表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/141

幕間「東方の女帝」

 月明かりだけが照らす城塞に耳をつんざくような爆発音が何度も響き渡る。

 高度な禁術による攻性術式だろう。密偵の報告により、深夜になってから城塞を襲撃するという情報が入り込んでいたために準備は万端だった。


 周囲を森に囲まれた城塞は瞬く間に崩壊していく。

 城塞からおよそ50メートル以上離れた地にいたキアロ・ディルーナ王国の魔術師たちは作戦の成功を確信したのか、崩れ去った城塞を前にしてのんきに笑い合っていた。


 その光景を闇夜の森の木陰から覗いていた女――獅子の獣人は背後にいる配下たちに目配せをした。

 そして――魔術大国の魔術師たちが気を抜いてその場から離れようとした正にその時。


 木陰から跳び出した獅子の獣人と、その配下およそ30名が一斉に魔術師たちに向かって駆けつける。

 駿馬しゅんばとすら比べられないほどの恐るべき速さで迫った獅子の獣人は、やっとのことで異変を察知した魔術師たちに襲いかかった。


「なっ!? ど、どこから――がぁっ!?」

「どうなってやが――る……」


 瞬く間に2人の首筋を切り裂き、鮮血が吹き上がったのを尻目に獅子の獣人は次々と魔術師たちを襲った。

 彼らの最大の弱点は接近戦にある。ただの戦闘であれば結界術式で武器による攻撃をある程度防ぐことも出来たが、獅子の獣人は神の加護を受けた神使だった。

 彼女の爪による一撃は結界など簡単に貫通して魔術師たちに致命傷を与えた。


 慌てた術者の男がその場で禁術を放とうと詠唱を唱え始めた時、その背後に迫った虎の獣人が男の首の骨を叩き折った。


「そんなんじゃ仲間まで巻き込んじまうぜ!」


 魔術師たちのもう1つの弱点。それは威力の高い術式を使う判断に迷いが生じることだ。

 味方を巻き込まないようにするか、それとも仲間もろとも自爆を覚悟で術式を放つか――高度な判断を迫られて一瞬で対処出来る者はほとんどいない。


 その後も30名にもなる獣人たちが、同じ規模で構成されていた魔術師たちを瞬く間に屠った。

 中にはいざという時のために接近戦に特化した剣士たちも含まれていたが、突然の獣人たちの襲撃によってあっという間にその命を散らした。


 魔術大国の中隊が全滅するのに1分もかからなかっただろう。

 仕留め損なった者が酸欠で苦しんでいる様子を見て、獅子の獣人――『レザン・グロウ女帝じょてい』がせめてもの情けとばかりに心臓を貫いてトドメを刺す。


 絶命した者たちの身体から『紫色の光』が溢れ出し、それは中空を漂った後に大地に吸い込まれるようにして消えていく。

 その幻想的な光景の中、レザンに近寄ってきた虎の獣人の男が言った。


「上手く行きましたね、あねさん。ま、城塞は見事に吹っ飛んじまいましたがこっちには怪我人すら出てねえ。作戦は成功っすよ」

「……みたいだねぇ。アタシら獣人は蛮族共と違って夜目が利く。それを逆手に取っての急襲だったんだろうが、事前の情報のおかげで助かったってわけか」


 赤茶色の波がかった髪をしたレザンは、彫りの深い顔立ちをした20代後半の女の獣人だった。

 獣人族の女が着用する民族衣装は動きやすいように改良され、露出した腕は筋肉がついて引き締まっていた。

 腰巻も足の動きを邪魔しないようにスリットを入れている。そこから剥き出しになっている脚もまた同様だった。


「しっかし、キアロの連中もいよいよなりふり構わなくなってきた感じっすね」

「帝国軍とアタシらが手を組んだのを悟って焦ってるのかもしれねえ。しかし、攻を急いでるにしちゃ実力者を無駄死にさせてるようにしか見えねえのはどういうことかね」


 キアロ・ディルーナ王国では、位の低い禁術程度であれば自在に扱える者もそこそこの数がいる。

