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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

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第31話「迫りくる死者の手~前編~」

 レナが言う死者の行軍。

 それが本格的に行なわれるとすれば、夜になってからだと思われた。

 僕が軍学校の寮に戻る道中、グランデン領の軍人たちが慌ただしく動いているのを何度も目撃した。


 レナのあの言葉から1時間ほど。

 現時点ではまだ死者の気配は感じられないけど、軍部では既に情報が行き渡っているのかもしれない。

 その時、金髪を頭の右側で結っている少女とばったりと出くわす。


「クラリス? どうしたんだい、そんなに急いで」

「テオドール……! あ、いえ、これは……」


 クラリスの背後では、彼女の指揮下にいると思しき軍人たちが剣や魔導銃を手にしながらいつ襲われてもいいようにと臨戦態勢を取っている。


「死者の気配に勘付いたかい?」

「なっ……!?」

「別に隠さなくていい。ま、無理に話さなくてもいいけどさ」


 そう言ってやると、クラリスは逡巡した後にぽつりと言った。


「いえ。今は緊急事態です。何が起こっても我ら軍人だけで必ずや解決に導けるものだと考えてはいますが……万が一の場合に備えて、貴方がた特待生にも事情を話しておきましょう」


 クラリスの言うところによれば、デュラス将軍がグランデン領内の軍人たちに戦の準備を始めろと伝えたらしい。

 それと同時に、グランデン内部にある神殿から大量の死者の気配がこの地に迫ってくるという情報が伝えられたのだとか。


 ……神殿が先に感じ取ったならともかく、デュラス将軍の方が先か。

 いくら大英雄とは言え、中身は人間だ。


 長年テネブラエで過ごしてきた上に、半分は魔神となったレナなら死者の気配に敏感なのもわかる。

 だけど、そんな経験もないであろう人間がこうも素早く死者の気配に勘付くとは考えにくい。


 現にクラリス率いる小隊の面々も武器を手にしてはいるけど、少しだけ戸惑っている印象を受けた。

 突然、戦の準備をしろと言われてもこうなるのは当たり前だろう。

 ただの軍人程度であれば、死者の気配に気付く頃には既に手遅れとなっているのが普通なんだから。


 デュラス将軍が気付いた理由は大女神オルフェリアの加護によるものなのか、それとも――あの将軍の背後にいる得体の知れない何者かの介入によるものか。興味は尽きない。

 クラリスの説明を途中から聞き流しながら考えていると、ふと声がかけられた。


「おーい、テオー、クラリスー。一体何の騒ぎだー?」

「どこもかしこも軍人だらけでむさくるしいったらないわ」


 獣人娘2人組が道を行き交う軍人たちを見ながらもこちらに声をかけてきた。


「ああ、貴女がたも来てくれたのですね」

「うむ。余はシャウラと共に街中の飯屋で夕食の最中だったのだがな。何やら騒がしいので出てきたらこの有り様というわけだ」

「せっかくのロカとの憩いの時間が台無し。なぁに、神殿の襲撃事件の犯人が攻め込んできたりしたわけ?」


 興味深そうに辺りを見回すロカと、対照的にロカ以外のことにはまったく興味がないかのように自分の長い爪を眺めながらぼんやりと言うシャウラ。


「詳しい事情はまだ私のところまでは伝達されていません。今はとにかく、神殿に集結せよとのことで……。つい先程からテオドールにも伝えていたのですが」


 もう一度同じ説明をするクラリスを尻目に僕はくるりと踵を返した。


「というわけなので――って、テオドール? どこに向かうつもりなのですか!?」

「ちょっと用事を思い出してね。戦が本格的になったら呼んでよ」

「あ、ちょ、ちょっと待ちなさい……!」


 止めるクラリスの言葉も聞かずに、僕はさっさとその場を後にした。

 やがて辿り着いたのは人気ひとけのない路地裏。

 誰もいないそこの壁に背を預けながら呟いた。


「レナ、いるか」

『はっ、ここに』


 すぐ近くから聞こえてきた愛しい声を耳にしてから言う。


「状況はどうだ」

『はい……やはり、死者の大軍はこの地に迫っています。しかし、彼らは物体を透過する力があるため、地下深くに潜り込んでから進軍してきている者もいるようです。そのため、直接的な迎撃は難しいと思われます』


