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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第2章 『戒められし魔神編』

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第3話「実力の差」

「どうしたー? 誰も来ぬのかー?」


 早朝の体術実技演習場でロカは大あくびをしながらふぬけた声で言った。

 折り重なるようにして倒れている数十人の生徒の上で座りながら、次の対戦相手を待ち構えて尻尾をふりふりと揺らしていた。


「すげえ……」

「お、俺、見たんだよ。この前の天魔って化け物がやってきた時に、あいつが蹴りでそいつの頭を弾き飛ばしたところ……!」

「あんなの勝てるわけねえだろ……」


 もはや隙だらけにしか見えない狐っ娘に挑む者は誰もいなかった。

 一方、反対側の演習場ではシャウラが同じように生徒たちを挑発していた。


「他には誰かいないの? 男ならぶっ飛ばしてあげるし、女の子なら可愛がってあげるわ。どう? そこのあなた。私とイイことしない?」

「ひっ……わ、私は結構ですぅ……!」


 そう必死に口走った女生徒は脱兎の如く逃げ出した。

 無理もない。

 シャウラの傍にはやっぱりぴくりとも動かなくなった生徒たちが山となって倒れていたから。


「張り合いがないわね……」


 シャウラは自分の爪を眺めながら溜息交じりに言う。

 もはや授業の体をなしていない。ただの蹂躙だった。

 僕は密かにその場を後にする。



 1時間後、体術の演習の後は剣術の演習が待っていた。

 傍の木に寄りかかりながら生徒たちの実技演習を眺めていると、赤髪の青年が叫んだ。


「次の相手はまだか!?」


 剣術が得意な者たちですらもう誰も彼と戦おうとしない。


「レルミット伯爵家か……すげえよなぁ」

「聖炎に選ばれし家系だもんな。俺たちとは住む世界が違うんじゃねえか」 

「この前の化け物騒動の時に最前線で戦ってたんだぜ……無理無理」


 誰もが彼には勝てないと判断して挑もうとはしなかった。

 キースの性格なら次々と相手を指名して最後の1人まで対戦へと持ち込みそうな気もしてたんだけど、彼は木刀を持った手を所在なげに揺らして呟く。


「……練習に、ならんな」


 体術だけじゃなく、剣術も突出した逸材の影響を受けている。

 いや、受けているとかいう次元の話じゃない。

 これでは恐らくは魔術も。そう思いながら、僕は魔術の実技演習が行なわれている演習場へと向かった。


 体術や剣術の演習場とは少し離れた区画にあるそこでは、魔術の実技に耐えうるように結界が張られている。

 まだまだ不慣れな生徒たちは人型のまとに魔術を打ち込むのですら一苦労という様子だった。


 そんな彼らを見ていた黒髪をぼさぼさにした少年は言う。


「魔術の詠唱に時間かけ過ぎ。的に当たらな過ぎ。……おい、今そこで術式不発した奴、もう1回座学で魔法陣の構築のやり方を頭の中に叩き込め」


 ジュリアンは教官の真似事……ではなく、教官そのものになっていた。

 いつもの魔術担当の教官は先の天魔の襲撃によって大怪我をしたらしく、未だに復帰出来ていないらしい。

 それまでの臨時として彼が特別に教官の座を任されたのだとか。リューディオ学長らしい判断だ。


「ジュリアンくんって可愛いけど怖いよね……」

「ねー、女の子みたいなのに……ま、そういうとこも可愛いのかな」


「ちっ、体術なら負けねえ自信があんのによ」

「剣術なら俺だって負けねえ」


 女子生徒と男子生徒の意見は綺麗に分かれていた。

 前者は何だかんだで幼さを残す少年の見た目を良くも悪くも気に入って肯定的に捉えているようだが、後者はやはり色々と悔しいらしい。


 実際に剣術や体術をやったら彼らのような普通の男子生徒が勝つのは間違いない。それは当たり前のことだ。

 逆に言えば、魔術の実技演習ならどう足掻いても彼らではあの竜族の少年に勝てるわけがない。それもまた当たり前のことだった。


 僕がその光景を眺めていた時、いきなり僕の背後から忍び寄ってきた少女が首に腕を回してきた。


「いやぁ、鬼教官ですなぁ、アレは」

「……リズ。授業はどうしたのさ」

「あたしはまだ休養許可取ってるから出なくていいの。サボり放題なわけよ~」


 まったくこのエルフは。

 ちなみに休養許可は天魔襲撃による影響が、彼女の白翼恐怖症にどこまで関わってくるか不明なためにしっかりと養生するために与えられたものだ。