 一方、ルーガル王国では魔術に関する耐性がある者はいない。

 一見すれば圧倒的に不利ではあるが、意外なことに戦局はルーガル王国に分があるようだった。


 今回、急襲を仕掛けてきたのはかなりの実力者たちだった。

 肉体の強弱はともかく、魔力を操る力には長けている。

 わざわざ急襲――しかも獣人たちの夜目が利く深夜に襲撃を仕掛けてくるのはどうにも解せないことであった。


「それに蛮族お得意の魔導生物の姿もほとんど見かけねえ。せいぜいが向こうの砦に少数配置されてる程度じゃねえのさ。ジェックス、アンタはどう思う」


 レザンが未だに炎に包まれている砦を見つめながら問いかけると、陽気な虎の獣人の副官は言った。


「そりゃあねさん。あんたがいるのが怖いからじゃないっすかね。あんな一方的な虐殺を見せられたら、人間も魔導生物もブルっちまうってもんで。やっぱり姐さんがいねえと締まらねえっすよ」

「勘弁してくんな。アタシにはこういう立場は似合わねえ。それよか真面目に聞いてんだよ、こっちは。いつまでもふざけてんならその首も飛ばすよ」

「おう……こええ。流石、獣神王さまの代わりを務めるだけの器でいらっしゃることで」


 ジェックスは肩を竦めて冗談めかして言った後、ふっと真面目な顔になった。


「連中の指揮官がよっぽどの無能でもない限り、この状況は有り得ないと思うっすよ。こっちの犠牲者が少な過ぎる」

「みたいだねぇ。事が上手く運び過ぎてる。このままじゃアタシらはそう苦戦せずに蛮族共を陥とすことも不可能じゃねえ。流石に王都を陥とすのは一筋縄じゃいかねえだろうが」


「……姐さん、1つバカなことを聞きますが、キアロの連中は最初から勝とうとなんざ思ってなくて総力戦になったところで【死姫しき】を投入する可能性がある……ってのはどう思います」

「死姫? あの伝承の中の化け物かい。それを見た者、それの声を聞いた者――あらゆる奴を一瞬で殺しちまうっていうとんでもねえ奴だが……ジェックス、アンタ真面目に言ってんのかい。今時あんな伝承信じてるような馬鹿はほとんどいねえ」


 子供の頃に散々聞かされてきた伝承だ。

 幼い頃は恐ろしくて仕方がなかったが、今は目の前で起こっている戦場の光景の方がよほど恐ろしい。

 そんないるわけもない化け物の話を、この陽気で飄々としながらも理知的な副官がしてくるのは意外だった。


「姐さんも知ってると思いますけどね。キアロが何と言われてるのか」

「……『死を呼ぶ国』かい」


「そうっす。あの国には禁足地きんそくちみ地と呼ばれてる場所があまりにも多過ぎる。現地の奴らすら絶対に立ち入らない場所が山ほどだ。その理由は簡単で入ったら二度と生きては出てこられねえってなもんで。中でもとびっきりで一番やべえって言われてるのが『死の海岸』っす」

「確かにあの国の北端は海に面してるけどねぇ……」


「俺はそこに死姫って呼ばれる奴がいて、実戦投入で味方もろとも攻め込んできた獣人を皆殺しにするんじゃないかって。まあ、そう思う時もあるんすよ」

「アンタが物好きなのは知ってる。だけどねぇ、今時そんなお伽噺を信じてる奴なんざほとんどいねえだろ」

「そのお伽噺のようなことが起こったじゃないっすか、帝国のミルディアナで。例の末期の雫事件っすよ」


 それを聞いて、レザンは眉根をしかめた。

 帝国の南方領で起こったとされるエルフの失踪事件から端を発したとされる、一連の天魔召喚事件のことは既にルーガル王国の者にも伝わっていた。


「俺らのジジババ共がうるせえガキを黙らせるために語ってた怖い怖いお伽噺。誰もがそう思っていた話とそっくりな事件がつい先日、実際に起こった。五大英雄の1人ランベール中将が迅速な対応をしたから被害は最小限に留まったとされてますが、もしも対処を間違えてたら今頃ミルディアナは跡形もなくぶっ壊されてたと思います」

