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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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幕間「飛来するモノたち」

「で。何でオレたちはこんなところにいなきゃなんねえんだ?」

「俺に聞かれても知らん。ランベール中将閣下のことだから何かしらの思惑があるのだろう」

「……軍部の方から馬鹿みてえな魔力の術式が放たれたのはわかったが、どうしてここなんだか」


 高等魔法院の近くにある雑踏の中、竜族の少年と赤髪の青年は建物の壁に背を預けながらそんなやり取りをしていた。

 リューディオから伝えられた用件は1つ。高等魔法院を見張れというものだった。


 しかし当の高等魔法院は閉鎖中だ。臨時で休業を取っているのか、職員の姿すら見当たらない。

 これではたとえ禁術が使われても何も出来ないはずだが、あのハーフエルフの中将は何を考えているのか。ジュリアンは面白くなさそうに言う。


「あの獣人たちには死なないように配慮するとか言ってたよな。おまけに俺には死んでこいつったから、一体何をやらされるのかと思えば……ここで数時間見張ってても何も起きねえじゃねえか。つまんねえの」

「何もないのが一番だろう。今頃はもう来訪なさっているはずの女王陛下に万が一のことがあれば、国交問題どころの話ではなくなる」

「来るなって言ってんのに来るんだからそん時は自業自得だろ。そもそも護衛ならオレにやらせろってんだ」


「……お前のような者が女王陛下の御前に赴いてみろ。中将閣下の品位が疑われる」

「んだとてめえ」


 銀色の瞳がキースを睨みつけるが、彼は目を瞑って仁王立ちしたまま微動だにしない。

 そのあまりの生真面目さに気勢を削がれて、ジュリアンはとあることを訊ねた。


「なあ、さっきから気になってたがそのばかでかい剣は何なんだ?」


 キースの手には、地面から彼の胸元にまで届くほどの大剣が握られていた。剣先を地面に突き、何かあればすぐにでも行動に移せるように思える。


「ん。これは聖剣『ヴィル・ギーザ』と言ってな。ドワーフの名匠に造らせた我が家の家宝だ。ひとたび握れば、持ち主の魔力を劇的に強化させて凄まじい魔術を放つことが出来る」

「なるほどな。魔剣士のお前にとっちゃ必要不可欠な武器ってわけだ」


「名称はドワーフたちの古語で『炎の牙』という意味を持つのだが、その名の通り、業炎術式に特化した代物だ。俺は炎の扱いにこそ長けているが、他の術式は不得手。であるからこそ、得意な術式の効果を最大限に発揮するためにもこの聖剣を持っている。まあ、今まで振るったことなどほとんどないのだが」

「才能がねえと苦労するよな」


 ジュリアンの容赦のない言葉にキースが呻く。

 だが、すぐ後に竜族の少年は続けた。


「オレには魔術の才能しかねえ。しかも他の竜族より少し扱いが上手いくらいだ。お前らみたいに素手で人間をぶっ飛ばせたり、大剣振り回して叩っ斬ることも出来ねえ」

「確かにお前は小柄だが、鍛錬次第で体術や剣術などすぐに物に出来るだろう」

「無駄なんだよな、そういうの」


 諦観ていかんの溜息を吐いた少年が続ける。


「とにかく体力がもたねえんだ。どんだけ頑張っても筋力も体力も向上しない。竜が人間に化けてる弊害ってやつだ」

「どういうことだ?」

「純血の竜族は本当の姿になって真価を発揮する。でも、竜族はゼナンの地から離れると竜の姿を長時間維持し続けられなくなるんだ。だから人間に化けてるわけ。仮初の姿でいくら頑張ってもどうにもならねえんだよ」


「……確かに一理あるかもしれんが。技能だけ覚えておいても損はないだろう?」

「いいよ、別に。俺たち魔術師は遠距離から魔術をぶっ放すのが仕事だ。近距離に迫られたら本職の奴には勝てねえ。それくらいだったら、『得意な分野』を極限まで極める方がいいだろ? さっきお前が言ったのと同じ理屈だ」


「お前は魔術の道をきわめるということか」

「そうそう。あの獣人たちも同じだろ。あいつらは体術を極めるのに必死だ。特待生にもそれぞれ得手不得手があるんだよ。……まあ、1人だけ変な奴が混じってるがありゃ例外だ」


 テオドールのことかと気付いて、キースは渋面を作った。


「奴の力は何なのだろうな」

「わかんねえ。剣術・体術・魔術の全部が優れてるだけじゃねえ。古代語にも精通してやがる。正直意味がわからねえよ。化け物か何かなんじゃねえのかって思う」

「テオドールと手合わせをしたが、まるで歯が立たなかった。俺は今まで多くの剣豪や剣聖と呼ばれる方々に指南を受けてきたが……奴より強い者がいたかと言われるとわからなくなってしまう」


「魔術の腕前は流石にランベール中将の方が上には見えたけどな。……でもあの余裕ぶりからすると、それも怪しいんだよなぁ」

「軍学校に入学したばかりの者が、あの五大英雄と呼ばれたランベール中将閣下よりも優れているとは……信じたくはないが」


「正直、オレは初めてだったかな」

「何がだ?」

「死に物狂いで魔術に一生を捧げても、結局こいつの足元にも及ばないだろうなって感覚を覚えたんだよ、入学試験の時に。ただの直感だけどな。……あいつには言うなよ?」


 自信家の少年のセリフとは思えなかったが、キースは頷いた。

 自分もテオドールとの稽古を通じて同じようなことを考えてしまった。この男には何をしたところで勝てはしないのではないかと。

 あの捉えどころのない男は何者なのか。まさか本当に500年前にいたという勇者の生まれ変わりか何かなのでは。そんなことを考えていた時。


 びくっと全身に怖気おぞけが走った。

 見れば、ジュリアンも同じような反応をしてすぐに高等魔法院へと視線を向ける。

 瞬間、血のように紅い魔力が爆発的な勢いで天を貫いたのがわかった。


「……何だアレは」

「何だも何も、白翼の化け物とやらのおでましじゃねえの。やっと俺たちの出番が来たか」


 余裕を装っている竜族の少年だったが、表情は硬かった。

 キースは聖剣ヴィル・ギーザの柄を握り締め、己を鼓舞するかのように剣先を石畳へと突き立てた。

 硬いそれを容易に貫いた聖剣から魔力が湧き出し、キースの全身を包み込む。


 上空に巨大で複雑な紋様をした魔法陣が出現する。

 そして少しの間を置いた時。

 魔法陣の中から、背中に白き翼を生やした化け物たちが一斉に飛び出してきた。

幕間はこれで最後となります。

物語もいよいよ佳境を迎えようとしています。

最後までお付き合いくだされば幸いです……!

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