさんの視線は、駅前にあるショッピングモールへと向かっている。


『少し、探したいものがあるのですが』


「いいよ。ついでに何か食べて行こうか」


 古民家カフェでは飲み物だけだったから、小腹がすいてきたのだ。

 実は「自家製チーズケーキ」が気になっていたのだけど、さすがにあの空気の中で注文する勇気はなかったよ。


 真剣に店を見ていくギンセイさんの後ろで、ウインドウショッピングを楽しむ私と、真剣にビールやワインなどのグラスを物色しているアカガネさん。


「あ、このグラスかわいい」


『いいと思うけどなぁ……これ、経費で落とせねぇかなぁ……』


「鬼さんの感じだと、無理そうでしたね」


 というか、あの鬼さんには頼み事全般が厳しそうだ。

 でも美術館のレストランでは支払い合計がすごいことになっていたけど、涼しげな顔していたよなぁ。

 あのお金、どこから出ているんだろ?


 つらつらと考えながらグラスを見ていると、横にいるアカガネさんがくすりと笑う。


『なぁ、これ、夫婦めおとみたいじゃねぇか?』


「めおっ……!? そ、そんなわけないでしょ!!」


 大声をあげたところで、慌てて口を閉じる。

 あの時の図書館の二の舞だけは避けたい……あの羞恥心は耐え難いものがあったからね……。


『もう大丈夫だって。あん時に繋がりが強くなったから、認識を変える力が使えるようになった』


「あの鬼さんが使ってたやつ?」


『それそれ』


 おお、氷室さんの言っていた「色々と出来るようになる」って、こういうことなのかな? もっとレベルアップしたら、もっとすごいことが……。


 もっとすごいことって、なんだろう?


『お、ギンセイ。探し物は見つかったのか?』


『見つかりました! 彩綾、こっちです!』


「え? え? なに?」


 いつになく強引に手を引っ張っていくギンセイさんに、慌ててついていく私が入ったお店は。


「ベビー用品……子ども用の玩具……?」


『彩綾、これです』


「これって、ミルク飲み人形?」


 よくある小さい子どもが「ごっこ遊び」をするときに、赤ちゃん役として大活躍するような人形だ。すごく可愛いけれど、お値段はあまり可愛くない。

 私も昔はよく遊んでいた。でも、私が持っていた人形は女の子で、これは男の子バージョンだ。


『それがどうしたんだ?』


『申し訳ないのですが、これを買ってもらえないですか? あとでお返ししますので』


「はい?」


 穏やかではあるものの、ギンセイさんもアカガネさんに負けず劣らずイイ身体をしてらっしゃる。

 わりとガタイのいいイケオジが人形遊び(意味深)をしたい……だと?


「何そのご褒美」


『落ち着け彩綾』


『人形遊びはしませんよ?』


 なーんだ。

 じゃあ、どうして人形が欲しいんだろ?


 不思議に思いながらも、めったにないギンセイさんのおねだりが嬉しくて、数秒悩んで即購入を決める。

 そして支払いを済ませた瞬間、袋に入れようとした人形がギンセイさんのほうへ飛んでいった。


 カウンターにいる店員さんは驚いていない。

 つまりこれは……あの時と同じだ。


『うわああああああん!! やっとこっちに来れまぢだああああああ!!』


 そこには青い髪に小さなツノを生やした、とても愛らしいショt……幼児の小鬼さんがいるではないですか!! マジですか!!


 ちなみに、元の人形の大きさよりも、ひとまわりくらい大きいような気がする。

 そしてグシュグシュ泣いている幼児を抱っこしているギンセイさんに、すごくパパみを感じます。ばぶぅ。


『はじめまちて。あるじの代行している者でしゅ』


「よ、よろしくねー?」


 ギンセイさんの腕から抜け出し、くるくるすとんと下に降り立った小鬼さん。

 ペコリと一礼する様子が愛らしすぎて、抱き上げたいのを必死でこらえる。


『こう見えて、彼は私たちと同年代です』


『ちなみに、うちの鬼は俺らの半分くらいの年齢だぞ』


 え!? 小鬼さんはショタオジ!?

 ちょ、あの岩山な鬼さん、この中で若いの!?


『主がお休みとるのは良いのでしゅが、赤いのが現世うつしよに行ったなどと自慢してくるので、羨ましくて何度もアタックちまちた!』


『これが何度も呼びかけてくるので、彩綾に迷惑をかけました……ほら、経費で払っておくのですよ』


『あい!』


 うん。かわいい。(かわいい)


 これはもうしょうがないでしょ。お金も払ってくれるみたいだし……って、この人形うちに持って帰るってこと?


『この形代があれば、いつでもこっちに来れましゅ! ありがとうございましゅ!』


 うん。許す。いつでもおいで。


『おい、この流れ、うちに来るやつじゃねぇか』


『大丈夫ですよ。ちゃんと教育してますから、これは弁えてます』


『ならいいけどな……俺らと彩綾の蜜月を邪魔しなきゃ許す』


 うん。許してないよ。蜜月なんて。




お読みいただき、ありがとうございます。


オッサン幼児は、ショタオジなのか……?

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