「それを言われると弱いところだがねぇ……。まあ、いい。死姫が実際にいるとしよう。蛮族共の最終兵器だと考えてもおこう。なら、何で最初からそれを使うのが前提なんだ。アレは周囲にいる生き物すべてを無差別に殺すような奴だ。どうしてここでそれを使うんだい? 向こうから戦を仕掛けておきながら、最初から共倒れでもする気だったってのかい? そいつはおかしかねえかい」


「確かにおかしい。おかしいが……今回、帝国軍が俺たち獣人を援護してくれる理由ってのは何だと思ってます?」


 いきなり話をズラされた気がして、レザンは不可解そうな顔をしながらも言った。


「不当に貶められる獣人たちの保護――ってのが表向きな理由で、本当は連中が本格的に装備を検討してる魔導銃に必要不可欠な魔石を大量に確保したいから、だろ?」

「それだけじゃおかしいんすよ。本当にそれだけが目的なら、帝国軍は五大英雄の1人である『バーネット元帥』率いる東方領の軍隊を派遣すりゃいい話だ。でもそれだけじゃない。今回、あの国は自国の最大戦力であるダリウス・セヴラン大元帥率いる北方の軍勢までも派遣させてる。明らかに過剰なんすよ」

「確かにゼナンと睨み合いをさせておかなきゃならねえはずのセヴラン大元帥を派遣するって聞いた時は驚いたがねぇ。……で、それが死姫とどう繋がるって言うんだい」


「帝国軍は獣人の保護も魔石の確保もやる――その上で死姫という最悪の軍事兵器を潰そうとしてるんす。この前、セヴラン大元帥に会って直に聞いてわかりました。あの国はマジで死姫の存在を信じてやがる」

「エルベリア帝国ともあろうものがそんな与太話を信じてるってのかい? 何を根拠に……」


「ランベール中将ですよ。あのお方が以前、皇帝陛下の御前で直々にこう発言したんだそうです。『死姫は実在する』と。帝国が大軍勢を率いてキアロを叩く最大の理由がこれです……ま、今やその皇帝も棺桶に片足突っ込んでるような状況で、皇太子殿下の方に全権を委任してるようっすけど」

「理知的なエルフの血を引く英雄の1人が世迷い言を……。はあ、いくら有事とは言えアタシらはそんな奴の所にあの子たちを送り出したってわけかい」


 現在は王国にいない王族のただ1人の生き残りである少女の姿を思い出し、呆れた風に溜息を吐いた。


「んじゃ、ロカの姫さんに早く帰ってきてほしいっすか」

「……あの子はアタシらに残された最後の希望だよ。出来れば戦が終わるまではずっと帝国にいてほしいくらいさね」

「姐さんの気持ちはわかりますけど、そいつぁ無理な相談でしょうねぇ。いくら帝国と手を組んだとしても、最後にキアロの首都に乗り込んで王族の首級を挙げるのは絶対にロカの姫さんじゃなくっちゃいけない。それを成し遂げて初めてあの子は獣王として認められるんすよ。獣神王とまで呼ばれるかどうかは……まあ戦後の功績次第っすかね」


「……アタシらは、まだ15年と少ししか生きてない子供に何て大役を押し付けることになっちまったのかねぇ。そういう役回りは大人がやらなくちゃいけねえってのに」

「まあ、まだロカの姫さんたちが帰ってくるまでには少しだけ時間があります。その間は姐さんには女帝でいてもらわなきゃならない。今のルーガルであんたより強い人はいないっすからね」


