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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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幕間「豹変」

 軍部の地下にある牢屋に収監されているラティスを前にして、リューディオとリズは質疑を続けていた。


「――ミリアム・ステイシス少尉、ですか。私が見た限りでは、特に変わった印象はなかったのですがね」

「うん。あたしも何度か話したことあるけど、明るくて面白いお姉さんみたいな感じだったんだけど」


「ただ、彼女が軍学校に在籍していた時に他の生徒から『ミリアムがおかしな独り言を呟いている』という報告を受けたことが数回ありました。結局、学業にも軍務にも差し支えはないだろうとして問題視されるようなことはありませんでしたが記録には残っていたようですね」

「ラティス少尉はどうだったの?」

「普通の貴族のお嬢さんでしたね。彼女はツェフテ・アリア出身の貴族ですが、特に目立った行動は起こしていません。記録にも残っていないでしょう」


 突出したところがない者に対しては興味が薄いリューディオだ。

 彼女たち卒業生に対してもそれは変わらないらしい。


「あのさ、リューくん。ミリアム少尉って18歳だよね。今年卒業したばっかりでラティス少尉の同僚」

「ええ。それが?」


 リズはあの日、図書館でラティスに襲撃される直前に考えていたことを言った。


「ミリアム少尉は元々ミルディアナの出身じゃない。3年前に軍学校に入学するためにここまで来た。でもその頃からだよね、エルフの失踪事件がミルディアナで起こり始めたの」

「……確かに、この地で発覚している主だった失踪事件は3年前から起こり始めています。公に発覚したのはだいぶ先になってからですがね」

「ミリアム少尉の犯行って可能性はないかな。もしくは、ラティス少尉と共同の犯行とか」


「メイルディア少尉がステイシス少尉の攻撃によって負傷したのは事実です。共犯と考えるのは無理があるかもしれません」

「じゃあ、自分が怪しまれないようにするためのラティス少尉の自作自演だったとかは?」


「貴女が襲撃された時の言動を考えると、ないとも言い切れませんが……」

「ん~! 何か、引っ掛かるんだけどなぁ」


 リズが頭を抱えて考え始めた時、収監されていたエルフがぴくりと身じろぎした。


「……ここは……?」

「あ、ラティス少尉!」

「リズさん……? うぐっ……いたた……あ、あれ、私、何でこんな」


 ラティスは全身を強打した痛みが引いていないようだ。

 しかしそれ以上に驚愕しているのは、自分が椅子に座らされたまま封印術式を施された縄で拘束されているからだろう。


「目覚めましたか、メイルディア少尉」

「ランベール中将閣下!? あ、あの、私はどうしてこのようなことに!?」

「何も記憶にありませんか」


「き、記憶ですか……わ、私にはこんなことをされるような記憶は」

「貴女の最後の記憶はいつです?」


 リューディオに鋭い眼差しを向けられて、ラティスはおどおどとしながら言う。


「ええと……ん……ミリアム……あ、いや、ステイシス少尉と酒場で飲んでいて……あれ……?」


 首を傾げるラティスを見て、リズが言う。


「そんなに前なの!? 昨日の夜、ちょー怖かったんですけど!?」

「えぇっ!? い、一体何のお話でしょうか?」

「リューくん、リューくん、この子、役者の才能とかあるんじゃない? マジでこんなこと言ってるならやばいって」


「や、役者!? 才能!? わ、私には何のことだかさっぱり」

「いえ、残念ながらないでしょうね」


 リューディオは肩を竦める。

 ラティスの反応はもはやいつもの彼女と何も変わらない。

 しかも彼女は一度リューディオによる取り調べを受けているがそれも覚えていないようだ。


 では、あの日。自分の目の前にいたモノは一体何だったのか。

 虚ろな瞳をして、ろくに受け答えも出来なかったアレは一体。

 あの時、念のために洗脳などがなされていないかを確認するために簡易的な術式破壊を行なった。それでも彼女は何の反応も示さなかった。


 ということはつまり、あの時の彼女は間違いなく自分自身の意思で動いていたということになる。

 その事実と、いま目の前であたふたとしている年相応の少女の姿はあまりにもかけ離れていた。


 ラティスが黒幕なら、何故ミリアムに襲われたなどと告げた? 本当にそうなら、何も言わずにミリアムを誘拐するなりしてしまえばそれで良かったはず。

 あまつさえ自身の身体を傷つけるような真似をする必要もない。

 これではまるで――軍部に黒幕の情報を与えているようなものではないか。


 そしてミリアムの幼少期から続くとされる精神に何らかの異常をきたしているような言動。

 普段はそのような様子はおくびにも出さないのに、ある時何の前触れもなく意味不明な言葉を呟くという行動。


 対して、ラティスにはそのような兆候は一切なかった。少なくともつい最近までは。

 それらを加味して今までの状況を考えるなら、このような結論を下すことが出来る。ミリアムとラティスの「中身が入れ替わった」と。


「メイルディア少尉。貴女はエルフ失踪事件の最重要参考人となっています」

「えっ、な、何で……ですか」

「記憶がないのなら思い出すまでそこにいなさい。後のことは他の者に任せます。行きますよ、リズ」


「あ、ちょ、ちょっとぉ! ここで話打ち切っちゃうの!?」

「中将閣下!? お、お待ちください、私、一体、何で……? ステイシス少尉はどこに?」


 後方から響くラティスの言葉はもはや耳にも入らず、リズを連れて地下牢を後にした。

 そして散々文句を垂れるリズを学園の寮から出ないように諭し、最高司令官室へと辿り着く。

 間もなくして、エルフの使者が部屋に現れた。


「そうですか。女王陛下も急なことをなさいますね」

「私如きではお引き留めすることもかなわず。しかし、どうか陛下のお気持ちもご理解ください」


「わかっていますよ。ただ、血の気がなくなってその場で女王にあるまじき生き恥を晒す可能性があることを報せなさい。これが私から彼女に対する最後の警告です」

「……と、仰いますと?」


 リューディオは溜息を吐いてから呟いた。


「500年の月日を経て、再び舞い降りてきますよ――白翼の化け物共が」

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