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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

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第17話「大英雄との対談~後編~」

「どういう意味だろう?」


 僕は素知らぬふりで問いかけてみるものの、彼の鋭い視線は変わらず僕を見つめたままだ。


「その女性は誰かと聞いている」

「……どんな女性に見える?」


 あえて聞いてみる。彼は銀髪とは言ったけど、それだけだ。


「髪の長い、メイド……のように思えるが違うのか?」

「ふっ、違わないさ。出ておいで、レナ」


 手筈通り、レナはすぐに姿を現した。

 銀髪の長い髪に、黒を基調としたメイド服。どんな大貴族の邸宅であっても彼女には相応しくない。

 レナに相応しいのは僕の隣だけだ。


 そう思いながらも、デュラス将軍の表情を窺う。

 彼は少しだけ表情を崩した。その顔にはあの日僕と彼が初めて出会った時に見せたような、驚愕の色があった。

 だけど、それもつかの間。レナが言う。


「お初にお目にかかります。私はレナと申します。我が主……テオドールさま、にお仕えするメイドでございます。以後お見知りおきを」

「……本当にレナさまだというのか」


 その名前を聞き、デュラス将軍はとある人物の名前を思い浮かべる。

 まあ、有名だからね彼女は。


「そう。デュラス将軍が考えているように、彼女は500年前にテネブラエに侵攻してきた勇者その人だよ。今は僕のメイドにして、最愛の妻でもある」

「そうか。では、やはり貴君は魔族なのだな?」

「いかにも。本当の名前も名乗った方がいいかい? 最期に君を殺す相手の名前くらいは知っておいてもいいかもしれないね」


 瞬間、僕の体内の魔力を凝縮させてその場に強いプレッシャーを与える。

 かつて僕がミルディアナの入学式で披露したものと同じだ。

 ここはミルディアナよりも魔術師たちの数は少ないけど、いないわけじゃない。街中の誰かに察知されても面倒だから控えめにね。


 もちろんそんなことをしても大英雄は何事もなかったかのように佇んでいる。

 というか、効いてないなこれ。どんなに鍛え上げられた戦士でも少しくらいは苦しく感じるはずなんだけど。


 ただ、その左手で神剣が納められている鞘に軽く触れているから警戒はしている。あの神剣が魔力の影響を緩和か、あるいは無効化している可能性もあるか。

 そして彼が問答無用で斬りかかってきた場合は、今の僕の身体じゃその一撃を見抜けるかどうか怪しいところだ。


 でも心配する必要はない。

 こんな狭い場所で神剣を扱えばどうなるかは火を見るより明らかだし、何より彼にはそんな挑発を受けても手を出しにくい状況がある。それは彼女の存在も大きい。


「レナさま。貴女にお聞きしたい。何故、斯様かような魔族に肩入れをしているのか」

「戦で私が負けたから。発端はそれだけです。でも、今は違う。私はこのお方を誰よりも心からお慕い致しております」


「勇者とも呼ばれし者が魔族に屈したと仰るか」

「勇者とは言っても、所詮中身は普通の人間ですよ。私から言われずとも貴方は身を以てそれをよくご存じのはずです、大英雄さま」


 大昔の勇者と、現在の大英雄の視線が交わる。

 実力の差は……わからない。ただ、デュラス将軍の手にはあの神剣がある。

 かつて竜神王を屠ったとされる、唯一無二の絶対なる神剣が。


 実際に戦ってもレナが有利とは言えない状況だ。

 しかもあの剣はかつてレナを選ばなかった。勇者とも呼ばれる絶対的な力を持つ存在の手すら拒絶したその剣。


 仮に魔力で剣を作り上げたとしても、恐らく神剣の一撃を食い止めることすら出来ないだろう。

 僕たち魔神――その中でも最上位の王族が使う『神器じんぎ』であれば話は違ってくるかもしれないけど。


 でもこの僕から見ても力量差を測るのが難しい2人だ。

 デュラス将軍からすれば、わざわざこんな場所で戦い始めて街中を火の海にするわけにもいかないだろう。

 

「ま、冗談はこのくらいにして。確かに僕は魔族だ。『君』たち人間とは違う。そっちから余計なことをしない限りはこの街に危害を加えるような真似はしないつもりだよ。少なくとも今は、ね」

