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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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エピローグ

「ミルディアナに戻るのは何日ぶりだっけ」

『半月ぶりと言ったところでしょうか。ルミエルさまと交わり続けて1年くらいは夢中になってしまうかと思いましたが」

「……流石に帝国の中でそんなことしないよ」


 危うく、そうなりかけそうだったけど理性で押し留めた。

 ルミエルはそこそこ満足すると、テネブラエに帰っていった。

 他の王族たちが訪ねてくるようなことがあれば、今回の件を知らせておいてほしいと伝えた。ベルゼブブみたいに急にやってくる時もあるからね。


 しばらく街中を歩いていて思ったけど、やっぱり破壊されている建物などが目立った。

 整然としていたあの街並へと戻るための修繕にどのくらいの日数が必要になるかは検討もつかない。


 そして軍学校へと辿り着くと、そこはほとんど争いの痕跡がなかった。

 僕たちが巨大な天魔を相手にしている間、このあたりからは位階の高い術式の発動が相次いでいたことを思い出す。

 最後に魔法に届き得るような禁術が放たれたのが最後だっただろうか。アレは間違いなくリューディオ学長のものだろう。


 そんなことを考えながら歩いていた時、物凄い速さで走ってきた何かが僕に抱きついてきた。


「テオー!!」

「うわっ、ロカ!? ど、どうしたのさ」

「どうしたもこうしたもない! 無事だったのか! よく生きていたな! 怪我はないか!?」


「うん、平気だよ。心配してくれたのかな」

「当たり前だ! あのような……恐ろしい者に連れて行かれたのだからな。正直、生きているとは思わなかった……」


 僕の最愛の妻も、ロカにとっては化け物か何かに見えたらしい。少しだけいつもの彼女の雰囲気と違う。

 無理もないか。他の天魔たちとは明らかに格が違うというのは、見るだけでわかっただろうから。


「あら、生きてたのね」

「シャウラも元気そうで何よりだよ」

「当然じゃない。あんな雑魚共、私たちの敵じゃないもの。――それよりも!」


 シャウラが詰め寄ってきた。


「あの可愛い女の子とはあの後どうなったの!? 色情魔のあんたのことだからどうせ何かいやらしいことでもしてきたんでしょう!? 天魔だか天使だかわからないけど、どんな感じだったのか詳しく聞かせて!」

「色情魔はお前だアホ!」


 いつも通り、ロカの尻尾がシャウラの頭を打って彼女はもんどりうって倒れた。

 このやり取りは見てると面白いけど、シャウラの首の骨は大丈夫なのかとちょっと心配になる。頭の中身はもしかしたらもう手遅れかもしれないけど。


「テオくーん!」


 今度は反対側から抱きつかれた。


「やあ、リズ。元気?」

「うんうん、元気元気ー! テオくんはどうだったの? キミを連れてっちゃった奴に何もされなかった?」

「それをいま私も聞いてるのよ! どうなの!? 白状しなさい!」


 色々されたよ、うん。

 多分彼女たちにはまだ刺激が強い話だから言わないでおくけど。


「テオドール? 無事だったのか」


 そちらへと目を向ければ、キースとジュリアンの姿があった。


「戻ってきてすぐ女とじゃれてんなら無事だろ」

「まあ、それもそうかもしれんが……大事はなかったか?」


「大丈夫だよ」

「あんな奴に連れ去られて一体どうやって戻ってきたんだ? てっきり殺されたか喰われたかしたかと思ったんだけどな」


 説明が難しいな。

 リューディオ学長にどう伝えるかもあんまり考えてないけど、まあ適当にごまかしておこう。


「ちょっと色々あってね。それじゃ学長のところに行くから」


 僕がそう言うと、何だかんだでみんながついてくる。そっと僕から離れたリズ以外は。


「あたしもすぐ後で行くから待っててねー! 近いうちに戻ってきたお祝いとしてデートしよう! 今度は最後まで付き合ってよね!」


 彼女は手をぶんぶんと振りながらそう言った。

 やっぱり可愛いな、リズは。持って帰りたいくらいだ。うん。







「テオくん、無事に帰ってきたよー。良かった良かった」

「それは何よりだ」


 軍部の来賓室で娘からの知らせを聞いて、エインラーナは大して関心のない様子で言う。まるでそうなるのが当たり前とでも言いたげに。


「さて、それではテオドールの無事も確認が取れたことだし妾はツェフテ・アリアへと戻るとしよう。ああ、リーゼメリアよ。テオドールには近いうちに褒美をつかわす故、何が良いのか聞いておいてくれ」

