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跳躍したマオは、ゆっくりと盗賊どもの方へと跳んでいく。
あれも、魔法でなんとかしているのだろう。
そうでなければ、あれほど高くは跳べないし、こんなに長く跳んでいられない。
そんなマオを、盗賊どもは呆けた風に見ていた。
見るな。マオが汚れる。いや、その程度で汚れるほど安くはないか。
むしろ、あの世への思い出として、マオの肢体を目に焼き付けるが良い。
そこまで考えたところで、私はそれに気がついた。
目の前の地面には、ボロ切れと化したシャツと短パンが打ち捨てられたままだ。
そして、先ほど見た後ろ姿には、手足の防具の他には何も身につけていないように見えた。
──そう。
マオは今、何も身につけてはいない。
私は急いで視力強化の魔術を使った。
身体強化系ならば、得意なのだ。
決して、マオの裸が見たいとかではない。
コレは……そう、もしもの時に直ぐに助けられるように、しっかりと見ておく必要があるんだ。
……誰に言い訳をしているんだ、私は。
しかし、ここからでは、非常に残念な事に、跳躍しているマオの後ろ姿しか見えない。
いや、その背中だけでも眼福なのだけども。
前方に位置する盗賊どもが羨ましい……
その盗賊どもの真上まで跳んだところで、マオはそこで静止した。
完全に浮遊している。
意外に、ただ浮かぶだけ。というのは難しい筈だ。
私が知らない術式でもあれば別だけど、制御の難度が跳ね上がる。
それこそ、高速ですっ飛ぶ方が何段階も簡単で、わたしにも一応できる。
そういう事は盗賊どもは知らないらしく、強力な魔術士が頭上にいる危険を、ただ呆けた顔で見上げている。
……いや、わたしだって同じようになるかもしれない。
裸の美少年を下から見上げるなど、女なら黙って見るしかない。
だが、そんな状況は次の瞬間には変わった。
マオが上空から急降下し──足元に居た1人を踏みつけた。
いや、踏みつけたという表現は正しくないかもしれない。
私は、ヒトが縦に潰れる様をはじめてみた。
落石に巻き込まれた者でもああはならない。
それほどの衝撃を与えたのだ。
その後、数人を回転蹴りで昏倒させ……いや、的確に首の骨を折ったところで、ようやく盗賊供が迎撃をはじめた。
だが、それらの斧や剣による斬撃も、棍棒による打撃も、手足の防具で、或いは魔力の障壁で的確に防ぎ、反撃で次々に蹴り技を放ってゆく。
……くぅ、角度が悪いのか、なかなか肝心な部分が見えな……いや、違う。
見惚れるほどの脚技だ。
そう、私が見てるのは脚技なのだ。
だから、やましい事なんてない。
無いったら、ない!
……冗談はともかく、本当に信じられないくらいに強い。
男だてらに、というレベルでは無い。
女でもマオに勝てる者は何人居るだろうか?
……私は、正直無理だ。
惚れた男より弱いというのは、女として情けない限りだけど、それを認めないほど落ちぶれてはいないつもりだ。
もしかしたら、母さんよりも強いかも知れない。
そんな気さえする。
確か、魔闘士というものだったか?
格闘を主体に、魔法も使って戦うという。
単純な打撃なら、ハンマーでも使う方が強力だし、刃物の方が相手の手足を斬り飛ばすこともできる。
それは、魔法を考慮しない場合の話だ。
魔法も使う場合、武器は何であれ大した違いはない。
刃物で叩き潰すことも、棍棒で首を斬ることもできる。
そうなれば、わざわざ武器を持つ必要は無い。
……実際は、リーチの差が出てくるので、魔法を織り混ぜた戦闘でも、武器を持つ方が何かと有利だけど、格闘には組技もある。
結局は、本人の資質と好みと言ったところだ。
そんな事を考えている間に、マオは最後に残ったボスらしき女の頭を両腿で挟み、そのまま後方に宙返りして……相手の脳天を地面に叩きつけた。
なんて羨ま……じゃない、エグい技だ。
そんなマオの活躍に見惚れていたところに、ふと後ろに気配を感じた。
振り向くと、そこにはナイフを振りかざした軽鎧の女。
間違いなく、盗賊の仲間だ。
しまった。
本当に、今日はマヌケだ。
狭い御者台の上で、私も軽鎧だ。ここは、腕を怪我するくらいは覚悟した方が……
「ぷげらっ!」
そんな風に思って居た時、私の横から伸びた脚が、襲撃者を蹴り飛ばした。
振り返ると、その脚の主はマオだった。
「危なかったね」
そう言って笑う姿は、本当に綺麗で、眩しくて……
誓って言うが、本当に眩しくて目を逸らしたんだ。
下に。
マオはちょうど賊を蹴り飛ばしたままの格好で、脚を高く上げていて……
ソコには、何もなかった。
いや、あったけど、わたしにもあるもので……
え?
ナニコレ
なにこれ
何これ
何これぇ!?
女バレ回(別に隠してない)