「……率直に言おう。私はミルディアナで起きた末期の雫事件と、此度の神殿襲撃事件の犯行は同じ思想を持つ者たちによって仕組まれたものだと考えている」


「その根拠は何だい?」

「それは明かせない。ただ1つ言えることは、彼の事件と此度の事件はほぼ同時に始まったということだ。なにがしかがミルディアナでの天魔召喚を成功させ、南方領とツェフテ・アリア王国に大打撃を与えれば帝国は計り知れない危機を迎えるところだった。そして時を同じくしてこのグランデン領近辺で起こっている襲撃事件を起こすことにより、帝国に更なる混乱を招く腹積もりだったのではないかと考えるのが合理的だろう」


「神殿を襲撃すれば何が起こるか把握しているならその仮定も筋は通るね。どうなんだい?」

「残念ながら何もわかってはいない。グランデン領内にある高等魔法院と合同で調査を行なったが、皆目見当がつかなかったと」

「ただの憶測か。議論するに値しない……と言いたいところだけど、僕の考えもおおよそ君の考えていることと同じようなものなのが現状かな。――その上で改めて問おう、大英雄よ」


 これだけは聞いておかねばならないことを口にする。


「『女神』という存在に心当たりはあるか?」

「我ら帝国の民にとって、女神と言えば創世の大女神オルフェリアさまと同義。心当たりなどあろうはずがない。私からすればむしろ貴国らが女神の名を騙り、末期の雫事件を起こしたと考えるのが一番現実的だと言える」


 クロード・デュラスの鋭い視線からは嘘偽りは感じられない。


「我ら魔族がそんなことをして何になると言うのだ?」

「エルベリア帝国を内部から疲弊させ、軍事力が弱まった頃合いを見計らい大規模な戦を仕掛ける。極めて妥当な思考ではあるまいか」

「くだらん」


 一笑に伏してやると、クロード・デュラスの眼光の鋭さが増した。

 構わずに続ける。


「そのようなことをせずとも、我ら魔族はお前たち人間を楽に刈り取ることが出来る。こそこそと動き回り、入念な準備をする必要もない。真っ向から襲撃を仕掛け、半日でこのグランデン領を制圧すればそれで済む話だ」

「……ずいぶんと力任せなのだな、魔族というものは」


「我らにとっては力がすべて。そう考えれば、先の天魔の襲撃など些事に過ぎぬ。何故なら、私が力を解放すれば、ものの数分でアレらのすべてを上回る破壊と殺戮に興じることが出来るからだ。絶対的な力を前にしてお前たちは為す術もなく死ぬか、命乞いをするかの二択しかない。魔族にとって、人間は塵に等しき存在だ」


