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 入って来た少年は、一言でいえば、美少年だった。


 酒場ブースで飲んでいた面々や、目の前の筋肉バカも、彼に見惚れているようだ。


 キョロキョロと辺りを見回しているところを見ると、ここへ来るのは初めてなのだろう。

 こんな美人がよく来ていたら噂になっている筈なので、その点でもはじめてだと分かる。


 少年は酒場ブースと依頼ブース(こちら側)を見比べた後、こちら側へやってきた。


「あの、ここで依頼ができると聞いてきたのですが」


 どうやら、依頼の受付のようだ。


 何年か前までは、依頼の受付と割り振り、報告はそれぞれ別の窓口があったのだが、今はひとつきりだ。

 ……そのうち、この依頼ブースも酒場ブースに統合されるだろう。


 ああ、そんな事よりも仕事だ、仕事。


「はい。依頼をお受けしますよ。どういったご用件でしょうか?」


 こんな美人の依頼なら、逆にお金を払ってでもやりたい女は多いだろうけど、もし護衛依頼とかなら、人選をしっかりしないと、色んな意味で危険だろう。


 普通なら、男性冒険者を割り当てるところだけど、残念ながら適当な人材が今は街に居ない。


 仕方がないから、私が……


「ああ、そうではなくて、そう、冒険者になりに来たんです」


 少年はそんな事を言い出した。


 私は、その言葉の意味が一瞬分からなかった。


 冒険者になりに来た?


 この少年が?


 いや、男性冒険者というものは、居る。

 この街にも存在する。


 だが、だいたいが、パーティを組んでいたり、なんというか、不細工で冒険者くらいしかできない。という男がなるものだ。


 男でソロで冒険者になろうとするのは、ほとんどない。


 それなのに、こんな美人が?


 黒髪黒目、幼い容姿。


 これだけの逸材なら、売り子や給仕としてやっていけるだろう。

 なんなら、ウチで給仕をやってもらいたいくらいだ。


 そう思って、給仕として働かないか聞いてみたが、冒険者になるという。


 なんでも、ずっと引きこもっていたので、広い世界を見て周りたいのだとか。


 この街にしばらく滞在はするが、旅に出る前提なので、定職に就くのではなく、冒険者が都合が良いらしい。


 それを聞いて、私はさらに止めるよう、説得した。


 引きこもっていた。

 というのがどれくらいのレベルなのかは不明だけど、故郷の村から出たことがない。というなら、そんな世間知らずのお坊ちゃんが、冒険者としてやっていける筈がない。


 冒険者の仕事には盗賊退治だってあるし、男冒険者なら、逆に襲われて慰み者にされる事だってあるのだから。


 それを言うと、少年は思い出したように言った。


「そういえば、この街に来る時に盗賊に襲われまして」


 言わんこっちゃない。


 どうにか逃げて来たようだけど、そんな目に遭ってもまだ冒険者をやろうというのは、神経が図太いのか、危機感が無いのか……

それとも、誰かに護衛されていて、簡単に蹴散らすのを目の当たりにしたとか?

 それで自分にもできると思ったとか?


 ……あり得る。


 そんなレベルの冒険者を雇えると言うことは、貴族の御曹司とかかも知れない……


「それで、倒した盗賊の首があるのですが……」

「ああ、いや、登録していない者が盗賊を倒しても、報酬とかは出ないんですよ」


 これは、あまり知られていない事で、高ランクの冒険者でも知らなかったりする事だ。


 まぁ、冒険者でも無い者が、盗賊を退治して首を持ち込む事なんてないからだ。


 恐らく、護衛の冒険者もそれを知らず、冒険者志望のこの少年の餞別として首を譲ったのだろう。


 ……いや、こんな美人へのプレゼントが盗賊の首て。

 護衛の冒険者はちょっと……いや、かなりの変わり者のようだ。


「え? そうなんですね。困ったな……あの、引き取るだけ引き取ってもらえたりしませんか?」

「できますが……その首を取った本人に返した方が良いのでは?」


 一応、引き取るだけ。ということもできる。

 だけど、報酬を受け取る権利がある者が居るのに、受け取るなんて事は普通はしない。


 これは、ゴミ部位を持ってきてしまった時などに適用される制度なのだから。


「ですから、ボクが倒したんですよ。首を出すのはここで良いですか?」

「え? あ、はい」


 え? 自分で倒した?

 嘘を言ってる風ではないんだけど……


 それで出された首は、十数個。


 どこからともなく出てきたので、収納魔法の類を使えるのだろう。

 そのレベルの魔法使いなら、盗賊の2、3人なら撃退できるだろう。


 でも、10人以上を相手にできるか?


 しかも、コイツ……賞金首のアルトレイン!?

 王都周辺から消えたとは聞いてたけど、この辺りに居たの!?


「あ、えと……賞金首が混じっていますね。その分の報償金はお支払いできますよ」

「本当ですか? よかった。全部無駄にならなくて」


 ……どういう少年なんだろう?


 普通、冒険者志望の新人というのは、殺しをした後はこんな風に笑えないものだ。

 相手が動物ですら、だ。


 なのに、10人以上殺してこの態度。

 まるで農家が害虫を退治したくらいの……


「それで、冒険者の登録をしたいのですが」


 余計な事を考えつつも、報償金を差し出した後、受け取った少年がそんな事を言った。


 そういえば、それが本題だった。


 まぁ、犯罪者に堕ちなければ、どんな精神構造でも関係ない。


 犯罪者になれば……アルトレインのように賞金首になるだけだ。


 元ランク5冒険者。堕ちた英雄アルトレインの様に。


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