訂正。最強の魔導士さん、実は一度転生済みだそうです
「――おいおいまじか」
眩い火花を散らつかせながら、シドの剣とロディエスの剣が激しく乳繰り合うもといぶつかり合う。
空間魔法を使って魔杖を収納し、代わりに一振りの聖剣を取り出したロディエスは、優雅な剣捌きと体捌きをもってシドの猛攻を受け流す。
「ははっ! もうなんでもありだな、お前は!」
「そうでもないさ! 剣術には少し覚えがあっただけのこと。これでも前世では剣聖と呼ばれていたものでね!」
両者の剣が甲高い音を響かせ剣曲を奏で合う。
「そういう君も。なかなかどうして剣術に長けているじゃないか?」
「褒めるなよ。照れるだろ?」
直後、シドの剣速が加速した。
《能力:超加速》。もはや速いなんて次元じゃない。どういうわけか上下左右四ヶ所からの斬撃が同時にロディエスを襲う。
この速度。ただの一撃でさえまともに受ければ力負けしてしまいかねない。故にロディエスはその四撃を防ぐ、のではなく受け流した。
「剣聖剣舞〝剣姫〟!!」
決して刃には触れず、その剣腹に自身の聖剣を添わせ、力の矛先をズラしてやる……と、言うだけなら簡単だ。
変態的速度で変則的軌道を描くシドの剣筋を見極め、ほぼ条件反射の領域で剣を這わせる曲芸。タイミングと力加減を少しでも誤れば、その瞬間に聖剣は弾かれてしまう。寸分のズレも許されない完璧な一撃一撃が要求されるのだ。
剣聖としての技術と力量を併せ持つロディエスだからこそできる芸当。
「さっすがー♪」
四撃の隙間に隠した死角からの厭らしい一撃を合わせ、計五撃全てを一瞬でいなしきる。
そして、最強の男はそれで終わらない。
「剣聖剣舞―――」
シドの剣撃を受け流しながら、ロディエスはその懐に一歩踏み込み、
「―――〝剣神〟」
音もなく、真横に聖剣を振り切った。
「―――!!」
一歩、二歩と距離を取るシド。その頬が薄く切れた。遥か遠方、聖剣が振るわれた直線状にあった山々がズレ落ちる。
遅れて、山々の倒音を耳朶に響かせながら、頬の傷口を親指で拭うシドが口笛を吹いた。
「いやいや惚れ惚れするね」
「やめてくれ。男に惚れられても嬉しくなどない」
「同感だね」
そしてまた、交差する。炸裂する。
磨き抜かれたロディエスの剣筋と、荒々しい無骨なシドの剣筋。
ロディエスの黄金の魔力とシドの紫紺の魔力が描く、美しい剣閃の芸術は、見る者の瞳を釘付けにさせた。
シドの剣がロディエスの肩口を浅く開き、ロディエスの剣がシドの脇を軽く裂く。
両者両方実力は互角。どちらか一方に傷がつけば、もう片方にも傷が増える。
「ははっ、避けてみやがれ!!」
「ふっ、避けるまでもない!!」
互いの顔には笑みが浮かんでいた。
二人は今この瞬間この戦いに愉悦を見い出している。
いつ終わるかわからないが、いつか終わることだけはわかる。わかるからこそ全力で剣を振るう。
後悔など微塵も残さぬために。この一瞬を魂に刻みつけるために――。
鋼が踊る。軌跡を残し、音を置き去りして。
血が舞う。肉体が痛みを忘れ、限界を置き去りにして。
紫紺と黄金が衝突する。しかし決して混ざることなく、弾かれ合う。
「剣聖剣舞〝剣王〟ッ!!」
ロディエスが見舞う、下方から上方への斬り上げ。その一撃は、シドの剣を高々と上空へ吹き飛ばした。
「――――ッ!?」
唐突に終わる剣舞。剣を弾かれたシドの体勢が崩れる。
弾かれた自身の剣から視線を下げるシド。その焦点がロディエスの聖剣に向けられた。
躊躇することなく迫る聖剣。迷い無く聖剣を握るロディエス。
ぽっかりと空いたシドの口が―――大きく吊り上がった。
「なんちって♪」
その直後、陽光を遮ってできる、ロディエスの影が蠢いたかと思うと、影から三本の黒棘が出現する。
《能力:影操》黒棘が音もなくロディエスを背後から強襲した―――が。
「演技が下手だなシド。あからさますぎる」
背中に目でもついているのか、完全な奇襲をロディエスは察知していた。
黒棘を巻き込みながらの回転斬り。黒棘は一掃される。それだけに留まらず、遠心力が加算され加速するロディエスの聖剣が今度こそシドを襲った。
しかし対するシドも、黒影が破られることを事前に想定し動いている。隙に見せかけるためわざと崩した体勢を利用し、ロディエスの回転斬りを顔面の上に素通りさせた。
「傷つくな、これでも一時期俳優志望だったんだぜ?」
止まらぬロディエスの追撃。怒涛の如き連撃の嵐。それをシドは独特の歩法でのらりくらりと躱してのける。
簒奪武技《歩法武術"夢遊"》。かつて世界最強の武闘家として名を馳せた拳豪から奪った能力である。
「魔術に剣術に体術に死霊術。なんでもありだな、まったく!」
ロディエスが楽しそうに叫ぶ。
「これくらいで驚いてもらってちゃ困るぜ最強」
ロディエスと距離を取り、真上に伸ばしたシドの右手に、タイミングを見計らったかのように剣が収まった。
シドはその口元にくすりと笑みを浮かべて、
「特別だ、見せてやるよ」
《特筆能力:大勇者》を発動。
《特筆能力:破壊者》を発動。
「こいつは避けなきゃ、死ぬぜ?」
そのままシドは、剣を持つ右腕をゆっくりと振り下ろした。
「エリアル・ラキシム――――」
刹那。空間が、割れた。