 さて、ここまで言えば伝わるか。魔族の考えていることが。

 しばしの沈黙を置いて、金髪の将は言う。


「わざわざ小細工を弄するまでもなく、ただ単に殺戮を繰り返すだけで帝国を滅ぼせる。魔族ならそうすると言いたいのか」

「地面を這う蟻を潰す方法など考えるまでもない。邪魔なら踏み潰せばいいだけの話だろう」

「舐められたものだな。『貴公』の真名はわからないが、少し人間を侮り過ぎているのではないか?」


 やはりそう返してくるか。


「そのようだな。どうやら人間たちの中には我ら魔族はもとよりお前たち帝国の者よりも深謀遠慮に長ける者がいるらしい」

「貴公は、あくまでも人間の仕業だと考えているのか」

「……人間か、あるいはそれによく似たナニカだと考えている」


 この帝国にやってきてからずっと考えていたことだ。

 『女神』と呼ばれる何かしらの存在は、帝国の弱体化を狙っている。

 単純に考えればそうなるだろう。


 だが、ここまでの大仕掛けをした相手が果たしてそれだけの願望しか持っていないと言えるのか。

 そのナニカは計り知れないほどの計画性を持っているに違いない。帝国の弱体化などその手始めに過ぎないだろうと私は考えている。


 私が最も危惧するのは、それがテネブラエ魔族国に与える影響だ。

 エルベリア帝国が滅び去れば、次に台頭するのは必ずやあのゼナン竜王国となる。

 竜族の力は強大だ。力だけではなく、空中移動要塞という先史文明の遺産を使いこなす知恵もある。


 かつて竜神王がまだ生きていた頃――1500年前。

 『先代のルシファー』が最も警戒し、かつ最も戦を愉しめるだろうと踏んでいたのがゼナン竜神域だった。

 殺戮に飢え、すべてを蹂躙しようとしたあの狂王ですら安易に攻め込むことをしなかった。竜族の力はそれほどに強大だ。


 今のゼナン竜王国にかつての力はない……。

 現にいま眼前にいるこの大英雄の手によって、戦は停戦となった。

 だが、それでも戦力で言えば帝国とほぼ変わらないほどの力を持っていると考えられる。


 その竜王国がいつテネブラエに戦を仕掛けてくるともしれない。いや、帝国という最大の邪魔者さえなくなれば確実に攻め込んでくると言える。

 無論、全力でぶつかれば取るに足らない相手だと考えてはいるが、逆に言えばそれが気掛かりなところだ。

 『女神』はこの大陸中を戦乱の坩堝にして歴史上最悪となる大戦争を欲しているのではないか。


 だが、そうなれば最後にはテネブラエが残る。魔族以外に利する者などいるはずもない。ならば何故。

 正体もわからなければ、目的もわからない。あのギスランの脳内から垣間見た女は普通の人間にしか見えなかった。人間が何故魔族だけが残る道を選ぶと言うのか。


 思考はいつもそこで止まる。

 そしてそれは目の前にいる大英雄にとっても同じことだろう。

 この男の立場から考えても、『女神』の最終的な目的はテネブラエの繁栄と考えるのが一番筋が通っているはずだ。だからこそ魔族を疑うのも当然ではある。


 結局、どれだけ考えても現段階では何もわからないに等しい。

 故に私はこう告げた。


「クロード・デュラス。此度の神殿襲撃事件で明かせる限りの情報を教えろ」

「……ミルディアナの時のように、解決に奔走するとでも言うつもりか」

「場合によってはそうしてやってもいい。もう一度だけ言うが、我ら魔族はこの事件に関しては一切関与していない。それでもなお信じられないのであれば、そのまま口を噤んでいろ。10秒だけ待ってやる」


 さて、どう出る。大英雄よ。


「……わかった。いいだろう。魔族を信じたわけではないが、貴公はあのランベール中将からミルディアナを救った立役者だと言われている。まずはこれを見てもらいたい」


 クロード・デュラスは執務机の引き出しからいくつかの羊皮紙を取り出して手渡してきた。

 それにざっと目を通す。


「『踊り狂う修道女』……またこれか」

「知っているのか?」

「クラリスが言っていた。もっとも、断片的な情報しか知らないようだったがな」


 言いながら、報告書のすべてを読んだ。

 惨劇が起きた神殿で踊り狂っていた修道女は拘束され、軍部で尋問を受けた。

 だが、何一つ有益な情報をもたらすことがなく――。


「『最重要参考人となった修道女は、餓死』か。具体的には書かれていないようだが?」


 クロード・デュラスは腕を組んでからしばし無言のままだった。

 それから言葉を選ぶかのように告げる。


「――その修道女は、軍部の者たちに発見された後も奇行を繰り返していたが、それは拘束した後も同様だった。惨劇を目の当たりにした衝撃などなく、取り調べをした者たちにこう告げたそうだ」


『お父さまとお母さまが帰ってくるのよ」

『今日はとても美味しいスープを作ったの。あなたも一口どう?』

『食事……? そんなもの必要ないわ。だって、お夕飯はさっき済ませたでしょう? もうお腹いっぱいだもの』

『私は幸せ。このまま時が止まってしまえばいいのに』


 その言葉を聞く限りでは、このように感じた。


「……まるで幸福な夢か何かを観ている最中のような言動だな」

「然り。その報告書にも書かれているが、修道女の両親はまだ彼女が幼い頃にゼナンとの戦が原因でこの世を去っている。帰ってくるはずがないのだ」


「食事は必要ないと言ったのか」

「そうだ。その直後、修道女は栄養失調によって餓死した。既に10日以上も何も食べていない状態だったのだから無理もない」


「夢と現実を混同している、と考えるのが筋が通っているか。お前はこの修道女が事件の犯人である可能性はあると考えているか?」

「有り得ない」


 大英雄は即座に否定した。


「修道女が使える魔術は神聖術式の第二位階まで。せいぜいがかすり傷を治す程度のものであり、他の術はまったく使えなかったという。剣術や体術に至っては普通の女性と何ら変わるところもなかったそうだ」

