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い、今の状況、整理してみよう。
盗賊が出たけど、マオがやっつけた。
マオは強かった。
だけど、それだけじゃない。
マオは先ほどまでの少年の姿とは違った、大人の姿になっている。
「いったい、その……姿は?」
そう問いかけると、マオはあっけらかんと応えた。
「ああ、コレ? なんか、戦う時は大きくなるんだよね。おかげで服が破れちゃうんだ。だから、普段は服を着ないんだけど、森の外まで来る時は、服を着ろ。って義母がうるさいから着てたんだけど……結局破れるなら、着ない方が良いよね」
私は、この時点で頭を抱えた。
もう、どこから突っ込めば良いのだろう?
とりあえず、私は自分の荷物から外套を取り出し、マオに差し出した。
「とりあえず、それで良いから羽織りなさい」
言ってから、もしかしたら空間収納に着替えくらい持っているのでは? という事に思い至ったが、差し出したモノを引っ込めるのは格好悪い。
存外、マオは素直にクロークを受けとって羽織った。と同時に体が小さくなる。
……もしかしたら、何か着たら小さくなるのか?
そんな疑問も浮かんだけど、まぁどうでもいい。
私のクロークなので、マオにはぶかぶかだけども、そのおかげで、その下が裸だとは分からないだろう。
「まず、根本的なところからなんだけど、貴女、ヒューマンよね?」
「多分違う」
あっさり、否定の言葉が返ってきた。
まぁ、知る限りではいきなり体が大きくなるようなヒューマンはいないので、当たり前といえば、当たり前の話だ。とはいえ……
「じゃぁ、何なの?」
「よくわかんない」
あっけらかんと言うマオ。
私みたいな獣人ではない。
全身うぶ毛すら無いような、滑らかな肌は獣人のものではない。
……獣人だとハゲにしか見えないのに、なんで他種族だとキレイに見えるんだろ? 肌の質感の違い? ……まぁ、それは置いといて……
エルフやドワーフでも無いはずだ。耳は丸いし、小柄な時はドワーフでも通用するかも知れないけど、ドワーフは大きくなったりしない。
「ああ、でも、義母は、多分デーモンだろう。って」
実の母親がデーモンだったらしい。
まさかの魔族。
……なんだろう。人族の国に来てまで魔族に縁があるとは思わなかった。
いや、獣人も魔族扱いされることもあるけどさ。
とういうか、ウチなんて……
いや、そんな事より、デーモンだって突然大きくなったりはしない。
まぁ、私の知識には無いだけで、魔族にはそういう種族もいるのだろう。
何せ、その他族なんて言われたりするくらい、雑多な種族がいるのだから。
一般的に魔族は禁忌される傾向があるけど、私は獣人で、家業が家業なので、気にしない。
いや、そんな事よりも……
「あ、貴方……貴女、お、女だったの!?」
私にとっては大事なのは、こちらの方だ。
「え? そうだよ? 見て分からない?」
……分かりませんでした。
さっき決定的な部分を確認するまでは。
そんなやりとりをした後は、特に事件らしい事件もなく、街に到着した。
……夜も何も無かった。
いや、マオは女の子なんだから、悔しがるのもおかしいんだけど。
あ、そういえば、街では男のフリをした方が良い。って言っておかないと。
マオの胸だと、男だと思われていた方が、トラブルは少なそうだし。