第2話 辺境領国らしい
「・・・いやあ、あのとき、オオカミがぐわ~と牙を剥いたときはびびった」
「いや、なかなかできることではありませんよ。
おかげで、我々は命拾いしたんですから」
「そうですわ、覚悟を決めてたんです」
「我々も消耗して、一人しか動けなかった。
ゴウジさんが引きつけてくれなかったら、どうなっていたかわかりません。
ランコさんの剣さばきにはさらに度肝を抜かれましたけどね。
全く素晴らしいお嬢さんです」
「いや~、それほどでも、おホホホ」
「トンビがタカを産んじゃった?ガハハハ」
親父は斉藤豪児、元自衛官、空手五段、柔道三段、剣道三段。
古武術もこなし、自衛隊では格闘技の師範代で指導もしていた。
愚姉の蘭子は高一の剣道大会で日本一に輝いた猛女だ。
オレの名前は斉藤謙と書いてユズル。
崖下にダイブして大破した車の後席で気を失っていたオレ。
肋骨何本かと両足が折れていたらしい。
引きずりだし、止血や副え木の応急処置、さすがは元自衛隊だよ。
親父が背負い、持ち運べる荷物を姉貴が背負って、彷徨ってた。
で、霧が晴れたときは道に飛び出て、助かったと歩いていた。
怒声が聞こえて、とっさに、オレを降ろし(放りだと思う)、
大声をあげ、オオカミ・・・ハイウルフというE級魔物の三頭を挑発。
駆けつけて素手でボコったそうだ。
姉も荷物から抜刀術の真剣を出し、鞘を払って応戦したそうだ。
そこは、オレを守るべきじゃないのか?
危難を救われた領主一族のカイズ=アルステッド(子爵)と妻のキリア。
オレたち家族の事情を察し、色々と力になってくれている。
なんでも、黒髪黒目の『迷人』は珍しくないらしい。
「ところで、ユズルは、もう神語で会話ができるんだろ?」
「は、はい」
「こいつ、ステータスが色々不明で、すねてるんですよ」
「いや、まあ、まだ11歳、適性はそのうちわかるでしょう」
動けるようになって、街のエーズ神殿に連れて行かれた。
神官職の魔法『語学』は、会話能力が頭に刻まれるようだった。
文字の読み書きはそれとは違って自分でやらなくてはならないが・・・。
『鑑定』は人の適性、称号、加護などがわかる。
親父は、37歳 適性【A?闘士】称号【迷人、楽天人】加護【武神】
姉貴は、15歳 適性【A?剣士】称号【迷人、正義人】加護【武神】
オレは、11歳 適性【????】称号【迷人、苦労人】加護【??】
力量・能力などは鑑定魔法の上級レベルか、魔道具で詳しく調べられる。
「とにかく、学校への転入手続きをしますよ。リーナと同学年ですわね」
奥さんは教師の素養もあり、読み書きを家族に教えてくれている。
辺境領地はお高くとまっていたら運営出来ないと屈託がない。
同い年11歳のリーナは次女、7歳のサイズが長男。
揃って金髪美形、目の色は青系と灰色系の白人種だ。
長女13歳のキュリは王都の王立学園で寄宿生活。
13~15歳の卒業後は16歳で成人式ということ、
この世界では結婚が早いらしい。
平民は13歳から働くことも珍しくないと聞いた。
「領主が常時募集している領兵で活躍して欲しいと・・・」
「ランコは若いので冒険者という道も考えられるんですよ。
わたしも若かったらと思うけど」
「あたし、興味あるの」
「う~ん」
「いったん冒険者という手もありますよ。
一兵卒からのたたき上げより、実力が昇進の参考にされますから」
オレはボッチ体質、小学校でも浮いていた。
子供らしくないとよく言われる。
ゲーム知識で、魔法と冒険者のファンタジー世界の事も知っている。
アルステッドの領地は領内でも最南の魔の山に接している。
有用魔植物の採取や魔物狩りで冒険者も活発らしい。
親父と姉貴が魔物狩りに行きたいと盛り上がっていて、ため息が出る。