これはとんでもなくえっちな展開だ
目が覚めると、辺りは暗くなっていた。
「……くらい………だろう?」
「ダメだ。大事な………だ」
「………なこというなよなぁ」
なにやら三人の男が机を囲んで話しあっていた。
シドじゃない。知らない男だ。
二度寝したい気持ちをぐっとこらえ、視線だけで辺りを見回した。
3つ、わかったことがある。
1つ。なにやら自分は薄暗い部屋にいるということ。
2つ。どうやら自分はソファの上に寝かされているということ。
そして3つ目に、なぜか両の手足を縄で縛られているということ。
この3つの情報を整理し、少女は確信した。
これはとんでもなくえっちな展開だと――!?
「ここは……」どこだろう。という自然な疑問を口に出してみる。
すると「おっ、やっと目ぇ覚めたか?」という太い声とともに、男の一人がノアに振り返る。
金の頭髪と金の瞳。耳には大量のピアスをつけ、首には豪華な黄金のチェーンネックレスを下げている。そして極めつけは男の羽織る白毛の上着。
まるで獅子みたいな男だ、とノアは思った。
「……だれ、おじさん?」
ノアの質問に、男は少し考える仕草を取る。そして、
「そうだなぁ……ご主人様ってとこか?」
下卑た笑みとともに、男は答えた。
「あたしのご主人様はシドだけだよ」
「シドぉ? ああ、てめぇの男か」
「うん。シドはどこ?」
どこまでもペースを崩さないノアを見て、男がこらえきれずぷっ、と吹き出す。
「クックックッ。ヒャッハッハッハ! 疎いガキだなァ、てめェ。それとも単に図太いだけかぁ?」
ペチん、と自身の額を叩き、男は面白そうに牙を剥き出しにし笑う。
「いい加減わかれよ察せよ。拉致られたんだよてめぇは。これから首輪つけられて奴隷としてどこぞのご主人様に売られてくんだよ」
ノアの肩に丸太のように太い腕が伸びる。
「わっ、ちょっ……!?」
男との体格差に抵抗できるはずもなく、ノアは簡単にソファに押さえつけられた。
男の金色の瞳がノアを至近距離から見定める。
「はっはァッ、たまんねぇなぁッ!!」
ズズッと音をたて舌なめずりする男は、獲物を捕食する肉食獣のようだった。
ノアの二倍はありそうな男の指が、器用にノアの服の肩紐をずらした、とそのとき。
「おい、ダリスッ!! 商品に何するつもりだ貴様ッ!?」
慌てて声を大にして叫ぶのは、机を挟み獅子男――ダリスの真ん前に座る男だ。
ぷくぷくと肥えた身体に、ジャラジャラと豪華な宝石をこれでもかというほど着飾った、醜豚みたいな男。
「へっへ。硬ぇこというなよバーキンス。一口味見するだけだろう?」
「ダメだッ!! そう言って幾つ商品を壊したのか、忘れたとは言わせんぞ!?」
「ケチなこと言うんじゃねぇ。いいじゃねぇか。こんな調教しがいのありそうなガキは早々転がってこねぇんだ」
「だから壊すなと言っているんだダリス!! 私がこの娘をいくらでエルラザから買い取ったと思っている!? 4億だ、4億ッ!!」
「知るかよんなもん」
顔を真っ赤にし怒鳴り散らすバーキンスを横目に、ダリスは再度ノアに向き直る。
両手両足を縛られ、ダリスに押さえつけられたまま、ノアは退屈そうな目をしていた。
恐怖も焦燥も何もない。ただ平然と『はやく終わらないかなぁ』という顔をしている。
「つまらねぇ」
ぼそり、とダリスは呟いた。
「もっと泣け。もっと叫べ。シド助けてぇ〜って小便漏らしながら懇願してみろ。俺様はてめぇみてぇな世間知らずのメスガキをぐちゃぐちゃにぶち壊すときが一番好きなんだ」
ダリスの右手がノアの首を締め付ける。少し力を込めれば折れてしまいそうなほど、か細い首を。
「……うっ」
「ダリスッ!?」
バーキンスが叫んだ。だがダリスは見向きもしない。
「思い浮かべてみろ。俺様に遊ばれてぐちゃぐちゃになったてめぇの姿を見て、シドって奴はいったいどんな顔で絶望してくれるんだろうなぁ? ああ、想像しただけで最ッ高に気分がいい!!
今までで一番傑作だったのはアレだ、目の前で女を強姦してやった時だな。男の手足を鎖で縛ってよ、目の前で見せつけやったんだ。ありゃあ最ッ高にそそったぜ。狂ったように泣き叫ぶ男の姿と女の悲鳴。思い出しただけで可笑しくなりそうだッ!!」
「お前はもともと可笑しいんだ。エルラザ、お前もそこで突っ立っとらんでダリスを止めろ!! 娘がどうなってもいいのか!?」
バーキンスは机の脇に無言で佇む男を睨みつけた。
黒ローブに身を包んだ細身で長身の男だ。
手袋。ベルド。靴。着飾る装飾品は全て黒で統一してある。
何を隠そう。この男こそがノアを誘拐し、バーキンスに手配書と同じ額で売り払った真犯人である。
エルラザは身動ぎひとつせず、淡々と口を開く。
「金は貰っている。犯されようが壊されようが俺にはもう関係のないことだ」
「むぎぎぃぃぃッ!?」
エルラザの正論にバーキンスは歯茎を噛み締める。
彼の言い分は最もなもので。反論する余地はなく、エルラザが同情で動く男ではないことをバーキンスはよく知っている。
そんなごたごたを他所に、ノアは獅子の瞳を正面から見つめ返す。
「あたしには何が面白いのかよくわかんない。けど。おじさんがすっごい悪趣味な人だってことはよくわかったよ」
「っハ! 褒めるなよ。照れんじゃねぇか?」
「勘違いしないでね。あたしが褒めるのは世界でたったひとり。シドだけ。少なくとも蔑まれて興奮する変態なんかじゃないよ」
「言うねぇ、その虚勢がいつまで持つか、見ものだなぁ!?」
獅子は貪欲に笑みを深めた。
これから自分が何をされるのか。それがわからないほど、ノアは天然でも純粋でもない。
想像する。果たして。ノアの愛しき男は、陵辱され汚された自分を、今までのように変わらず愛してくれるだろうか、と。
浮気は極刑、不倫は死刑。以前ノアがシドに対して使った言葉だ。
はて、これは浮気に入るのだろうか。
俗世の言葉と感情の表現に疎いノアは、浮気や不倫の正確な意味まではわからない。
だから、逆に考てみることにした。
シドが知らない女と厭らしいことをしている、と考えてみる。
ムズムズ……いや、ズキズキ? する。なんかいやだ。
つまり、それはシドもいやだということ。
「シド、あたしのこと嫌いになるかな」
瞳を閉じ、ノアはクスッと笑った。
「それは、ちょっとやだな」
少女の呟きは、誰の耳にも届くことはない。




