最強の頂に立つ者
「……終わりにするだと?」
ロディエスはぼそりと呟いた。
一瞬、聞き間違えたのかと思った。だが、どうやら聞き間違えではないらしい。
ロディエスの視線の先で、漆黒に身を包む少年シドが微笑んでいる。
地上を離れ遥か上空。常人を逸した高みの空で、二人は対峙している。
不滅であるはずの神樹が。不壊特性をもつはずの霊樹が。どういう手品か砕かれた。
氷雪系統の魔法で神樹の理ごと凍結させたのか。または時間系統の魔法で神樹の時を進めたか。あるいはそのどちらでもなく、ロディエスの至れぬ魔法の境地なのか。
「ふふ、ふはは、ふはははははっ! 何を言っている、楽しくなるのはこれからだろうシド!!」
楽しくてたまらない。怖くてたまらない。理解できない現象原理。
かつてこれほど血沸き肉踊る戦いが過去にあったろうか。いや、ない! あってたまるものか!?
「さぁ、もっと戦り合おう! お前の魔法を見せてくれ! 私を楽しませてくれ、シド!!」
だが、感情が沸点を超える勢いで沸き立つロディエスとは正反対に、シドは落ち着いた声音で告げる。
「いいや、終わりさロディエス」
反論など許さぬとばかりに、告げる。
「終わりなんだロディエス」
二人の間には、たしかな温度差が存在していた。
その笑みが示すのは失望か。それとも憐れみか。どちらでもない。ロディエスはよく知っている。
それはロディエスが見てきた者達の浮かべる微笑みのどれとも違う類のもの。それはロディエスが他の者達に向けていた類のもの。
そう、つまりその微笑みが指す意味は―――。
「俺が終わりだっつったら、そこで終わりなんだよ」
圧倒的な強者が弱者に対して抱く寂寥の微笑。
「――――ッ!?」
途端、弾かれるようにロディエスの左腕が吹き飛んだ。
肩から千切れた左腕が、宙を舞う。
「本気でこいよロディエス・アルター。でないと秒で終わるぜ?」
ロディエスは愕然と目を見開いた。
魔王ですら傷一つつけられなかった自動防御魔法と、万一の保険として皮膚の上から覆っている防御スリーブを意図も容易く破られた。しかも様々な効果を付与してある魔導装衣の上から。
「……いいだろう。本気で相手をしてやる!!」
紫紺と黄金。今までとは比べ物にならぬ量の魔力が両方の身体から迸る。
遊びは終わった。ここからが、本当の殺し合いだ。