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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

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第4話「留学」


「貴方がたにはしばらくの間、西方領にあるグランデン領直属軍学校へと国内留学してもらいます」


 突然の発言に誰もが面食らっていた。

 流石の僕も少し驚く。


「理由はまあ……年間行事というものでしてね。彼の軍学校と我が校は昔から交流が盛んでした。故に交換留学制度を採用していて、毎年何人ずつかを両方の学園から旅立たせて約1ヵ月間それぞれ別の軍学校で学ばせるというものです。時期的にはいささか早いのですが」


 年間行事なのは確かだろうけど、リューディオ学長は『お前らのせいで士気が下がるから一旦どこかに行っておいてくれ』とは言わない。


「我がミルディアナでは魔術を扱う者が多いですが、グランデンの軍学校では剣術と体術が盛んです。魔術はこちらよりどうしてもレベルが低いですが、特に剣術に関しては我が校を遥かに凌ぎますよ」

「オレにとっちゃ行く意味ねえんだけど?」


 ジュリアンが面白くなさそうに言う。

 確かにこのミルディアナの魔術講義ですら彼にとってはお遊び以下でしかないのに、更にレベルが低くては堪ったものではないだろう。


「まあまあ、そう仰らずに。それに確か、西方領と帝都の境目あたりには貴方が暮らしていた村がありますよね。少しばかり立ち寄ってみるのはいかがです」

「……ふん」


 少し迷った感じではあったけど、ジュリアンは素直に答えた。


「特に要望がない場合は馬車を使ってグランデンまで向かってもらいます。状況にもよりますが、片道半月程度といったところですか。留学生活を楽しむのもそうですが、ちょっとした気晴らしとして旅をするのも悪くない話でしょう」

「ふむ。もうミルディアナには体術で余の相手を出来るのはテオ以外おらんからなー。向こうには強い奴がいればいいのだが」


「でも、交換留学制度なんでしょ? 優秀な生徒はこっちに来ちゃうんじゃないの?」

「一概にそうとは言えません。確かに優秀な生徒から選ばれはしますが、そもそも強制ではないので寂しい年になると片方からは誰も行かないことなどもありますよ」


「じゃあ何でオレたちは強制なんだよ」

「面白そうだったので。つい先日、デュラス将軍と話し合う機会がありましてね。色々と大変な時期ではありますが、行事はこれまでと同じように行なうということで合意しました」


 リューディオ学長はにこりと笑う。

 そう。グランデンには大英雄と呼ばれる将軍がいるんだ。

 なら、僕としても悪い話じゃない。一度その人の顔も見てみたいしね。


「俺もグランデンには興味があります。デュラス大将閣下の様子も気になりますし」

「そういえば、キースはデュラス将軍に稽古をつけてもらったことがあるとか。どうでしたか、彼は」

「幼少の頃とは言え、凄まじい迫力を感じました。もっとも、閣下が手にしていたのは木剣どころか棒きれ1つだけでしたが……攻撃を振るうことさえ出来ませんでした」


「プレッシャーに圧されましたか」

「それも確かにありましたが、こちらが木剣を振るった瞬間には既に閣下が俺の身体に棒きれを突きつけていたのです。何度試しても結果は変わらず。目で追うことが出来なかったので、まるで時が止まって気が付いたらそうなっていたかのような錯覚を覚えた次第であります」


