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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

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第36話「愛しき幻影」

 クロードはすぐに意識を取り戻した。

 ほんの一瞬だったが、大英雄と謳われた彼ですらあの少女の持つ神剣の力によって意識を失ってしまっていたのだ。


 だが、周囲の景色はおぼろげに見えた。

 軍人たちがその場で虚空を見つめながら佇み、あのトトと名乗った少女が苦しそうにしながらもよろよろと立ち上がろうとしている。

 すぐにでも対処しなければならない。しかし、いま見えている景色は本当に現実のものなのかという不思議な感覚を覚えた。


 まるで、この世ならざる空間に迷い込んでしまったかのような気分になる。

 そして、それがただの気のせいではないというのがすぐにわかった。


「――あなた」


 その声を聞き、“彼女”の顔を見た時、表情を堅く引き締めていたクロードは思わず目を見開いて声にならない呻きを上げた。

 何度か口を開けては閉じ、それでも意を決してその人の名を呼んだ。


「ナスターシャ……」

「あなた、どうしたの? そんな顔をして」


 長い髪の女性が首を傾げた。

 青みがかった髪は艶やかで、穏やかな雰囲気の女性だった。

 公爵家夫人にしてはいささか質素に見えるドレスを身に纏っていたが、それは彼女の美しさを損ねてはいない。

 

 その青い瞳には生前と同じく、優しい光が灯っている気がした。

 でも、微笑を浮かべていた彼女は、すぐに表情を曇らせた。


「あなた? どこか、苦しいの?」


 淀みない足取りで歩いてきた女性が、クロードを見上げながらその頬を優しく撫でた。思わず片手でその手を強く掴んでしまう。


「大丈夫? 何かあったの……?」

「ナスターシャ、私は……」


 クロードは苦渋に満ちた顔をしていた。

 すぐにでも、目の前にいる女性を抱きしめたい。強く抱きしめて、その存在を確かめ合いたい。


 結婚を控えた前日。ナスターシャを抱きしめた時、あまりにも抱く力が強かったからか、「痛い」と言われたものだ。慌てて彼女を解放した時、今度はナスターシャの方から抱きついてきた。

「おかえし」。

 そう呟いて抱きしめてくる彼女の可愛らしい姿と小鳥がさえずるような美しい声は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。またその感覚に浸り、そのまま永遠の時を過ごしたいと思わずにはいられなかった。


「あなた? 抱きしめて、くれないの?」

「……っ!」

「それじゃあ、今日は私から……えい」


 優しい抱擁。

 温かで柔らかな感覚がクロードの脳内を支配する。

 愛おしい妻の背を優しく撫でながら、クロードは呟いた。


「すまない」

「? どうして謝るの……?」

「私は君を守ってあげることが、出来なかった……」


 かつて、彼女の墓前でも同じことを言った気がする。

 呻くように吐き出された言葉に、ナスターシャは優しく返す。


「そんなこと、まだ気にしていたの? 大丈夫よ。私は平気」

「……」

「もう。私のためを想って言ってくれているのでしょう? 私が平気だって言ったら平気なの。だから、そんなに暗い顔をしないで。ね?」


 頑なな自分の心を甘く溶かしてしまうような言葉だった。

 その言葉に耳を傾けているだけで得も言われぬ幸福感に包み込まれそうになってしまう。

 クロードは理性を働かせるのに必死になりながら、言った。


「君は、幻影だ」

「……」

「今でも私の心の中にいる、優しく温かで……可愛らしい君の姿そのままの、幻に過ぎない」


 ナスターシャは何も言わなかった。

 ただ、次に続く言葉を待っている。そんな気がした。


「それでも、謝らなければならない。私は、君だけではなく、シャルのことも守れなかった」

「そんなことはないわ。あなたはずっとあの子の傍に――」

「近くにはいた。だが、それだけだ。私はあの子の心の支えになってやることが出来なかった……」

「またそうやって自分を責める。あなたの悪い癖だわ」


 ナスターシャはクロードを見上げ、少しだけかかとを上げて彼の頭を撫でた。

 子供をあやすかのような仕草だった。

 前にも、何度かこんなことをしてくれた。当時はそれが気恥ずかしくて、そっけない態度を取ってしまったものだ。

 今はただ、そんな彼女の優しさに身を委ねる。


「あなたがいなかったら、シャルロットの心は完全に壊れてしまったに違いないわ。私はいなくなってしまったけれど、でもあなたが傍にいたからシャルロットは何とか理性を保っていられるの。あの子はあなたをちゃんと頼りにしているわ。それにエルザのことも、ね」

「もう手の施しようのないほど、シャルの心は壊れてしまったのにか……?」


「シャルロットは強くなったわよね。剣の腕だけなら本当に。確かにそれは憎しみによってもたらされたもの。今では強い復讐心に囚われてしまったけれど、あの子の優しさは失われてはいないわ」