「え? あたしも帰されるんじゃないの?」

「共に帰るか?」


「そうするふりをして不意打ちで母さまをボコボコにしてから全速力で逃げるつもり。半日くらいは何とかなりそう」

「まったく、これだから阿呆は始末に負えんのだ」


 娘の心のうちもとうに読めている。故郷に帰りたくないとはっきりと口で言われるように伝わってくる。


「ご褒美かー。何がいいかなぁ。あたしとのデートは……多分それくらいじゃ喜んでくれないよね」

「その歳で色仕掛けを考えるようになるとは。妾は呆れて何も言えぬ」

「言わなくていいですー。んー、じゃあ思い切ってキスしてあげようかな。テオくんって、ちょっとあたしのこと避けてるけどちらちら視線は送ってくるから嫌われてはないだろうし。隙を見て襲うかぁ」


「これからのエルフは恥じらいも何もないただの獣となっていくのか……この先が心配だ」

「エルフって変に頑固で男を寄せつけようとしないから、母さまみたいに500歳近くになるまで結婚も出来ないんじゃん」

「……ふん、妾に見合うだけの男がいなかっただけのこと」


「良かったね、年増のおばばを拾ってくれる優しいエルフがいて」

「どうやら汝は本気で死にたいようだな?」

「冗談だよ、じょーだん」


 リズは笑ってから、少し真面目な顔になって言った。


「あたしはツェフテ・アリアにいるのが嫌だから帝国に来たわけだけど、今はちょっと違うんだよ」

「ほう?」


「エルフ失踪事件は結局テオくんが強引に突破口を開いて最後はリューくんが解決した……ことになってる。けど、本当にそれだけなのかな。もっと調べたいんだよ」

「気楽なまま生きていきたいならやめておけ。死ぬぞ」


「そんな脅し文句で引き下がるような女じゃないの、あたしは。まあ、調べるって言っても手掛かりなんてないようなもんだけどさ。母さまは? 何か情報ないわけ? あたしにミラの血潮事件のことすら教えてくれなかったから期待してないけど」

「アレはとうに終わった出来事。汝に知らせるべきではない。そう考えていたのだ。いま思い出すだけでも寒気が走る。目の前で母上が無残に喰い殺されたのだからな」


 流石のリズも少し息を呑んだ様子だった。

 しかしまたあの事件と同じことが起きた以上、話さないわけにもいかなかった。


「恐らくアレらの目的はエルフの王族の殺害。それは汝にもわかるな?」

「うん。リューくんもあの後やっと教えてくれたしねー」


「……その理由も恐らくはアレだろう。リーゼメリア、少しばかり真面目に話を聞け」

「ん。どうぞ」


 いつもは茶化してくるリズも母の真剣な眼差しを向けられて、居住まいを正した。

 そして伝えたいことを言い終える。


「……それ、リューくんは知ってるの?」

「つい先日、帝都に向かうまでの間に議論を交わした。まず間違いないであろうという結論になった」

「そんなことになるなら、母さまはどうしてツェフテ・アリアから離れたわけ? 下手したら国が……」


「妾も老いた。昔ほどの力もない。我が国と、帝国の現状を加味した上でここであやつに犬死にさせるわけにはいかなかったのだ。故に妾は初めから死しても構わぬ心構えをしてここにきた。リューディオと汝だけでも生かした上でな」

「待って待って。じゃ、もしかしてギスランの裏にいる黒幕って最初からそれを狙ってたってこと?」


「妾はこう考えている。500年前はただの試運転。此度こそが本命だったのではないかとな」

「確かに、もうツェフテ・アリアの正当な王族は母さまとあたしだけだもんね……絶好の機会、だったのかな」


「すべてが黒幕の想定通りだったのだろう。もし事が順調に運んでいればミルディアナは大災厄に見舞われ、妾と汝は死に、リューディオはその生死の如何を問わず軍部から消え去る運命であった。――だが、その想定も最近になってふらりと現れたどこの馬の骨とも知れぬような男によって大幅に狂ってしまったが」

「あはは……。もしも思惑が上手くいって、エルフの王族が揃って死んじゃったらツェフテ・アリア自体が酷いことになっちゃうところだったんだね」


「うむ。ツェフテ・アリアの豊かな大自然は『王族がいなければ腐り果ててしまう』からな。何物にも干渉されないものが本来の自然というものだというのに、困った話だ」

「正確には王族が死んじゃえば、だよね。王家の血筋が残ってれば大丈夫なんでしょ」

「一応は、な。今の状況では、妾と汝が一所ひとところにいるのは都合が悪い。汝が帝国でのらりくらりと過ごしたのを見逃していたのもすべてはそのため。だが黒幕は既に汝の正体にも気付いていた。テオドールという予想外の要素がなければ、今頃はこの地は完全に破壊し尽くされ、我らが祖国は腐り落ちていたに違いない」


