第8話 王都へ
「コレを持って行けよ」
「あ、うん・・・」
親父の木刀。ボロボロだけど前の世界から持ってきた大切なモノだ。
「あたしはコレをあげるね」
「『サエルミラ魔導書・初中上級』って高いんじゃない?」
「少し読んだだけでよく眠れるわよ」
だろうな・・・。
「あと、見てくれ」
「あたしも~」
冒険者カード、二人ともC級かよ、すげ~、てか、自慢じゃネエか!!
「いやあ、ユズルの出発に間に合わせるなんて、二人ともすごい」
「登録から一年も経たないのにC級なんて、最速らしいですわね」
「頑張った甲斐がありました」
「ユズル、お友達に自慢して良いわよ」
「まあ、ね」
完璧浮くだろう。オレが強いわけじゃないし。
「あたし、自慢しちゃうわ」
リーナさんやめてくれよ、王国中から生徒が集まってくるんですからね。
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いったん領主街アルスタウンへ、馬車で3日、護衛に親父と姉貴も同行した。
王都イースタウンまで国内流通の要である魔動列車。
馬車で6日が2日で済んでしまう。
南北に縦断する路線の南端がアルス、北端がノルス。東西路線は東端が港湾都市オサスタウン、西端は迷宮都市ラウクタウンという地理だ。
アルスから王都に向かう文官達が引率という形で多数の生徒が一緒だった。
寝台コンパートメントは四人、ユリア=アルスオッド(子爵家)はリーナと再従姉妹の関係、とジェフ=ポールレイドは文官男爵家、二人はアルスタウンの貴族街に家が有る幼友達だそうだ。
ユリアは金髪青目の美形、ジェフは銀髪に茶目でひょろ君だ。
馬車旅も列車旅も見る物聞く物珍しく話も弾み、楽しかった。
「なんか、あっという間だったね」
「あたし達は魔動列車初めてだだもの、すごかったね」
「ああ、原理も習えるかな」
「火魔法と水魔法と風魔法を使ってるらしいよ」
「蒸気エンジンか」
「なあにそれ?」
「あ、いや、密閉した容器に入れた水を火で湧かすと湯気が出るだろ、その力を伝達して車輪を廻すんだろう」
「それで機関車は湯気を出してるのか、意外な知識があるんだね」
「なんかで読んだ記憶があるだけさ、あっているかどうかはわからない」
「さ、荷物を持ってください」
「は~い」
駅舎は映画で見たような古い英国風、この国は王族の変遷はあっても六千年の歴史があり、魔動列車は二百年変わらないらしい。
学舎も寄宿舎も思ったより古くなかった。聞くところによると前が酷くなったので別の場所に新築、最も二十年前の神歴六千年事業で、他にも橋とか港の拡張とか、各地で行われたそうだ。
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「ユーリ、それに貴方がユズル君ね」
「こんにちわ、キュリさんですね」
二歳違うとこんなに巨乳?キリアお母さんよりもあるんじゃ無いか!
「あのさ、何処見てんのよ!」
「あ、いや、その・・・」
「大丈夫よユーリ、そういう目には慣れてるから、ユリアはともかく、ジェフ君はイースタウンの領主館で会ったことあるよね」
「ひゃい!」
「あと、領主様の指示で、ユズル君は貴族寄宿舎の方になったから」
「え!」
「ジェフ君と二人部屋なら気安いでしょ」
「あ、はい、仲良くなれました」
「だね、ボクもその方が良いです」
キュリさんは、魔導師の適性で魔力もAランクまで高まって、高名な大魔導師に師事しているので長期休暇でも帰郷していなかった。
今年は妹が来るのでチューターを引き受けたそうだ。
簡単に学園を案内されてから、オレはジェフと共に男子寄宿舎に行った。
バトラーとの手続きで部屋の鍵を受け取った。ローブや制服は夕食時や儀式の時だけで良く、制服に似た色味の私服ならとやかくは言わない。むしろ、自室の整理整頓掃除は口を酸っぱくして言われた。
「汚す先輩がいるんだろうな、ユズルは洗浄魔法はできる?」
「なんとかね、まだコントロールが甘い気がするけど」
「魔力量が多いせいかもしれないよ。ボクは父と同じ文官適性、満遍なくCとDなんだよね」
「運力もそれなら、いいな」
「・・・え?」
「運力Fなんだぞ、オレ」
「不運体質か、聞いといて良かった。巻き込まれたら大変だ」
グヌウ!
十二月第五週と新年第一週は新生活に慣れる期間。
領主の紹介状で大神官様からは水曜日の午前を指定されていた。
普通に考えたらあり得ないほど早い面会許可は、
アルステッド領地の神官からの報告に興味を引かれたかららしい。
駅舎が王都の南西端、寄宿舎学舎が北西、王宮が北にある。
大神殿を中央として、南側は商業地、北側は貴族街、南東は住宅街。
東西線の線路の南は下町になる。
王宮の北は魔素の濃い龍門、森林が広がり魔獣が生息している。
北の森にアクセスの良い学舎の北に冒険者ギルドがある。
王宮の東は近衛兵団域、冒険者ギルドと仲が悪いという噂だ。