「そのような女が鍛え抜かれた神殿の番人たちを殺せるわけがない、か。神殿の人間たちは喰い殺されているように見えたらしいが、実際にはどうなんだ」


「アレは『喰い殺された』という言葉ですら生ぬるい有り様だった。遺骸のほとんどが判別不明なほどに損壊され、その傷口を検めることすら困難なほどに細切れになっていた」

「魔術によって破壊された形跡はなかったのか」

「先にも言ったように高等魔法院との合同調査の結果、魔力反応は感知出来なかったとされている。そして件の修道女についても、幻覚や洗脳のような術式をかけられた形跡はなかったと」


 1人の人間が狂乱して暴れた程度では到底為し得ないことか。

 しかも魔術が使われた痕跡もない。その修道女が犯人だと考えるのには無理がある。

 私は他の資料にもすべて目を通したが、生存者は修道女1人を除けば誰もいなかったらしい。目撃者も皆無だ。


「既に3つの神殿でそのようなことが起きているのだったな?」

「調査をした限りではそうなっている。が……」


 大英雄が口を濁した時、ドンドンと何かを叩く音がした。

 玄関の方からか?


「む……?」

「出ても構わん」

「失礼する」


 すぐに部屋を飛び出した大英雄の姿が見えなくなったところで、ずっと無言で付き添っていたレナへと顔を向けた。

 案の定、愛らしい顔に苦渋を滲ませ、下唇を噛んでいる少女の姿が目に入る。


「こうなることは事前に伝えておいただろう」

「はっ……理解は、しております」


 人間に隠密術式を見破られたのは今回で2回目。

 絶対的な自信を持っていたレナが悔しがるのも無理はないか。

 ……レナにその術式を教えた者のことを考えれば尚更だ。レナは『彼女』のことをよく尊敬している。第一夫人であるルミエルとは違い、心の底から彼女を慕っていたのだ。


 自分に術式を教えてくれた者に申し訳が立たないというのもあるのだろう。

 実際に私もそれまで隠密術式のことを過信していた。これからは少し用心する必要があるかもしれない。


 そんなことを考えていると、クロード・デュラスが部屋に駆けてきた。


「すまないが、今回の対談はこれにて打ち切らせてもらいたい」

「どうしたんだい? 何か起こったのかな」


 人間の口調に戻って言ってやると、彼は頷いた。


「4つ目の神殿でも事件が起こった」


 遂に4つ目か。残る2つもいつまで保つか怪しいところだ。

 そのまま部屋を去っていこうとする大英雄を見て、僕は言った。


「ねえ、大英雄さま」

「……何だ? 些事であればまたいずれ訊く」

「じゃあ要点だけ。僕には1人で来いって言ったくせに、『そっちは1人じゃなかったよね』。ちょっとフェアじゃないと思うよそれ」


 デュラス将軍の無表情が僅かに揺らいだ。


「ま、いいけど。大英雄さまなら当然皇帝陛下を始めとして、色々な偉い人たちと会話をする機会も多いと思うから忠告だけしておくよ。貴方は嘘を吐くのが下手だから訓練してでも何とかした方がいい。じゃないと、思いも寄らない誰かから足元を掬われかねない。まあ、そんな風に馬鹿正直な性格なのも嫌いじゃないけどね、僕は」