 レナにはこの地に迫る死者の大軍の様子を探らせていた。

 敵もやはり一筋縄ではいかないようだ。

 地面ごと破壊してしまえばわけもないが、それではこの街が崩壊してしまう。


『ただ、この地にはどうやら死者の侵入を防ぐ結界が張られているようです。神聖術式によるもので、かなり高度であるのが窺えます。これを突破するのは難しいのではないでしょうか』

「無策で来るはずもない。いかに強固な結界と言えど、何かしらの事象によって破られることを想定しておけ」

『かしこまりました』


 続きを促すと、レナは語る。


『この地には戦没者を埋葬する墓地もあります。霊体たちがその遺骸に憑依すれば、動く死体が相次いで発生する可能性が高いのではないかと愚行します。片端から斬り捨てましょうか』

「確かにその可能性はあるな。しかし、大抵はゾンビかスケルトンとなるのが関の山だろう。軍人たちだけでも事足りるはずだ、捨て置け」


 幽体が遺骸に入り込むと、時に厄介な死者アンデッドとなる場合がある。

 墓地の遺骸すべてが動き出せば、ただの軍人では手に負えないレベルの者が出来上がってもおかしくはない。


 死者の強さはその者の生前の強さや生への執着、恨み、憎しみなどの負の感情によって大きく変わってくる。

 稀に力ある悪霊が一塊になって大怨霊となり、それらが遺骸に入り込めば時に魔神ですら手を焼くほど厄介な化け物となってしまう場合もあるが……今回に限ってはそれはないだろう。

 そのような悪霊がいればとっくの昔に感知出来ているはずだ。


 端的に言えば、現段階での危険性は低いと思われる。

 軍人のうちの何人かは犠牲になるかもしれんが、所詮はその程度だろう。


 それだけに、引っ掛かる。

 この死者の軍勢を率いている者は一体何がしたいのか。

 その趨勢を見極めるためにも、私はレナにこう命じた。


『ルシファーさま、本当に『ただ見守る』だけでよろしいのでしょうか』

「うむ。死者の群れなぞ取るに足らん相手だ。そんなものは軍人たちに任せておけばいい。神殿の警備には、あのクロード・デュラスが自ら馳せ参じるだろう。我らの出る幕ではない。それよりも、私には気になる場所がある」