 ナスターシャは、クロードの瞳を見つめながら穏やかに続ける。


「それは、あの子の傍にいるあなたがわかってあげなければいけないこと。本当に、あなたはちゃんとあの子と向き合ってあげている? 変に意識して接するのを遠慮していない? 今のあの子に必要なのは、ただ1つ。あなたからの惜しみない愛情だけ。それを忘れないで」


 自分にはもうあの子を救ってやることは出来ない。

 愛情を注いであげられる資格などない。

 だが、向き合うことを避けていたのは紛れもない事実だった。軍務にかまけてあの少女と深く接しないようにしていた。


「どうか、あの子を優しく包み込んであげて。私の代わりに」

「……」


 クロードは何も答えないままだった。

 片手で彼女の背中を撫でながら――もう一方の手で握られた神剣はかたかたと震えている。

 彼女のこの優しい言葉も、すべては自分の心が作り出した幻――。


「すまない、ナスターシャ。すまない……」

「せっかく久しぶりに会えたのに、あなたは謝ってばかりだわ。そんなに辛くて苦しいなら……私とずっとここにいる? シャルロットもエルザも、グランデンにいるすべての人まで放って、ここにいる? あなたを必要としている人たちのことを考えないで、ここにいる? あなたがそれを望むなら、私は止めない。私はあなたの心が生み出した幻影なのだから」


 それが出来たら、どんなに楽か――。

 だが、自分には守らなければならない者たちがいる。

 シャルロットとエルザだけではない。この街の民に軍人たち、ひいてはグランデン領のすべてを守護する者としての責務がある。


 クロードは、優しい幻影の言葉に心を揺さぶられながらも、唇を強く噛み、意を決した。

 そして、ナスターシャからそっと身を離し、彼女の左肩を優しく支えながらその青い瞳を見つめる。


「君に、伝えなければいけないことがある」

「ええ」


「とても、辛いことだ」

「うん」


「私を恨んでくれていい。君にはその資格がある」

「あなたを恨んだりなんてしないわ」


 クロードは、表情を変えないままだった。

 いつものように無表情でいながら、でも、その片目からだけ一筋の雫が流れていることに彼は気付いていなかった。


「君を、斬る」


 そう告げると、ナスターシャはふっと微笑んだ。


「あなたならそう言うと思ってた」

「……すまない」

「またそうやって謝る。いいのよ、それがあなたが選んだ道で、そしてあなたにとって必要なことなら、私のことなんかばっさりしちゃえばいいの」


 軽口を言うかのような口調だった。

 ナスターシャは笑ったままだ。在りし日に見せてくれた、穏やかな笑みのまま。


「さあ、斬って?」

「……」


 幻影だとわかってはいても、胸が締め付けられるような思いに駆られる。

 彼女を斬り捨てれば、このおかしな感覚から解放される。この、優しく脳髄を侵食してくるような虚構の世界も崩れ去る。

 クロードがすっと神剣を構えた――その時。

 ナスターシャの笑みが陰り、彼女は少しだけ困ったように眉を曇らせる。


「でも、最期に見たかったな」

「……何、を?」

「あなたの笑顔」


 笑顔。

 最後に笑ったのはいつだったか、もはや思い出すことも出来ない。

 自然と呼吸が荒くなり、冷や汗を流しながらも、クロードは――。


「……すまない、ナスターシャ……」


 血飛沫を上げて倒れ込むナスターシャは、あっという間に消え去った。

 そして視界が一気に明瞭になる。


 眼前に紫色の髪をした少女が迫っていた。

 彼女は驚愕を露わにする。


「っ! へぇ~、最愛の女性も簡単にぶった斬るんですね、大英雄さまって」


 クロードの神剣が振るわれた。

 トトは瞬時に反応して後退したが、それでも胸元に深手を負う。

 そんな彼女を見て、クロードは神剣を構えながら言った。


「私が愛した女性ひとはもう、いない――」







 大英雄クロード・デュラスが神剣を構える。

 だが、表情にこそ出してはいないものの、その頬を冷や汗が伝い、呼吸が荒くなっているのが見て取れた。

 幻影とはいえ、最愛の妻を斬ったこと――そして、神剣メアヴァイパーによってその脳みそを強く侵食されたことが原因だろう。


 あの能力は、人間の脳みそをとろけさせる。

 並の人間なら、かつて失った家族や恋人、親友との再会に歓喜し、それが幻影だと気付かないまま、夢心地の気分に浸る。それはどんな痛みや苦しみをも覆ってしまうほどの強い安らぎだ。