 僕はそのまま部屋を出た。

 デュラス将軍の表情は見なくてもわかった。多分、あの無表情に大きなひびが入っているだろう。

 彼のお屋敷の前にいた軍人――恐らく異常を報せに来た――に軽く会釈した後、しばらく街中を歩いて人目がつかない場所に着いたところで言った。


「レナ」

「……あ、あの……。ルシファーさま? 先程の言葉は一体」


 お屋敷を出る前には姿を消していたレナが戸惑った様子で問いかけてくる。


「レナ。クロード・デュラスのことはどう感じた?」

「えっと……。私は今まで生きてきて、アレほど強い威圧感を放つ人間を見たことがありませんでした。あの鋭い眼光には思わず怯みかねないほどでした」


「屋敷に入ってからずっとそう思っていたのか?」

「……?」


 わけがわからないと言った様子のレナに向かって言う。


「クロード・デュラスには『お前の姿は見えていなかった』」

「えっ……? で、でも、確かにあのお方ははっきりと私がいることを言い当てたではありませんか……!」

「奴の視線、気にならなかったのか。お前が姿を現すまで、奴は『ずっと私のことしか見ていなかった』。お前が身じろぎしたり、私の後ろをついてきてもそれを見もしなかった、というより単純に見えていなかったのだ、アレは」


 レナが困惑するのも無理はない。

 私も初めて奴を目にした時は気が付かなかった。


「では、シャルロットさまにあらかじめ教えられていたのでは」

「奴は私を屋敷に誘う時にこう言った。『シャルロットは墓参りに行かせるから何の心配もいらない』とな。娘から直接お前の存在を聞かされていたにしては、不自然過ぎる言動だ。何故なら、もしそうならわざわざシャルロットを追い出す必要がない」


「しかし……シャルロットさまには、私のことが見えていた……のですよね」

「それは間違いない。あの少女の木剣の投擲は間違いなくお前を狙っていた」


「では、娘には見えて、父親には見えていなかったのですか? そしてシャルロットさまは父親に私のことを教えていない? なら、どうしてデュラス将軍は私の存在を訊ねてきたのでしょう」

「奴がお前を見た時に浮かべたのは驚愕の色だった。まるで半信半疑だった存在をいきなり見せられたかのように、な。だからこう考えた。『シャルロットの他にもお前の姿が見えている者がいる』と」


「……そこから、デュラス将軍がお一人ではなかったというお話に繋がるわけですね。あの場には本当に他に誰かがいたのですか?」

「お前に見えなかったのだ。今の私では見ることも出来ない存在だろう。だが、確かにいた。奴がこう呟いていたのを覚えているか。『本当にレナさまだというのか』と。つまりその存在は最初からお前の姿が見えるばかりか、お前の正体すら知っていたことになる」

「!!」


 まったく面白い話だ。

 今の私の目はおろか、レナの目すら欺き、かつクロード・デュラスの傍にずっと仕えていた何者かがいた。


 隠密術であれば凄まじく高度な術式ということになる。一体何者なのか。まったく敵意がないことだけはわかったが、それ以外はさっぱりわからん。

 思いがけない収穫と、今後更に波乱が起こりそうな展開を前に私は自然と気分が高揚していた。






 深夜。

 グランデン領の軍部、最高司令官室にて。

 クロード・デュラスはつかの間の休息の時間に入ったところで呟いた。


「……あの男は何だ。あのリューディオが手放しに褒める男だから傑出した者だとは思っていたが……まさか『お前の存在』にすら気が付く奴だとは思いもしなかった」


 その時、室内に穏やかな風が吹いた。

 窓も開けていない密室に吹いた風から声が聴こえる。


「ただの魔族ではない、か。ならば高位の魔神か」


 風が静かに語りかける。


「……魔王……の可能性。有り得ないとも言い切れないか」


 穏やかな風が面白そうに言葉を続け、しばしそれに耳を傾ける。


「お前の存在にはシャルも気付いていない。私以外にお前のことが見える存在などいないというのに……慣れぬ芝居をするものではないな」


 風は愉快そうに笑う。


「ああ、わかっている。あの男に敵意はなかった。魔力によるプレッシャーをかけたのも私の反応を見たかっただけだろう」


 一呼吸置いて、クロードは窓辺から星空を見上げながら言った。


「魔族、か。お前から話を聞くだけでは実感が湧かなかったが……恐るべき存在のようだ。敵には回したくないものだな」


 その言葉に同意するかのように風がひゅるひゅると音を立てた。

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