『……高等魔法院ですね』


 先程、レナには私の考えを伝えていた。

 このグランデンの防衛の要はもちろん軍部だが、その他にも防衛に適した場所がある。

 それこそが、ミルディアナで末期の雫を造り出すのに使われていた高等魔法院だ。


 あの地ではエルフの差別主義が高まり、女神と呼ばれるナニモノかの傀儡であるギスランによって高等魔法院はいいように操られていた。

 だが、そのような主義主張の少ないこの地では高等魔法院は本来の目的の一つである都市の防衛任務も任されているはず。

 既に多数の魔術師たちが集結し、戦の準備に余念がないだろう。


 だが、クロード・デュラスの指令により、軍部の大半は神殿の警護へと回されたはずだ。

 高等魔法院にも戦力はあるが、十分なものとは言えないだろう。

 ――故に、敵はそこを突く可能性が高いのではないかと考えた。相手の目的はまだわからないが、このグランデンの地にて何かしらの陰謀を企てているのは明白。


 一番邪魔なのは軍部だが、高等魔法院も決して無視できない存在だ。

 ミルディアナほどの規模ではないにしろ、この街の高等魔法院は遥か昔から幾度も魔族との戦に立ち向かった経歴がある。

 ――神殿と連携して、魔族対策に余念がなかったからな。この地を攻略するのに手間取る者がいたのも確かだ。


 なればこそ、死者を用いてこの地に攻めるのであれば、警戒がどうしても緩くなる高等魔法院を狙うという図式が出来上がる。

 無論、死者は武器による攻撃にこそ強いが、魔術による攻撃に耐性のある者は多くない。

 仮に高等魔法院が一気に戦火に晒されたとしても、結果的に敗北を喫するのはやはり死者の軍勢の方だろう。


 導かれる結論は1つ。

 死者の群れは使い捨ての道具に過ぎないだろうということだ。

 そして、道具は使う者がいてこそ初めて効果を発揮する。私の狙いはそれだ。


「神殿にはあの将軍が向かうはずだ。であるなら、私は高等魔法院へと向かおう。死者の群れを適当に相手取りながら、思わぬ大物が網にかかるのを待つとする」

『私は、ルシファーさまの護衛にはなれませんか……?』


 レナが少し寂しそうな口調で問いかけてきた。

 まったく、過保護な妻だ。このような些事で何の心配があると言うのか。

 まあ、こうまで思われて悪い気はしないが。


「レナ。私はお前を信用しているし、信頼もしている。だからこそ、今回の戦には参加せずただ黙って見守ることを任せたのだ」

『……どういうこと、でしょうか』

「死者の群れなどよりも、もっと警戒すべき何かが起こる可能性が高い。覚えているか、この街に向かう道中、共に見上げた夜空に輝いた赤き星々のことを」


『赤星の煌めき、ですね。素敵な現象でした……けど、それと現状に何の関係が?』

「詳しい話は時間が出来てからしてやる。アレは確かに美しい。見る者の心を捉えて離さない魅力があるのも確かだ。しかしあの現象は紛れもなく凶兆。私ですら想像もつかないほどの何かが起こる先触れの可能性が高い」

『……! 凶兆、ですか……。あの輝きを目にした男女は幸せになれるというお話がありますのに』


「諸国によって言い伝えは様々だが、あの星々が輝いた時、災厄の種がこの大陸に撒き散らかされていると私は考えている。――レナ。私はお前を信用しているし、信頼していると言ったな。その意味がわかるか?」

『きょ、恐悦至極に存じますが……!! い、意味とは?』

「――あの空間の揺らぎも、何かの予兆に違いない。場合によっては、今の私では対処出来ない大災厄が起こる可能性がある。お前はそれに備えておけということだ。端的に言えば、か弱い夫を見守ってくれ、頼もしくて心強い我が妻よという話になる」


