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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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第33話「強制転移」

 僕が救護室に辿り着いた時には、リズは既に意識を取り戻していた。

 ベッドの上で座る彼女は頭痛があるのか、眉間を指で揉みながらエインラーナ女王陛下に向き合っている。


「どうして今更母さまが出てくるわけ?」

「リューディオだけではこの事件を解決させるには至らぬ。妾が直接乗り込んでやろうと思ってな」

「へえ。どこに?」


「高等魔法院だ。あの中には何かがある。軍部でも迂闊には手を出せぬ聖域だからこそ妾が来た。ついでに事件を解決した後は汝をツェフテ・アリアに戻すことに決めている」

「……あっそ。あたしはついでなんだ」

「当たり前だ。何も知らせずに突然いなくなったような馬鹿娘のことを考えてやるだけありがたいと思え」


 リズ……リーゼメリアと呼ばれていたっけ。

 何となく察しはついていた。けど、普段のリズの様子を見ているとどうしても王女には見えない。

 ちなみにリズの隣のベッドには眼鏡のエルフが座っておどおどとしながら護衛の者たちと話し合っていた。


「おう。テオ、戻るのが遅いぞー?」

「ごめんごめん。リズはもう大丈夫そう?」


「……見た限りではな。何だったのだ、さっきのアレは。まるでリズと得体の知れぬ者をすげ変えたような不気味さだったぞ」

「明らかに正気じゃなかったわ。何だったのかしら。またああなるとも限らないし、注意しないといけないわね」


 そこでリズが僕に気付いた。

 都合が悪いものを見られたとでも言いたそうに視線を泳がせる。


「やあ、リズ。調子はもう大丈夫?」

「え、あ、う、うん! 大丈夫! ていうか、ぶっちゃけ何が起こったのか全然覚えてないんだけど、あたし何かやった?」

「いや、大丈夫だよ。気にしなくていい。やったのは君じゃないしね」


「え?」

「何でもない。それよりも身体に異常はないかい?」

「ちょっと頭痛いかも」


 リズが苦笑した時、彼女の後ろから声がかけられた。


「貴様、誰に向かって口を聞いている!? このお方は紛れもなく、ツェフテ・アリア王国の王女殿下であらせられるリーゼメリアさまだぞ!」


 護衛のエルフの男だった。

 それを見てリズが不快そうに言う。


「今のあたしはリズですー! そんなに長ったらしい名前の女なんて知らない! テオくん、あんなのの言うことなんて気にしないでいいから」

「リーゼメリア。汝はつくづく」

「母さまも黙ってて。どうせあたしなんかに関心ないんだったら別にどうでもいいでしょ」


 親子仲は険悪なようだ。

 ……親子か。

 僕は魔神だからそんなものは知らない。


 魔神は生殖行為で子をなすことも出来るけど、基本的にはある日突然その場に生まれる『現象』のようなものだ。

 身体も精神も何もかもが既に完成された状態で出現するから、他の生物とは明らかに違う。そもそも生物の範疇に収まるようなモノでもないかもしれないけど。


 魔族の中でも大半のものは普通に子をなすから、親子という意味合い自体を知らないわけでもないんだけど……残念ながら僕は立場上、そういう普通の魔族との交流には乏しい。だから親子というものがよくわからなかった。

 僕は魔神でありながら妻を娶ったけど、子供は作っていない。おまけに誰かに育てられたこともない。僕は生まれたその日から既に魔神としての完成系だったから。

 どうして同じ血を分けた間柄でありながら、こうも対立するのだろう。仲良くすればいいのに。そう簡単にはいかないものなんだろうか。少し興味深くはある。


 そう考えていた時、ふっと部屋の空気が変わった気がした。室内に薄い靄がかかった。

 来たか。僕はそう思いながら、ゆっくりとリズのベッドから離れる。

 リズとエインラーナ女王陛下がまた言い争おうとしていた時、不意に変化が訪れた。


 女王陛下の身体がぴくっと跳ねると、がっくりと項垂れる。

 それを目前にしていたリズは母親に起きた突然の出来事が理解できなかったのか、困惑したような表情を浮かべた。

 護衛たちと、ロカとシャウラも異変に気が付く。その時。


「……雫が足りぬ」


 頭を抱えた女王陛下が言う。


「白翼を呼ぶ雫が」

「か、母さま……!?」


 その場にいた誰もに緊張が走った。


「――しかし、この高貴な器ならば白翼を呼ぶに足る。女神の降臨に相応しき場所へ」

「母さま、ちょっと冗談はやめ……ひゃっ!」


 エインラーナ女王陛下がリズの両肩を掴んだ。

 そしてその身体が強く発光する。

 眩い光が消え去った後には、その場にいたエルフだけが忽然と姿を消していた。


「なっ、ちょ、ど、どうなったの!?」

「余にはわからぬ。テオ、お前はどうなのだ」


「この場にいるエルフ全員への強制転移術式。禁術が使われたね。まあ、予定通りってところかな。これから少し楽しいことが起こるよ」

「……どういうことだ?」


 ロカの問いかけには答えず、僕は部屋の扉に手をかけてから言った。


「ロカ、シャウラ。君たちはリューディオ学長のところへ行くんだ」

「リズたちを探すんじゃないの!?」

「それは僕『たち』の仕事だ。君たちは学長の指示通りに動いて欲しい」


「テオ。お前はどこまで知っているのだ……?」

「さあ? でも、わくわくしてるよ。こんな気持ちは久しぶりだね」


 その後もロカが何か問いかけてきたような気がしたけど、僕はすぐに軍部を後にした。

 広大な街の喧騒から離れ、誰も見ていない場所を見つけてそこに入り込んだ。

 面白くなりそうな予感をひしひしと感じながら、僕は愛する妻の名前を呼んだ。


「レナ。出ておいで」

「はい」


 背後から出現した彼女に抱きしめられる。


「それじゃあ手筈通りに」

「これからデートですね? デートコースはばっちり計算しています! まずは」

「……事件が片付いたらいくらでもしてやる。頼んだぞ」


「仰せのままに。貴方さまのお力の前ではどんな輩でもチリ同然。妻としては夫の身を案じるのが当然ですが、私はあえてルシファーさまが力加減を間違えてこの街を吹き飛ばしてしまうことのないよう祈るだけにしておきます」

「せいぜい気を付けるとしよう」


 興奮し過ぎたらそうなってしまうかもしれない。

 僕は苦笑しながらも、レナの強大な魔力が編み出した強制転移術式に包み込まれる。

 恐らくは女王陛下に『憑依』したギスランが使ったと思われる禁術に等しい魔力。


 普段なら警戒されて当然の代物だけど、今の高等魔法院にはこの禁術を察知して対処出来るほどの余裕はないはず。

 学長には流石に怪しまれるかもしれないけど、一応この街を救うためでもあるからね。大目に見てもらわないと。

 さて、行き先の地下広間とやらには何があるのか。今から楽しみだ。


 ――事件もいよいよ大詰め。

 ここまで大事おおごとにしたのだ。最後の演目は派手にせねばならんだろう。

 なあ、ギスランとやら。貴様はこの私をどこまで愉しませてくれる?

いよいよ終盤戦です。

最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

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