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好みの香り  作者: おみくじ
4/7

頬の手形と、鉄板の焼き焦げ

 学校から帰宅した爽太は、自分の部屋に引きこもっていた。

 勉強机でしょんぼりと項垂れながら、机の上に置いてある白のハンカチを見つめては、

「はあ~……」

 と、深くて重いため息を何度もついている。もうかれこれ1時間はそうしているだろうか。

 

 アリスへのスカートめくりの件で、あの後爽太は、取り巻きの男子達も含めて藤井教諭にみっちり叱られた。そして、今後スカートめくりはしないように、と大きく釘をさされたのであった。

 

 藤井教諭の立会いのもと、爽太はアリスにちゃんと謝ったものの……。

 悲し気な様子で終始俯いたままだったアリス。

 返すタイミングが解らず、そのまま家に持ち帰ってしまったアリスの白のハンカチ。

見るたびに、爽太の心が痛む。

 

 どうすればアリスにちゃんと許してもらえるだろう。どうすれば、もとの元気で明るい顔をみせてくれるだろ。

「はあ~……」

 ガチャリ。

 突如、部屋のドアが開く音に、爽太の両肩がビクッと跳ねる。慌ててハンカチをポケットに隠した。

「爽太、あんたなに? 珍しく大きなため息なんかついて」

 爽太の母である絹江は怪訝な様子で尋ねた。 

 爽太は慌てて話す。

「べ、別になんもねえし!? そ、それよりさ! 勝手に入ってくんなよ‼」

「はいはい。そんなことより、ちょっと店を手伝ってくれるないかい? お客が多くて焼くのが間に合わないのよ」

 開け放たれたドアから、ソースのこうばしく焼けたスパイシーな香りが、ふわふわと、爽太の部屋に流れ込んでくる。

「ええ~……、今、そんな気分じゃないんだけど……」

「…………、小遣い減らすよ」

「…………わ、わかったよ」

 爽太は眉間にしわを寄せながらも、絹江と一緒に自分の部屋から出て行った。

                  〇

 閉店後、爽太が鉄板の掃除をしていた時だった。

「爽太、あんた今日、女の子とケンカしたでしょ」

「なっ⁉⁉」

 カチャン‼ カチャコン‼

 爽太は思わず手にしていたコテを鉄板の上に落とした。かん高い音が店に響き渡る。爽太が声を荒げる。

「なっ、なんだよいきなり⁉」

 絹江はあきれた声を出す。

「あんたの顔にそう書いてあるんだよ」

「はっ、はあ⁉ そんなわけねえだろ⁉」

「じゃあなんだい、それは? あんたのその、ほっぺたに付いた手形のあとは」

「へっ? あっ!?」

 爽太は慌てて左頬を片手で隠したがもうすうすでに遅かった。

 今日、常連客のおっちゃんらが、『そうちゃん、今日学校でなんかあったんかい?』とニヤニヤしながら聞いてくることが多かったのは、これのせいだったのか。

 左頬がジーンと急にうずく。アリスの悲し気な表情、涙が脳裏に浮かぶ。

「あんた、その子に手を出してないだろうね」

 ギロリと絹江の鋭い視線が爽太に向く。爽太の体が強ばる。

「手、手は出してない」

 そう言ってハッと思う。スカートをめくるというのは、ある意味手を出しているのではないかと。

 難しい顔で俯く爽太に、絹江は呆れた声を出す。

「まったく……。ちゃんとその子に謝ったんだろうね」

「あっ、謝ったよ ! ちゃんと!」

「ふ~ん。ちゃんと許してもらえたのかい?」

「…………うん」

「ふ~ん、…………、それなら、良いんだけど?」

 絹江の問いただすような声音に、爽太はつい顔を伏せてしまった。大きな鉄板に視線を集中する。鉄板の上に落としたコテ。今度はしっかり持ちなおし、鉄板に付いた焼き焦げを一心不乱にを落としにかかった。

 ゴリ、ゴリ、ゴリ、 ゴリ。

 鉄板についた焼き焦げは、今日はなぜかやけにへばり付き、中々落ちてはくれなかった。

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