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「では、こちらに記入を。文字は書けますか?」
少年に登録用紙を差し出しながら、言う。
「多分、大丈夫です。……読めますよね?」
さらさらと、名前と年齢の欄に文字を書いて見せてきた。
どうやら、自信が無いようだったけど、字は書けるようだ。
字はある程度読めるが、書けない。
という者は多いので、ここでは関連書類の代筆も代読も無料で行っているのだけど、今回は必要無いようだ。
私は、書かれた文字を読んだ。
少年の容姿に見合うような美しい書体で書かれた名前は、マオとあった。
「お名前は、マオでよろしいですか」
念のために問うと、「はい」と肯定の答えが返ってきた。
続けて年齢の欄を見ると、「50」と、これも美しい数字が書かれている。
ふむ、もっと幼い少年かと思ってたけど、思ったより幼くもないのか。
「大丈夫。読めますよ。むしろ、綺麗な字で読み易いです」
「ああ、良かった」
そう言って少年……マオは続きの項目をスラスラと書いていく。
立ち位置の関係で書類が逆さまに見えているけど、私は慣れているので、実は普通に読める。
ふむ。
賞罰歴……無。
攻撃魔法……可。
補助魔法……可。
回復魔法……可。
得意武器……格闘。
得意戦闘スタイル……前衛。
自己申告だけど、なかなかに優秀なようだ。
少なくとも、自信はあるようだ。
まぁ、賞罰歴は参考で書かせているだけだ。「無」で当然。
罰を素直に書く者など居ないし、賞の方も登録時に既にとっている者など、そうは居ない。
使える魔法が豊富なのも、良い。
先ほど収納系の魔法が使えるのは見たので、少なくとも補助魔法が使えるというのは、嘘ではない。
攻撃も回復も、程度の差はあれ、使えるのだろう。
得意武器が格闘というのは、驚きだけど、魔物の素材採取系の依頼には有利だ。
何せ、剣、槍、弓、斧といった武器は毛皮などに傷がつくのだ。
その点、ハンマーや格闘ならば、外傷はつかない。
……まぁ、魔物の素材採取依頼というのが、あまり無いのだけれども。
ついでに、どんな重装備の相手だろうと、組技ならば関係なくダメージを与えられる。
……まぁ、こっちはそれなり以上の力量が必要だけども。
得意戦闘スタイルは前衛という事だけど、魔法全般が使えるという事であれば、オールラウンダーと言った方が良いだろう。
むしろ、少しでも回復魔法が使えるのなら、回復役として後衛に居ても良い。
もしもの時に、自分でも接近戦ができる回復役というのは、かなり重宝される。
しかも、こんな美少年だ。
どんなパーティーでも選り取りみどりだろう。
でも……
記入用紙を受け取った私は、ちょっとした親切心でパーティーに加入するなら、男の子が居る所にするようにと助言した。
女ばかりとか、女ひとりのところに、こんな美少年が入ったら、どんな目に遭わされるか……容易に想像がつく。
「ああ、しばらくはひとりでやるつもりですから」
「え?」
「実は、あまりヒトと話したことが無くて……今もドキドキしてるんですよ。……ホラ」
そう言って、マオはあろうことか、私の手を取って胸に当てた。
うわ、思ったより柔らかい……
こ、こんな見た目でダイタンな……
い、いや、私、男装だから、男同士だと思われてるのか。
ナニ? 男同士だとこんなえっちぃ事もするの!?
私が軽く混乱していると……
「今日の所は、街を観光するね」
そう言って、マオはギルドから出て行ってしまった。
これは、本人ではなく、現役の冒険者に注意喚起した方が良いかも知れない。
ああいうのを、傾国の美漢というのだろう。
たかだか50歳であの色気は……
ん?
あれ? うっかりエルフ基準で考えてたけど、50歳てヒューマンにしては高齢だったような?
あー、改めて男の子に年齢を聞くとか、失礼だよなぁ……どうしよう……