 悪魔の抱擁とでもいうべきその能力に脳みそを侵食された者を放っておけば、優しい幻影と共に過ごし――最終的には餓死する。


 今までに襲撃された神殿の人間たちは、夢心地になった時を見計らい、ハインの邪剣レド・メスキュオレの餌食となった。

 犠牲者たちは苦痛も何も与えられることなく、彼の邪剣によってその魂を囚われたことになる。

 今回、神殿を襲撃した幽体たちの多くはそういった苦痛を味わう間もなく息絶えた者たちのなれの果てだった。


 本来、死者は生前の苦しみや恨みが強ければ力を増す。当然、恐怖や苦しみを感じさせながら殺めた方が戦力的には多少なりとも優位になっただろう。

 ならば、何故そのようなことをしたのか。トトの本来の性格からすれば、嬉々として逃げ惑う人間たちを切り刻みながら哄笑こうしょうをあげたはずだ。

 それでも、幻影によって痛みを感じないまま殺すことを選んだのは――とある存在の言葉によるものからだった。


『ねえ、トト。私にはわからないことがあるのです』


 愛しきあのお方の言葉。

 全知全能であるはずの彼女から発せられた思いもよらぬ言葉にトトが困惑していると、そのモノは顎に指を添えて考え事をしながら呟いた。


『人という生き物は、いずれ死に至る。安らかなる死も、苦悶に満ちた死も、死であることに変わりはない。しかし、息絶えた時の心のありようによって、その者は時に凄まじい力を持つ死者アンデッドとなることがある。でも、同じ死という結末に至りながら、満足して天に召されてしまうこともある。――両者の違いは何なのか。とても不思議なのです。そうなってしまう理由はわかるのですが、理解は出来ません』 


 それは貴女さまが死を超越した存在であるからわからないのだ。

 死という概念から外れた存在だから、いくら考えても理解できないのだ。

 人間には道端を這い回るアリの心がわからないように、貴女さまもまた愚鈍極まる人間の死に様などというどうでもいいことをわざわざ解する必要もないのだ。


 熱心に心の底から思っていることを伝える。

 愛しき女神は、小首を傾げてずっとその話を聞いた後、こう言った。


『そういうものなのでしょうか。では、トトはどのような死を望みますか?』


 即答した。

「貴女のために死ねるなら、どのような死に方でも構わない」と。

 愛しき女神は言った。


『そうですか? 私のためなら、ベッドの上で眠るように召されるよりも、苦辛くしんのうちに悶え苦しみながら死ねるというのですね?』


 トトはこくこくと頷く。

 その時、女神はトトに近づいてその華奢な身体を抱きしめた。

 温かくて柔らかくて、得も言われぬような幸福感に包まれる。


『トトはいい子ですね。あなたが苦しみながら死ぬ姿を見たくはありません。――私は苦痛の果てに召される者を数多く見てきました。ですが、幸福――あるいは安らかなる死を迎えた者を見たことはほとんどありません。此度の件でも、夥しい数の人間が苦痛を抱きながら死に絶えることでしょう』


 女神はトトの紫色の髪を撫でた。

 そして、優しい手つきでゆっくりと髪を結ってくれる。

 時間がある時には、いつもこうやって愛でてくださる。

 優しい言葉を一身に受けながら、至高の存在である女神の手が髪先に触れるだけで、これまで感じたことのないほどの凄まじい幸福感が脳内を甘く満たす。


「ですから、せめてもの手向けとして――今回は苦痛なき死を、与えてあげましょう。それを実現させるための力を、トトは既に持っているでしょう?」


 神剣メアヴァイパー。

 愛しの女神から下賜かしされた神剣には、そのような力があった。

 夢幻むげんの中で、かつて失った大切な者たちの姿を垣間見ることが出来るのだと。


 トトは快諾し、そして今回の事件でその力を振るった。

 メアヴァイパーの能力は凄まじく、ハインの凶刃にかけられた者ですら安らかな死に顔をしていた。まったく苦痛を感じないまま逝った証拠だった。

 だが、1人だけ、トトが襲撃を終えた直後にそれまで神殿を離れていた修道女が帰還を果たした時があった。

 ハインは彼女も手にかけようとしたが、トトがそれを止めたのだ。


 メアヴァイパーの力により、幸福なまま過ごした人間がどうなるのか確かめたかった。

 だから能力を使った後、その修道女だけは生かしておいた。

 結果は、餓死らしいということが後の調査でわかった。


 餓死は死の中でも苦痛が長引くものだ。にもかかわらず、修道女は死ぬまでの間ずっと夢心地だったらしい。

 一瞬の苦痛と共に命を奪われることと、何も口にせず餓死するまでつかの間の夢に浸かること。

 果たして、どちらが残酷なのか。


 ハインに喰われた多くの者は強制的に彼に使役させられる幽体となるが、修道女は死者アンデッドとなることもなく、その魂は冥界かあるいは、いずこかへと旅立ったらしい。

 それは餓死という苦痛すら感じさせない強い幸福感によるものなのか、単に未練がなかったから幽体となることもなかったのか、正確なことはわからない。

 だが、神殿で死した者も、餓死という結末を迎えた修道女も幸せな幻を見ながら逝けたのだ。そこに何の不満もあろうはずもない。女神の慈悲深いお言葉に深く感謝するがいい。それがなければ、お前たちは苦痛に喘ぎながら死んだのだから。トトは心の中でそう呟く。