 レザンが女帝と名乗っているのは、あくまでも獣神王や獣王としての代わりに過ぎない。

 彼女が選ばれたのも現在のルーガルで最も強いのが、獅子の獣人であるレザンだったからに他ならない。

 女帝という呼び名も今現在のルーガルの状況を鑑みて、あくまで獣人たちの纏め役として急遽作られただけのものであり、レザン自体はそう呼ばれるのは嫌っている。


「ハッ、他人事みたいに言うんじゃないよ。アタシが死んだら次はジェックス。アンタが女帝の代わりだ。帝王と呼ばれる準備でもしときな」

「縁起でもないこと言わんといてくださいよ。オレにこそ、そういう役回りは似合わねえんすけどね……。せいぜい副官止まりが気楽でいい」

「アンタが死んだ後の帝王役も考えときな。死姫の話はともかく、この戦、何が起こるか知れたもんじゃねえ……いつどこで誰がくたばってもおかしくないさね」


 そう言ったところで、レザンはふと思い出したように言った。


「それにしても、戦死した奴から溢れ出すあの『紫色の光』は何なんだろうねぇ」

「帝国の方とも情報共有はしてますが、わかんねえの一点張りっすよ。まあ、そもそも何がなんだかわからないのはそれだけに限ったことじゃありませんが。今回の戦はあんまりにもやべえことが起こり過ぎて、正直混乱して頭が爆発しそうっすよ」

「ツェフテ・アリアには頼れねえのかい? あそこには古文書がぎょうさん残されてるって話じゃねえのさ。もしかしたらあの紫色の光の正体もわかるんじゃねえのかい」


「……姐さんの耳にはあえて入れないようにしてたんですがね。この際だから言うとあの国もやべえことになってますよ」

「何だい。どこもかしこもてんやわんやってわけか。……何が起こってる?」

「『腐食』が始まってるって話っす。エルフの王族が生きてるにもかかわらず」


 エルフたちが住まうツェフテ・アリア王国は緑豊かな国であり、中でも王都は大森林と湖に囲まれた非常に穏やかで心地良い雰囲気に満ち溢れた場所だった。

 腐食という言葉はあの美しい大森林には似合わない。

 レザンは昔を懐かしんで瞼を閉じた。


「――エインラーナの婆さまとは、アタシがガキの頃に話したことがあったっけねぇ。あの時点でも相当な高齢だったはずだが、確かその後に娘をこしらえたんだろ」

「ええ。ツェフテ・アリアの王族の血筋は途絶えてない。でも腐食が少しずつ始まってる……姐さん、覚えてますか。この前の赤星の煌めきを」


 美しい森の光景から一転。

 レザンの脳裏にあの赤星の『不気味な輝き』が浮かんできて、露骨に顔をしかめながら言った。


「当たり前さね。あの不気味な現象は1回見たら死ぬまで忘れらんねえ」

「帝国やキアロではあの赤星を吉兆だと捉える奴らが多いみたいっすけどね。個人的にもずっと眺めてたいくらいっすよ。綺麗で良くなかったっすか、あの光景」


 これが価値観の違いというものなのだろうか。

 天高く拡がる星空はとても美しいが、そこで何十、何百という赤い輝きが散らばる光景には怖気が走ったものだ。

 身震いさえ起こしかねないほど、レザンはあの光景を受け入れることを拒んだ。それは恐怖心からなるものだったが、彼女自身は必死にそれを理性で押し留める。


「……アンタは本当に物好きだねぇ」

「オレは変わりもんっすからね。赤星の煌めきを眺めながら飲む酒も乙なもんで。でもまぁ――ありゃどう考えても凶兆だ。もしかしたらもっとやべえことが起こるかもしれません」


 ジェックスがいつになく真面目な顔をして語る。

 起こるかもしれない、というよりも起こると確信めいた表情をしているのがわかった。


「アタシはこの数年で一生分は驚いた。もう今すぐに天地がひっくり返ろうが、大陸が海に沈もうが、大火山が噴火しようが何とも思わねえだろうさ。何が起ころうとも死ぬまで足掻いて戦場で散るだけさね。すべてはルーガル王国のため。神獣王ルーガルさまのために」