 本来ならこんなにほいほいと外に出たりはせずに寮の自室で大人しくしているものなんだけど。


「ねね、テオくん。デートしよう、デート!」

「僕はこう見えても一応授業中なんだよ。君と違って」

「えー、そんなのサボっちゃえばいいじゃん……っていうか授業? 何の?」


 それを伝えると、リズは「ほぇー」と変な声を出した。


「リューディオせんせーがそんなことをねぇ」

「まあ、確かに僕も気になってたから確認したいことではあったんだよ。思ったよりも深刻な問題かな、これは」


 現場の確認はこれで終わった。

 後は当の学長に報告するだけだ。


「リズも来るかい?」

「まあ、他にやることもないしいいよー。ほらほら、手繋いでいこー!」


 僕はリズと手を繋ぎながら軍部の総司令官室に向かった。




「――というわけで、リューディオ学長や他の教官たちが危惧してたことは現実になってる感じかな」


 総司令官室のソファにリズと並んで座ってから言うと、対面に座り込んでいたハーフエルフの中将は言った。


「想定内のこととは言え、少し困りましたね」


 紫色の長髪と長い耳、そしてエルフの血筋を引く証のように整っている顔立ちが若干気の抜けた感じになり溜息を吐く。


「私も学長の座に就いて長いですが、貴方がたのような実力を持つ特待生が6人も揃ったのを経験したのは初めてなんですよ」

「ここ最近は1人の特待生すらいなかったみたいだしね」

「ええ。そこそこ見る目のある者はいましたが、まあ凡庸の域は出ないかといった具合です。遅咲きの者もいないではありませんが、大抵そういうのは一目見ただけで違いがわかるものですから」


 暗に生徒の大多数が無能の烙印をされたことになる。

 僕はリューディオ学長から特待生たちの実技演習の経過を見る授業を課せられた。

 それと言うのも、突出した逸材が周囲に与える影響についてを図るというもの。良い影響が出ていればいいが、実際はどうなのか調べてきてほしいという内容だった。


 結果は言わずもがな。

 もはや他の生徒たちは特待生を相手にして戦おうなどという気概にない。


 ちなみにロカやシャウラの傍で山のようになって倒れていた生徒たちは、彼女たちが強引に指名してボコボコにしたからだった。

 キースの相手も同様。獣人っ娘たちよりは明らかに手加減していたけど、結果はまるで変わらない。多分キースが目を瞑っている状態の剣術でも、彼を倒せる生徒は僕を除けば他にはいないだろう。


「リーゼメリア殿下。貴女はどうお思いですか?」

「リズでいいよー」


「殿下」

「……はぁ。んー、ダメじゃない? 明らかにみんな諦めてるもん。あたしだけはあの戦いに参加してなかったから特に何とも思われてないけど、他の特待生たちを前にしたらみんな諦め顔だし。クラスでもあんな化け物に勝てるわけないって話が出てることはよくあるよ」


 リズは紅茶のカップを傾けながら言った。

 休養許可はどうしたんだと思いつつ、それは僕が見てきた印象とも合致する。端的に言えば、『特待生という存在が他の大多数の生徒に悪影響を与えてしまっている』といったところか。

 それだけに留まらず、特待生自身も他に張り合う存在がいないせいで成長の機会に恵まれていない。学長はどちらかと言えばこっちの方を危惧しているように見える。


「昔は明らかに実力差があっても決して諦めないくらいに粘り強い生徒たちもいたのですが……」

「おー、出た出た。老害の懐古発言」


「事実なんですがねぇ。リーゼメリア殿下にもいずれわかりますよ。年月を重ねるということがどれほど残酷なものであるのかが」

「あんま知りたくないなー。生々し過ぎ」


 とても20代前半にしか見えないハーフエルフにも色々な苦悩があるようだ。

 長命とは言っても、たかだか200かそこらで潰える命に若いも年老いたもないと思うんだけど、それは僕が魔神だからそう思うのかな。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。


「で、学長。こんな調査をしてどうするつもりなんだい? 何か解決策があるのかな?」

「ええ。結果は分かり切っていたので既に決めていたのですがね――どうせなので、他の特待生たちも呼んでから発表しましょうか」


 リューディオ学長が召集をかけると、すぐに特待生たちが集まってきた。

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