 リズは普段からは想像も出来ないようなうれえた様子で言う。


「テオくんがいなかったらかぁ。あんまり考えたくないね。下手をすればリューくんも、あたしも、母さまも全員が死んじゃってツェフテ・アリアももう……」

「リーゼメリア。もしも今後も帝国に残るというのであれば、覚悟しておけ。汝はもういつどこで殺されてもおかしくない。明日の朝にはその頭と身体が分断されて大騒ぎになっている可能性もある――これを聞いてもなお、帝国に残るつもりか?」


「ちょっと震えが走っちゃったけど……まあ、大丈夫っしょ。それにあたしと母さまは離れてた方がいいんでしょ?」

「同時に殺されるようなことを想定すればの話だがな。ツェフテ・アリアの軍は帝国軍全体にまでは及ばないが、少なくともミルディアナの腐敗し切った軍部よりは頼りになる」


「まあ、そーだろうけど。それよりならテオくんの方が信用出来そうかな。正にお姫さまと騎士さまみたいな感じで守ってもらいたいなぁ」

「……気持ちはわかるが、あまり気を許さない方がいい」


「何でよー? いい子じゃん。可愛いし、かっこいいし、強いし。優しい……のかどうかはちょっとよくわかんないけど」

「何故そう言われるのかに気付いた時こそ、汝がツェフテ・アリアの王女としての素養を得た時となる。帝国に残るならば、もうしばしあの男と共に過ごしてみるがいい。ただし決して深入りせぬようにな」


「深入りって、テオくんがグランデン出身じゃないだろうってこと?」

「それだ。もうあやつには何も聞くな。その上で様子を見守れ。もしも少しでもおかしいと直感が告げた時はただちにツェフテ・アリアへと戻ってこい。その際にはすべて捨て置いても構わぬ」

「……はいはーい。わかりましたよ。肝に銘じときまーす」


 本当にこの娘は大丈夫だろうかと、エインラーナは不安になったが顔には出さなかった。

 そして遥か彼方の西方の地へと視線を向ける。

 魔族たちが住まい、今もなお凄まじい力を持つ魔王たちが支配しているというテネブラエ魔族国に思いを馳せた。





 第1章 FIN

多くの応援を頂きましてありがとうございます。

おかげさまでモチベーションは回復出来ました。

2章の連載を開始しましたので、以前の後書きは修正します。


とは言っても、元はと言えばこの後書きの影響もあってランキング1位を数日間維持するところまで行けたと思うので消去はしません。

このお話を読んでくださっている方は、他の多くの小説も読んでいることと思います。

ブクマや評価などはほとんどの作者のモチベーションに直結するものですので、少しでも気になる作品があったら是非応援してあげてください。

もちろん本作のことも含めて。と最後まで宣伝はしておこうと思います。

それでは引き続き2章もお読みくださると嬉しいです。



↓以下、9月12日夜の2章連載まで置いていた後書き。

これにて1章は終了となります。

1章としては明らかに長い構成となってしまいましたが、付き合って頂いた方々には感謝しています。

よろしければ評価を入れてくださると嬉しいです。感想などもあればとても喜びます。是非お願いします。是非。(懇願)

評価ボタンはこの話(最新話)の下の方にあります。(一応の案内)(←追記:現時点ではこのお話に評価する場所はありません。評価が出来るのは一番新しいお話だけです)

また、もうブクマや評価など入れてくださった方には改めて感謝致します。もちろん感想やレビューをくださった方にも。


数々の未回収の伏線を見ればおわかりかと思いますが、当然この物語には2章以降のプロットもあります。

ただモチベーションの低下がかなり深刻なので一応の完結と致しました……。

今後が楽しみ! すぐ読みたい!という方がもしいたら申し訳ないです。


評判が良ければ是非書きたいのですが、予定は未定ということで……。

このエピローグと同時に更新する活動報告でもそのことに触れています。

実際に書くなら2章以降はこんなお話だよというのも少しだけ載ってたり。

何はともあれ、改めてありがとうございました。

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後日、マンガワンでも掲載予定ですのでぜひご覧くださいませ!
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