 そう言ってやると、それまで曖昧な指示を受けて戸惑っていたレナが急に畏まった口調で言った。


『かしこまりました! 至高にして最強なる魔王ルシファーさまの第三夫人として、全力を賭して貴方さまを守ると誓います!』

「いい心意気だ。流石は元勇者だな。頼りにしているぞ、レナ」

『はいっ! お任せを!』


 そう叫んだ途端、レナはあろうことかその場で姿を現して私に抱きついてきた。


「必ずお守り致します、ルシファーさま!」

「期待している」


 まるで主人の帰りを待ち侘びた犬のようにひっついてくるレナの身体を抱きながら、私は妙な胸騒ぎを感じずにはいられなかった。

 心臓をじかに指でなぞられているような、言いようのない焦燥感に支配されそうになる。

 これは杞憂か、それとも――。

 身体をぐいぐい押しつけてくるレナを宥め、何とか姿を消してもらった後に私はグランデン領内にある高等魔法院へと向かうことにした。





 戦闘に特化した軍人たちが続々と神殿へと集うのを、クロードはずっと眺めていた。

 グランデンの人口はおよそ三万人。帝国の首都の中では一番人口が少ない。


 軍人の数はおよそ一千にも満たない。

 その中から救護や支援を担当する衛生兵などを除けば、戦力は7割にまで落ちる。

 軍学校の生徒を含めれば頭数自体は増えるが、このような事態の時にまで導入するわけにはいかない。


 無駄に犠牲を増やす可能性が高い上に、相手は生身の人間や獣人、竜族などではなく、死者だ。

 軍学校では先のゼナン竜王国との戦の経歴と、昨今の周辺諸国の状況を鑑みて対人戦術及び、対竜族の戦術を積極的に学ばせている。

 戦場で死者が襲撃をかけてきた際の対処法も教えてはいるが、十分なものではなかった。


 よって、軍学校の生徒は警備には配置せず、グランデン領内で衛生兵と共に住民たちの避難誘導に尽力せよとの通達を出した。

 それはあのミルディアナの特待生たちも同じ。

 対天魔戦では凄まじい戦果を上げたとは聞いているが、それなら尚のこと、その力は民を守るために使われるべきである。


 時間の猶予がどの程度あるのかはまったくの未知数。

 死者の軍勢の気配はまだこの地に届いてはいないが、そう遠くない場所から夥しい数の怨嗟の叫びを感じる。

 神剣リバイストラの力によってそれが伝わってくるが、曖昧模糊としたものにしか思えない。


 クロードに死者の軍勢が迫っていることをはっきりと伝えたのは、もっと別の存在であった。

 その者からの忠告がなければ、死者の気配に気付くのはもっと後になっていたことだろう。


 と、その時。

 神殿の前に詰めていた軍人の中から、1人の老軍人が一歩前に出た。


「デュラス将軍閣下。戦闘に特化した者はすべて準備が完了致しました」

「すまないな、カルサティ少将。この短時間でみなを纏めるのには苦労しただろう」

「いえいえ、むしろみな活気付いておりますよ。何せ、実戦を経験していない者も多いですからな。自分の力を試す絶好の機会だと」


 老軍人がそう言うと、一部の若い軍人たちがわいわいと騒ぎ始めた。

 武勲は俺が貰うだの、死者などわけはないだの、確かにやる気に満ちた声がそこかしこから上がっている。

 クロードはその光景を無表情で見つめながら、在りし日の部下や友たちの姿を思い浮かべていた。


『クロード、こんな戦はさっさと片付けて飲みに行こうぜ! いい店を知ってるんだ』

『デュラス少佐! 必ずやあの竜族共を俺たちの手で成敗してやりましょう!』


 血気盛んな言葉を吐いた彼らはみな、竜族のあまりにも強大な力によりなす術もなく蹂躙されていった。

 つい数時間前まで元気に語っていた友が、戦場の一角で無残に切り刻まれた躯を晒していた。そんな姿を何度も見た。

 あの頃のような過ちを繰り返してはならない。故に、クロードは言った。


「鎮まれ」


 低いながらもよく響く声が周囲に伝わった途端、めいめいに騒いでいた者たちがぴたりと口を閉じた。

 ただの一声でアレほど騒がしがった者たちを鎮めたその光景に、歴戦の軍人でもあるカルサティ少将ですら目を瞠った。


「敵は死者の軍勢だ。今はこのグランデンの地から離れた場所に集まり、襲撃の機会を窺っている。死者はいつ襲いかかってくるかわからない。貴君らが勇み待ち構えたところで都合良く襲ってくるはずもなく、こうして集った我らが消耗するのを今か今かと待ち侘びている可能性もある。決して気を抜くな。何も起こらずに拍子抜けし、疲労を感じて眠気を覚えた正にその時、貴君らの命の灯火は消え果てるものと心得よ」


 軍人たちが一様に敬礼をする中、神殿の奥から1人の老女が現れた。


「ほっほぅ。こうるさいガキ共がみな黙り込んで言うことを聞くとは、流石はデュラス将軍閣下」

「ドロテー神官長、貴公は神殿の中で待機なされよ。死者の狙いは我ら軍人に非ず。貴公ら神殿にて勤める神職の者である可能性が高い」


「おぉ、怖い怖い。……でもまぁ、大英雄さまが護ってくださるんだ。それを知ってるあたしらは気楽なもんですよ」

「油断召されるな。死者の軍勢が大挙して押し寄せた際には、貴公ら神職の者たちの力も必要となる。くれぐれも用心なされよ」


「はいはい、わかっとりますよ。……しかし、このグランデンの地には死者を寄せ付けない結界術式を常時張っておりますよ。並の死者であれば、触れただけで消滅しかねないものです。あたしゃ杞憂だと思っとりますがね」

