復讐屋 1人目 (前半)
ある男が路地裏に立っている。黒いローブにフードを被った怪しい男だ。顔は見えず姿もはっきりしていない。言うならば”影”の様な男だった。
そこに1人の貴族風な服を着た若い女が現れて男に声をかける。
「貴方が”復讐屋"?」
男はにやけながら答える。
「違いますよ。私はただの案内人です」
「案内人?」
「そうです、案内人。私はただ主人の為に”お客サマ”を案内するだけです」
男は相変わらずにやけたまま説明する。
「そう、なら案内してちょうだい?貴方の”主人”とやらに」
「分かりました。ではついて来てください」
そう言うと男は奥へ、奥へと歩き出した。そして女もそれに着いて行く。
すると奥に一つ、ドアがあった。
男は言う。
「もしお客様が復讐を本当に成し遂げたいのであればこのドアをお開けください。しかし、少しでも邪念がある様なら・・・。ここからは私の口からは申し上げられません。その場合は早めにお引き取りすることをお勧めします」
女は息を飲む。しかし、ドアからは禍々しくも魅力的な雰囲気が漂っており、自然と引き込まれ、ドアを開いた。
「では、良い復讐を・・・」
男がそう言うと、女の意識は一瞬にして闇に囚われた。
女は貴族の娘として生まれた。
そして女には将来を約束した婚約者の男がいた。男はとても有能・・・とは言い難かったが優しく、時には勇ましかった。
ある時、婚約者が奴隷を1人買った。いわゆる性奴隷という奴だったが婚約者いわく、悪辣な貴族に買われそうになっていたところをかわいそうになって善意で買ったらしい。
しかし、当然納得いくわけがない。いくら善意だとしても自分という女がいながら女の奴隷を買ったのだ。許せるはずがない。取られるわけにはいかない。その為には奴隷を追い出さねば。その為に貴族の女はその奴隷を虐めて虐めて虐め抜いた。”自分が捨てられない為に”
ある日、貴族の女は婚約者に呼ばれた。
婚約者の口から出たのは、貴族の女への甘い、愛のある言葉ではなく怒鳴り声だった。
貴族の女は泣きながら弁解する。しかし、正義感の強い彼には聞く耳すら持たれず。婚約は破棄、貴族の女は捨てられてしまった。婚約者の男は奴隷を愛してしまっていた。
————————————————————
貴族風の女が夢から目を覚ますと質素な椅子に座っていた。そして正面にはとても綺麗な少女が座っている。
少女が口を開いた。
「いらっしゃい、お客サマよ。お望みは復讐か?復讐か?それとも復讐かの?」
貴族の女は唖然として口を開ける。
「おお、自己紹介がまだじゃったの。わしはここの、復讐屋の店主じゃ!まあ、好きに呼ぶが良い。」
貴族の女がようやく口を開く。
「貴方が・・・店主?復讐屋の?」
「そう言っておろう。お客サマも”扉に喰われていない”のを見ると、目的があって”案内人”に声をかけてここに来たのじゃろう?」
貴族の女の目の色が変わる。
「そう・・・だった。許せない、あの奴隷もあの男も。全部、全部全ぶぜんぶ壊してやる・・・」
「ほぅ、いい目をしとるじゃないか。ここまで綺麗な目は”案内人”以来じゃな。気に入ったぞ!さぁ!どんな復讐を望む?」
店主は心底楽しそうな目で貴族の女を見る。
「さあ!復讐を始めようぞ!」