 そして、トトは傷の再生を確認した後、瞬時に起き上がった。

 大英雄は立っているのもやっとの有り様だった。メアヴァイパーの能力を克服したとはいえ、直後にかかる負担は相当なものだろう。

 だが、あの状態ですら自分の力では勝てないと即断し、大英雄を捨て置いて神殿の内部へと駆けた。素早さだけならこちらに分がある。


 神殿の奥で待機していた神官や僧兵たちが一斉に出迎えるが、メアヴァイパーの水の槍による攻撃が縦横無尽に発揮されすべてを貫いた。

 血と臓物に溢れる神殿を走り抜け、最奥へと到達する。

 そこには巨大な水晶があり、その前には1人の老婆が立っていた。


「……あんたみたいなガキが、神殿襲撃事件の犯人だって言うのかい?」

「あんまり人を見た目で判断しない方がいいですよー? ねえ、神官長の『お嬢ちゃん』?」


 齢70に近いドロテー神官長はわけがわからないといった様子だったが、神聖術式を発動させようとしていた。

 トトはメアヴァイパーに神気を溜め込み、相手の神聖術式の発動と同時にそれを解き放った。

 神気による強力な一閃は、禁術に迫ろうかというほどの攻撃的な神聖術式を容易に無効化して神官長の老体を切り裂き、彼女が守っていた巨大な水晶をも貫通させた。水晶が粉々に砕け散る。


「ぐはっ……!」


 神官長が倒れ伏し、水晶が砕け散ったところで足の力が抜けそうになる。

 立っているのも苦しいほどだった。


 メアヴァイパーの力は強大だ。

 その負担はトトの身体に重く圧し掛かる。

 普段であれば何とか耐えられるそれも、大英雄の斬撃によって致命傷を負ったトトには流石に堪えた。その場で倒れそうになり、慌ててメアヴァイパーを床に突き立ててそれに体重を預けたまま荒い吐息を吐く。


 背後から凄まじい殺気を感じたのはその時だった。

 気が付いたと同時に衝撃波がトトの華奢な身体をふっ飛ばし、神殿の壁に叩きつけられる。


「がぁっ……!」


 そこには大英雄が立っていた。

 満身創痍の様子でありながらも、その力強い一撃は何も変わらない。

 だが、トトは不敵に笑う。


「くっ、くくっ……任務、かんりょーです……」

「……貴様の目的は何だ」

「さあ? それはトトの口からは……ぐっ、いてぇなちくしょ……! ま、まあ、いいやもう、あんたとまともにやり合うつもりはねーです、身が保たねえ……!」


 トトは苦悶の表情を浮かべていたが、不意に手にしていたメアヴァイパーの切っ先を自らの胸元へ向けた。そして――。


「がっ……!」

「!?」


 神剣が胸に深々と突き刺さる。

 瞬間、彼女の胸元から鮮血が噴き出し、身体全体から青白い光が放たれた。


「ぐふっ……。し、真の地獄は、これから……始まる。トトは一旦おさらばです……。あんたらがどんな死に様を迎えるか、遠くから……見守って、あげ……」


 トトの言葉は途中で切れ、彼女の姿がその場から一瞬にして掻き消えた。

 それを見たクロードは驚愕した。


「……転移、術式か……?」


 額から大量の冷や汗が垂れ落ちた。

 彼女は今まで神剣による攻撃ばかりを行い、魔術は一度も使わなかった。

 まさか魔術の中でも極めて高度とされる転移術式を扱えるとは予想だにしていなかったのだ。

 しかも、その発動条件は恐らく自刃すること。にわかには信じがたい現象だが、あの少女は心臓を貫いてなおまだ生きている。


 クロードはまるで頭を握り潰されんばかりの凄まじい頭痛と、目の前がぼやけるほどの激しい目眩に襲われながら、少女が転移した先を探そうと踵を返した。

 足元がふらつき、たたらを踏む。それでも、前に進もうとした時。


 キシン――と。

 何かが軋むような違和感を覚えた。

 また幻覚か何かかと思ったが、その軋むような感覚は次第に明瞭な音となって辺りに響き渡った。


 激しい焦燥感に襲われる。

 これまでに感じたことのないほど、とてつもない悪寒が全身を震わせた。

 このグランデンの地にかつてないほどの危機が迫っている。

 クロードはそんな思いに駆られながら、神殿から出るために歩を進めた。

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