「姐さん、そいつはいけねえ。そのセリフは聞こえはいいが要するに部下に面倒事全部押し付けてさっさとくたばりたいって言ってるようにしか思えねえっす」


 格好よく決めたつもりだったが、ジェックスはふっと苦笑しながら言った。

 この男を前にするとどうにも隠し事は出来ないらしい。


「察しがいいねぇ。もう疲れちまったよ、アタシは。――毎日夢に見るんだよ。つかの間、平和だったルーガルとキアロの和平条約締結の頃の楽しかった思い出をさ」

「ロカの姫さんもシャウラもあの頃はただのガキでしたからねぇ。特に姫さんの方はやんちゃなだけで純真そのものだった……今みたいに隠し切れない殺意なんて抱いてるようなガキじゃなかったんすけど」

「そうそう。あの子はいつでも能天気に笑って、王族も貴族も平民や奴隷相手にすら変わらずに接してたねぇ。その上、キアロの王女とも仲が良かった……まったく、平和だったよあの頃は」


 レザンは不快そうに言って腕を組んだ。


「昔話に浸ってるところ悪いですが、そろそろ姫さんを呼び戻さにゃならん頃合いかもしれません」

「まさかあの子を送り出してたった数ヶ月でこうも戦況が変わるとはねぇ。ここに帝国軍が加われば、一気に蛮族共の王都を陥とせるまたとない機会だ」


 レザンらは既にキアロ・ディルーナ王国の目前にまで迫っていた。

 後は帝国軍の準備が整うまで防衛を続け、機を見て帝国の東方とルーガルから一斉に攻め立てる形となる。


「……ロカさまは強くなれたと思うかい」

「力の話ですかい? そりゃこの短期間でも驚くほど強くなってるでしょうよ。しばらく帝国にいろって言った時、暴れる姫さんを取り押さえるために大変なことになりましたからね」

「もうアンタよりは強いかもしれねえ……いや、あるいはアタシよりも上かもしれないか。あの子にはまるで神獣王ルーガルさまが加護を与えているようにすら見える」


「きっと帝国じゃ退屈な毎日を過ごしてると思いますがね。だけどなぁ……姐さん、頼むからロカの姫さんが帰ってきても、せめてキアロとの戦が終わるまでは『負けないでくれ』ませんかね」


「保証は出来ないねぇ。あの子は力も考え方も化け物じみてる。下手すりゃアタシらじゃ束になっても抑えられねえよ……覚えてるかい、あの子がいた陣地に蛮族たちが急襲してきた時のことを」

「夢か何かだと思ってたかったんすけど、もうばっちり。その日の夜は悪夢にうなされる羽目になっちまった」

「アタシもだよ。あの子はまだ未熟だ。だが、心の奥底にはアタシら以上に凄まじい化け物を飼っている。でなけりゃ、返り討ちにした蛮族共の死体をあそこまでぐちゃぐちゃにしなかっただろうさ」


 当時の光景を思い出すと、流石のレザンも吐き気を催さずにはいられなかった。

 あの時のロカはキアロ・ディルーナ王国の兵士たちを虐殺し、その死体を弄んでいた。

 一切の躊躇も見せず。かと言って笑いもせず。ただ淡々と食肉の解体処理でもするかのように。


「姐さんが負けちまったら、姫さんは確実に暴君になっちまう。場合によっては、帝国との合同戦線にも悪影響が出るかもしれないっす」

「……問題は山積みか。まあいい、今はとにかく目の前の戦況が何よりも大事さね。ジェックス、もう1回周囲の索敵をするように指示しておきな。こっちも数日は不寝番だ」

「へいへい。人使いが荒いこって」


 ジェックスは愚痴を言いながらも、無茶ぶりには慣れているためにそれ以上何も言うことはなく、配下の獣人たちに向かって指示をしに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
小説家になろう 勝手にランキング
『世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。』第4巻が10月22日頃発売です!
表紙絵

コミカライズは10月16日から各電書ストアで配信です!
後日、マンガワンでも掲載予定ですのでぜひご覧くださいませ!
コミカライズ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