「キース。それは君が何歳頃の話なんだい?」


 僕が話を振ると、キースは顎に手を添えて言った。


「ゼナンとの戦が終わった直後だったろうか。今からおよそ5年前だから、俺が11歳の頃の話になるな」

「へえ。面白そうだね」


 キースの強さはよく知っている。

 彼の発言からも幼い頃から同い年の相手に負けたことなどほとんどないことは察せられた。幼くして神使としての力を得たのだからそれも当然だろう。


 いくら子供とは言え、生半可な軍人をもしのぐキースにまったく攻撃をさせなかった実力。一度この目で確かめてみたい。

 そして目の前にいるこのハーフエルフの将軍を差し置いてまで大英雄と呼ばれる男だ。

 本気を出せば一体どれほどの力があるのやら。


「ね、リューディオせんせー。強制ならそれはそれで旅を楽しんじゃうつもりだからいいんだけどさ。出発はいつなの?」

「明日にでも。今日中に荷物の用意は済ませておきなさい」


「……ほんっと、この腹黒エルフは」

「何か仰いましたか。リーゼメリア殿下」


「少しくらい準備させろってのー! グランデンまでの道のりとか、途中で評判のいいお店や絶景のスポットがあるかどうかとかそういうの下調べさせてよね」

「これは遊びではないのですよ、殿下」


 笑顔でぴしゃりと言い切られて、リズはちっと露骨に舌打ちした。


「明日には出発であるか。着替えはあるもので済ませられるが、糧食の準備はせねばなるまいな」

「お金はどうすんのよ。学園行事なんだからちゃんとそっちが出してくれるんでしょうね?」

「それはもちろん。ただし必要最低限となりますがね。何しろ、我が学園も修繕やらなんやらで経費がかさみましたので」


「では、早速準備に取りかからねばなー。おい、そこの竜族よ。お前も買い出しに付き合え」

「はぁ。くっそだりぃ、お前らで勝手に決めろよ。俺は食えりゃ何でもいい」


 いかにも面倒そうに言うものの、すぐにキースが口を開いた。


「片道半月ともなれば量も馬鹿にならん。ジュリアン、お前も手伝え」

「……ああ、もう。わかったよ、わかった。はーぁ、これならまだミルディアナに残った方がマシだぜ……」


 ジュリアンは頭をがしがしと掻きながら溜息を吐いた。


「じゃあ、テオくんはあたしが貰うね?」

「いきなりどうしたのかな、リズ。何の脈絡もないのはいつものことだけど」


 突然僕の腕を掴んできたリズが言った。


「食糧はあの4人に任せて、あたしたちは薬草とかそういうの仕入れておこうよ。旅先で何かあるかもしれないし」

「まあ、それは一理あるかもしれないね」

「でしょでしょ? それじゃ、あたしはテオくんとデー…‥じゃなかった。買い出しに行くから! 食糧の準備は他のみんなでよろしくー!」


「ん。うけたまわった。それでは集合は夕刻に広場でということで構わぬか?」

「りょうかーい! それじゃ行こうよテオくん!」


 もはや僕の意見を聞こうともしないみんなによって強制的に2人で買い出しに出かけることになった。

 結局、買い出しはやっぱり建前でリズには散々色んな所に連れていかれることになったのだった――。




 夜。寮の自室で私はレナに事情を話した。


「なるほど……そのようなことが」

「うむ。デュラス将軍のことも気になるが、アスモが知らせてくれた西方領の神殿の異変についても調べるいい機会となるやもしれん」


 レナには昨日のうちにアスモから聞いたことは話していた。

 こういう調査は隠密を得意とするレナにとっては適任とも言える。


「先の天魔襲来から立て続けとなってしまうが、調査を頼めるか?」

「はい。お任せください。ただ、ルシファーさまの守りが手薄となってしまいますが……」

「心配いらん。……そもそも、あの地にはクロード・デュラス将軍がいる。わざわざ大暴れする者がいるとは考えにくいしな」


 月明かりだけが照らす窓辺で外の景色を眺めながら言うと、背後に温かい感触が触れる。


「レナ?」

「……旅路は片道半月とお聞き致しました」

「ああ。だが、それがどうかしたのか?」


 柔らかい双丘の感触が堪らない。

 そんなことを考えていると彼女は更に強く抱きしめてきた。

 嗚呼、この弾力が癖になるのだ……前から感じても後ろから感じても素晴らしいの一言に尽きる。


「半月です。半月もなんですよ!」

「あ、ああ……? だからそれがどうかしたのか?」

「ルシファーさま。人間が生きるのに必要なものは何かご存じですか!?」


 一体何の問答だこれは?

 私は思わず頬を掻きながら頭に浮かび上がったことを言う。


「まずは、食事だな。これは大前提だ」

「はい、その次は?」


「睡眠だ。私のような魔神は数年くらいは眠らずに動けるが、人間はせいぜい10日も動き続ければ死ぬ」

「その通りです。次をどうぞ」


 ……次?

 他に何かあるのか人間には。

 もう人間の姿を借りて1ヵ月以上は経つが、他に必要なものなど何もないはずだが。


「衣服……。それと、住まい……か? 極論だが、これは別になくとも」


 瞬間、私の身体はぐるりと反転させられ、レナと真正面から向き合う形にさせられる。

 メイド少女は濃紫色の瞳をきらきら輝かせながら叫んだ。


「一番大事なもの。それは愛するお方から一身に注がれる熱き愛情です!!」

「お……おぉ? しかし世の中には1人で暮らす者も」

「一度、愛を知ってしまった者はその心地良くて甘美なる感情に胸躍らせるものです! 特に私たちのような新婚さんにはとても重要なことです!!」


「待てレナ、お前の中での新婚の定義とは何だ? 挙式は既に500年前に済ませたはずだが……」

「たった500年です! まだまだ結婚したてのラブラブカップルではありませんか! もはや式を済ませて1000年も経つルミエルさまとは倦怠期になるのも致し方ありませんが、私たちは出来たてほやほやです!」


 ルミエルとも倦怠期になった記憶はないのだが……感覚が麻痺しているのか?


「それがですよ、ルシファーさま! 半月も……半月も! 私とルシファーさまは他の有象無象と一緒にいるせいで2人きりになれないのです! これは由々しき事態です!」

「まあ、確かにそれはそうだが」

「アスモさまならいいですよね。あのお方はルシファーさまを一瞬で満足させてしまえるほどの技量をお持ちですもの。しかし私にはそんな力はないのです。ないのですよ、ルシファーさまあ!」


 ぐいぐいと眼前に迫ってきながらそう叫ぶレナを受け止める形になる。


「わ、わかった、落ち着けレナ。つまりどうしたい」

「抱いてください。今すぐ」


 直球だ。

 思えば、帝国に来た頃からレナはより積極的になってきた気がする。

 必然的に2人きりになったからだと思ったが、今日は……既にアスモに何か助言でもされたか。


「お願いを聞いてくださらないのであれば、私は一時的に勇者に戻って悪しき魔王を討伐せしめて手籠めに致します!」


 おい、悪者はどっちだ。

 まあ愛しき妻を抱くのは喜ばしいことではあるのだが、昨晩アスモに思いきり吸い取られた後だ。


 邪な考えが吹っ飛んで精神的に楽にはなったが、それと同時にこう――込み上げてくるものが少々足りない。

 それにこいつにはこの前酷い目に遭わされたからな。次の日の朝は足腰が立たなくなったのを思い出す。


「……わかった、いいだろう。ただし、明日の早朝にはもう手配した馬車が来てしまう。あまり長くはできんぞ」

「もちろん心得ております。大丈夫ですよ、ルシファーさま。貴方さまは何も動かなくても、私が優しく……やさし~くリードして差し上げます」


 この前はそのせいで大変な目に遭ったのだが……。

 今日はこの生真面目で優しくも少し色惚けしている愛しき妻に主導権を握られるわけにはいかない。


 私はレナの銀色の長い髪を梳いた後、ゆっくりと口付けをした。

 そのままベッドに押し倒す。

 今日は私の好きにさせてもらうぞ、レナ。

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