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能力奪う系チートの正しい使い方  作者: ハイパーれもん汁
世界最強の魔導士編
3/26

秒でフラレる世界最強

 物心ついたとき、ロディエスはすでに『最強』だった。望むべくもなく、その地位を手に入れてしまっていた。

 ロディエスの好敵手(ライバル)は常に自分だ。競い合う相手は最強の自分。なにせ、競い合うに足る相手が他にいないのだから。



 振り返ったロディエスの瞳に映る、黒い少年と蒼い少女の二人組。

 ロディエスの行使しようとしていた転生魔法が不発に終わった原因はおそらく……いや、確実にこの二人のせいだろう。

 だが、万が一億が一の可能性として、ロディエスが失敗したという可能性もなくはない。そう、なくはないのだ。

 だからあえてロディエスはその問いを口にする。


「私の魔法を打ち消した異物()はお前達か?」、と。


 少年は口角を吊り上げ、

 

「ああ、俺だよ」


 悪びれもせず、隠しもせず、ロディエスの問いを肯定した。

―――ああ、やはりか。やはりなのか。私の魔法は打ち消されたのか。

 湧き上がる高揚感。一瞬、ロディエスの魔力制御が緩んだ。ロディエスが内に秘めている魔力の一片が表に顔を出す。


 瞬間、魔力磁場が軋んだ。


 魔王城の残骸の破片がパキパキと浮かび上がり、大気中の魔力がピリピリと悲鳴を上げる。

「わっ」蒼氷色の少女が小さく驚鳴を漏らした。

 比喩無しに地震のように世界が揺らぎ、平衡感覚が失われる。

 世界が震えていた。

 たった一人の魔導士の存在に世界が怯えていた。


「早漏かよ、落ち着けって。まだ始まってすらいねぇよ」


 少年はそう言った。怖じける様子もなく、先ほどと同じ類の笑みを浮かべたまま。

 そして少年と相対するロディエスもまた、口元に笑みを浮かばせていた。

 

「ふふっ、すまない。まさか私の魔法を打ち消せる魔導士が、まだこの世界にも残っていたとは驚きだ」


 興奮。興味。それから歓喜。魔力の抑制が効かない。枯れ果てたと思っていた感情の再発。心の底から笑ったのは、果たしていつぶりだろう。


「ところで、俺からも一つ質問していいか?」


 今度は少年がロディエスに向かって問いを投げる。


「この世界で一番強い人間はどいつだ?」


 質問の意味を、意図をロディエスは思索する。

 目の前に立っているこの少年はまさか、本当に自分の存在(こと)を知らないのか。それとも単に知っていて惚けているだけか。

 少しだけ考えて、どちらでもいい、とロディエスは思った。


「私さ。この私が『最強』だよッ」


 改めて、ロディエス自ら『最強』と口にしたのは初めてのことだ。

 最強だと、認めたくなかった。

 最強とはつまり、世界で最も強き存在であり、同時に最も孤独な生き物だ。

 心のどこかで、ロディエスは期待していた。

 世界のどこかになら、自分よりも強い存在がいるんじゃないか。この『飢え』を満たしてくれる最強がいるんじゃないのか。

 だけど頭のどこかで、ロディエスは諦めていた。諦めかけていた。


「いいねぇ、嫌いじゃないよその自信。むしろ大好物だね!」


 そして今、ここにいる。

 夢にまでみた好敵手(ソイツ)が、目の前に、いる。

 だからもう、ロディエスが最強に拘る必要はなくなった。

 だって、目の前にいる最強(コイツ)は、たぶん―――


「そのお高い自信(プライド)を粉々を砕いて潰して奪ってやるよ!」


―――最強(ロディエス)より強い。


「私はあまり好きじゃないな。むしろ苦手だ。お前のような好戦的な輩は!」


 少年がケラケラと嗤う。


「どの口がほざいてんだ? ()り合いたくて疼きまくってるくせに」


「それはお互い様でしょ? 君たち(おす)臭いよ? もうちょっと魔力(ちから)抑えなって」


 蒼髪の少女が不満を漏らしてようやく、少女の姿がロディエスの目に映った。少年の方にばかり意識が集中していて、今の今まで気付くことが遅れてしまった。

 美しい蒼氷(そうひょう)の髪と、麗しい蒼空(そうくう)の瞳。身なりは髪の色と合わせた蒼と白の軽装(ラフ・ドレス)。戦闘には向かない、どちらかと言えば夜会の方が似合いそうな、露出の多い大胆な格好をしている。けしからん。


「すまないレディ。どうも私は君のような美しいお嬢さんを見ると猛ってしまってね」


「あら嬉しい。でもごめんね。あたしにはシドがいるから。浮気はしない主義なの」


 と、少女は少年の腕に自らの腕を絡ませる。


「それは残念。ますます私好みだ」


「おい魔法使い。息をするように人の女を口説くなっての」


 ケラケラと相変わらず少年は軽薄な笑みを浮かべている。


「口説かれた程度でついて行く女なら、所詮その程度の女だったということだろう?」


「言うねぇ、たかだか最強程度(・・・・)のくせに」


「最強程度、か。面白い言い回しをする。ならば。私が最強であるならば。いったいお前達は何者だ?」


 その質問を待っていたかのように、少年と少女はにやりと笑って、


「主人公さ」

「ヒロインだよ」


 即答。示し合わせた様子もなく、自信満々にそう言い放った。

 ロディエスは苦笑とともに頭を振る。


「ふふ、意味がわからない。質問の答えになっていない」


「なってるよ。そのままの意味だよ」


 最後の発言は些か気になる応答だった。答えを追求しようとするロディエスに、しかし少年にはもう話を続ける気はなかったようで、


「ま、細かいことは気にするなよ最強。そろそろ始めよう」


 言うや否や、少年が魔力を開放した。抑えつけていた魔力が湧き上がり、風に吹かれたように黒いローブがはためく。


「紫とは珍しい。初めて目にする色だ」


「綺麗だろ? 言っとくが、この世界の価値基準で俺を測らないほうがいい。痛い目見るぜ」


「だろうな。そもそもこの世界の魔力に紫の魔色は存在しない」


 魔色とはつまり、人が持つ魔力の色のことを示す。

 その者から放たれる魔色の量や濃度を見れば、その者の魔力量、どの属性の魔法が得意でどれくらいのレベルで扱えるか、などを量ることができる。

 魔色は全部で八色。三大魔色である緋蒼黄(ひそうおう)と、そこから派生する翠黒白(すいこくはく)。そして白銀と黄金の中のどれか一色に分かれる……のだが、その中に紫紺の魔色は含まれていない。

 全ての魔法、全ての属性を扱えるロディエスですら見たことも聞いたこともない魔力の色。

 それが示す答えは―――。


「測ったな?」


「測れるほど浅くもあるまい」


 ロディエスの身体の内から迸る黄金色の魔力。

 緋蒼黄翠黒白の六色全属性を扱える者にのみ許された白銀の魔力。それに加え時空間亜種魔法を行使できる者だけが至る魔導の境地。それが黄金色。即ち最強の証――。


「お前が何者でもいい。私を楽しませてくれれば、それでいいッ!!」


「来いよ最強。楽しむだけじゃなく、絶望の味も教えてやるよ!!」


 両者の魔力が膨れ上がり、そして衝突する――。

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