「……死者だけではない。あらゆる可能性を想定なされよ」


 恐らくその結界は破られる。

 死者ではない者の手によって。

 そう考えていた時、張り詰めていたその場所の空気とはあまりに似つかわしくない声が上がった。


「戦と聞いて、軍人でもないのにやってきちまいましたー! トトも戦ってもいいですー? あ、トトはトトって言いますー! よろしくですー!」


 その場にいた皆が一斉に声の主へと顔を向けた。

 どこか間延びした口調で元気よく言ったのは、旅人用の軽装を纏った少女だった。フードを脱いで、紫色の編み込んだ髪と素顔が露わになる。


「おぉ、トトちゃんじゃねえか!」

「ここは危ねえぞ……!」


 一部の軍人は顔見知りなのか、その紫色の髪をした少女へとひそひそと声をかけた。


「だいじょーぶですよー。こう見えて、トトって結構強いんですー」

「……トト!? どうして貴女がここに……!」


 クラリスまでもが思わぬ闖入者に驚いた様子で声をかけていた。

 それにトトは陽気に答える。


「軍人さんたちが話してたのを聞いたんですけどー、死者の群れがやってきてるって話ですよねー? なら、お力になれると思うんですよー。トトの愛剣でもあるこのメアヴァイパーは死者をぶった斬るのに向いてるんでー」


 彼女が腰に括りつけている鞘に納められていた剣からは、驚いたことに神気が感じられた。

 神剣は神に選ばれた者の中でも、更に特別な力を持っている者でなければとても扱えるような代物ではない。

 この少女はその見かけによらず、凄まじい力を宿しているのか。

 しかし、クロードはその少女から発せられるあまりにも異様な気配を察して口を開こうとした――正にその時。


 ビシリと『空間』が揺らいだ。

 瞬間、このグランデン領内を覆っていた神聖術式の結界が粉々に砕け散った。

 常人であっても違和感を覚えるそれに、軍人の誰もが息を呑んだ。


「け、結界が破られた……!?」


 ドロテー神官長が驚愕の声を上げ、周囲の者がざわついた時、トトは神剣を抜き放ってその刀身を露わにしながら言った。


「ありゃー。どーやら、悩んでる暇はないようですよー、デュラス将軍さまー?」

『グオオオオオオオオオオオォォォ……!!』

「ほぅら、穢れた死者の声が聴こえてきましたよー?」


 結界が破られたと同時に、死者から放たれる怨嗟の咆哮が轟いた。

 未知の体験に、それまで血気盛んだった若い軍人たちが一様に怯え混じりにざわめいた。


「鎮まれ! 敵の位置はまだ遠い。急いで陣形を整え、来るべき戦に備えよ! 決して単独で行動してはならない!」

「はーい、ここで注目ですよ軍人さん方ー!」


 クロードの指令の直後に、トトが大声で割って入った。


「死者――この場合は亡霊を指すんですけどー、そいつらは『死体』を利用しますー。もし仮に味方がトチってぶっ殺されたら、その死体は瞬く間に死者に乗っ取られて正に動く死体となって襲いかかってきますよー。そこで躊躇したら、いくら精強な軍人さんでもあっという間におっんじまいますー。動く死体は相手が誰であろうが、一切の容赦なくぶった斬ってくださいねー?」

「し、死体を利用するだと……」

「確かに教習でそのようなことを学んだ覚えはあるが……」


 若い軍人を筆頭に混乱が広がるのを見て、トトは面白そうに笑いながらクロードのもとへと近づいてきた。


「トトはこー見えても、戦は大得意ですー。きっとお力になれると思いますが、いかがしますー?」

「……わかった。貴君さえ良ければ、力を貸して欲しい」

「そーこなくっちゃ。さっすが大英雄さまですー。そういう柔軟な考え方、とーっても大事だと思いますー!」


 嬉しそうにはしゃぐトトが傍に来たところで、クロードは他の誰にも聞こえない声で言った。


「貴君は、今までに何人殺してきた」

「……ちょいと前に同じ質問をどっかの誰かさんにされたよーな」

「少しでもおかしな動きをすれば、即座にその首を刎ねる。ゆめゆめそのことを忘れるな」

「おーう、おっかなーい! 了解ですー」


 物騒な言葉をかけられても、トトはまるで動じた様子もなくすぐにクロードの傍を離れた。


『グオオォ……ォォォ……!!』

『ガアアアアァァ……!!』


 死者の怨嗟の声が響き渡る。

 城砦都市グランデンに向けて、着実に死の気配が迫っていた。

先月は一度しか更新出来ず申し訳ないです。

今後は作業次第で頻度が変わりますが、なるべく更新していきたいのでよろしくお願い致します。

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