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能力奪う系チートの正しい使い方  作者: ハイパーれもん汁
集団異世界転移編
15/26

若い女と白髪のおっさん

 あれから七日が経過した。

 人の口とは恐ろしいもので、噂は風のごとく人々の間を駆け抜けた。

 どこかの街の、どこかの酒場で。


「おい聞いたか? スカルト王国の王様が殺されたんだってよ」


「聞いた聞いた。例の"黒髪の悪魔"のことだろ?」


 人から人へ。街から街へ。伝わるたび虚飾を積み重ね、噂はどんどん肥大化を遂げる。

 どこかの都市の、どこかの路上で。


「号外〜、号外だよ〜!!」


「なになに?『魔王シド現る!? 王都スカルトフェイスの悪夢!!』?」


 所詮は口伝て。その情報が正しいのか、あるいは間違っているのか。それは誰にもわからない。

 人の身勝手な想像で。人それぞれの解釈を経て。虚実に塗りたくられた噂はさらに虚実に(まみ)れていくのだ。

 どこかの都市の、どこかの喫茶店。


「おいひぃ〜」


 頬を緩ませ、蒼髪の少女が悶ていた。

 

「そりゃ良かったな」


 蒼髪の少女の隣の席で、新聞に目を通すのは黒髪の男。


「おっ。これも美味いな」


 シドである。話題の黒髪の悪魔は優雅にランチを楽しんでいた。

 巷で有名な『黒髪の悪魔』の噂は、当然この街にも流れてきている。

 黒髪の男を見れば嫌でも連想してしまう。不審に思う輩はいるだろう。しかし誰もシドのことを警戒してはいなかった。


「いいなぁ。シドも食べたい」


「うん、シドのもな?」


 シドは自分の皿のスイーツをスプーンに乗せ、口を開けて待つノアの口内まで運んだ。ぱくり。もぐもぐもぐもぐ。


「おいひぃ〜」


 ノアの頬が幸せそうにほころんだ。


「「…………」」

 

 周囲からシドに向けられる奇異の眼差し、というか冷たい視線。

 そのわけは、シドの外見にある。

 《特筆能力(ユニークスキル):隠蔽者》でシドは自身の見た目を隠蔽していた。周囲を行く彼らの目には、シドの姿が白髪のおっさんに見えている。

 だから話題の『黒髪の悪魔』としては警戒されない……のだが、違う意味でシドは警戒されていた。

 若い女が40代のおっさんと飯を食っているこの状況。どっからどう見ても、


「立派なパパ活だな」


 シドは乾いた笑みで呟いた。


「ん? パパ活?」


 耳聡いノアはシドの呟きを聞き逃さない。


「ん、なんでもない」


 そう言ってシドは再びノアの口にスプーンを突っ込む。むぐっ!?もぐもぐ。おいひぃ。



 カフェでランチをとったシド達は、街をぶらりと観光もといデートする。

 腕を組んで絶賛いちゃいちゃ中。このリア充っぷりを見せびらかしてやろう。もちろんノア以外にはシドが白髪のダンディーなおっさんに見えているわけで、通行人のひき気味の冷めた視線がシドに刺さる。

 はは、歳を取るとこんな気分になるのか。覚えておこう。

 近くの衛兵っぽい男がシドの一挙手一投足、犯罪を見逃すまいと目を光らせていた。

 

 現在シドとノアがいるのは王都スカルトフェイスから西に離れた美欧都市エクセリア。

 王都には及ばないものの、人の流れや物の流通などはなんら都会と変わらない。

 エクセリアは衣服や宝石など、主にファッション系装飾品が有名な都市らしい。

 この都市には比較的高貴な身分の者が住んでいるのか、街ゆく人を見れば豪奢な貴服や高価な宝石に身を包んだ輩が数多く歩いている。

 観光や気晴らしにはいいかもしれないが、居住には向かなそうだ。どうにも息が詰まりそうになる。

 遠く離れた東の防衛都市ウィンデルでは、現在進行系で魔族との抗争が起きているというのに。まったく平和ボケにもほどがあるだろう。


「こういう場所にドラゴンとか放ったら面白そうだけどな」


「するの?」


「冗談だよ」


 シドはケラケラ身のない笑みで応えてみせた。

 平和ボケした連中に絶望を味わわせてやるのも一興だが、今回はノアに付き合ってやるのがシドの目的だ。

 毎度戦闘ばかりでノアには退屈させてばかりいる。そろそろ息抜きが必要だろう――というのは建前で、純粋にノアとのデートを楽しみたいというのがシドの本音である。



 洋服屋に入った。

 子どもらしいワンピース。背伸びしたドレス。似合わない貴服。そしてなぜか下着姿のノア。黒い紐パンがシドの好みを撃ち抜いた。


 宝石店に入った。

 髪と同じ蒼色の指輪。瞳と同じ空色のネックレス。蒼に映える黄色の髪留め。


 カップルで賑わうデートスポットを歩いた。

 他のカップルが寄せる奇異の瞳なんかフル無視して、シドはデートを存分に楽しんだ。

 ノアの方は元々そういうのは気にしない性格で、シドに心中ゾッ婚である。


「♪」


 シドとノア共にデートらしいデートはこれが初めてのことだった。ノアに限って言えば、衣服を見たり装飾品をつけたり、そんな当たり前のことも全てが初めての経験で、本人はとても満足しているのかものすごく機嫌が良い。


 ここまでデートは順調だった。

 時刻は昼の3時を過ぎた。

 道端を歩きながら、次はどこに行こうかとシドが悩んでいると、


「ねね、シド! あれはなに?」


 ノアの声に吊られて視線を向けると、そこには人混みができていた。

 半円状に並んだ人々に囲まれる形で、中心に白いスーツを着こなし、頭にハット帽を被った細身の男が立っている。


「いいですか、目を離さず見ていてくださいね? 行きますよ。スリー、ツー、ワン、はい!」


 途端、人混みがドワッと涌いた。

 換気の声と、盛大な拍手。チャリンチャリンと空き缶に次々コインが投げられていく。


「あー、あれはマジックだな。説明するよか見たほうが早い」


 そしてシドとノアも人混みに加わった。


 ニタリ。どこかで誰かが汚い笑みを漏らした。

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