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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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第19話「魔王さま、停学になる」

 学園に行ってみると、周りの生徒が露骨に僕を避けているのがわかった。目を合わせようともしない。

 ……これは困ったな。エルフの生徒に失踪事件の話でも聞いてみるつもりだったんだけど。

 どうしたものかと考えながら、自分の席に向かう。椅子がなかった。おまけに机の上には落書きがされている。


『調子に乗るな』

『平民はさっさと田舎に帰れ』


 やれやれ。これがリューディオ学長が言っていた『後で後悔する』という意味かな。

 僕は周囲を見回して、談笑している男たちのもとに近寄り、席に座っていた生徒の背中を蹴飛ばしてから彼の椅子に座った。


 まったくの無警戒だった生徒は机を巻き込みながら、思いっきり吹っ飛ばされる。誰もがその光景に唖然とした。

 蹴飛ばされた生徒と話していた男が震える声で言う。


「な、ななな何しやがんだ!?」

「座る椅子がなかったから」

「い、椅子がなかったって、何で、何がどうなってこうなるんだよ!?」


「椅子を隠して机に落書きしたの君たちでしょ?」

「しょ、証拠はあんのか!?」


 僕は教室を見回した時に一瞬だけこちらを見て笑っている者たちを見かけた。他の誰もが気まずそうにしている中、明らかに浮いていたから彼らで間違いないだろう。

 まったく。王の座すものを奪っただけで普通なら首が飛んでもおかしくないんだよ? これくらいで済ませたんだから感謝してほしい。

 と、机と一緒になって吹っ飛んでいた生徒が起き上がって、鼻血を垂らしながら叫んだ。


「おい! 俺が誰だかわかってんのか!?」

「誰だっけ」

「お、俺はアルダン公爵家の者だぞ! 貴様、こんなことをしてただで済むと思うなよ!?」


「じゃあ、もうくだらない嫌がらせはしないでよ。死にたくないならさ」

「~~っ!! てめえぇぇ……!!」

「それと公爵家の血筋なら、もう少し言葉遣いには気を付けた方がいいんじゃない? 下品だよ」


 と、その時、担当教師が慌てて入ってきた。


「な、何事ですか!?」

「先生! こいつが俺のことを蹴っ飛ばしやがったんです! 貴族の出であるこの俺を!」


「なっ、何故そのようなことを!?」

「彼が嫌がらせしたからさ。ねえ、みんな?」


 後ろを振り返ってみるけど、誰もが視線を逸らしたままだ。

 まあ、こうなることはわかっていたからいいんだけど。


 僕は『いつでも倒しに来い』とは確かに言ったけど、こういう馬鹿みたいなことをしろとは言ってない。

 もっとも、手段は問わないとは言ったけどね。もしもこれで僕に勝ったつもりでいるなら虫けら以下の脳味噌しか持っていないことになる。


「テオドール、今日という今日は許しませんよ! これから数日間の停学とします! いいですね!?」

「悪いのは彼らなのに?」


「たとえ、そうであったとしても暴力を振るったことは許されません! このことはランベール学長にも報告させて頂きます!」

「ご自由にどうぞ。じゃあ、帰っていいのかな?」


 僕が呆れて席を立った時、公爵家の出を名乗った生徒が言った。


「待てよ。謝れ。今すぐにだ!」

「……はぁ。自分のやったことは棚に上げておいてそれかい?」

「はっ。知らねえなぁ」


 人間社会とは面倒なものだ……。

 魔族の世界にも貴族制度はあるが、こうも馬鹿な上に弱い者はいない。完全なる実力主義だからだ。

 僕が指で軽く弾いただけで頭が粉々に吹っ飛ぶような連中に謝罪を要求されるとは。不愉快極まりない。


「ああいうイタズラをされたからさ、僕も軽い挨拶のつもりでやったんだよ。ごめんね。まさか君があそこまで愉快に吹っ飛んでいくとは思わなくてさ」

「なっ、なにぃ!?」


「君がここまで弱い生徒だって知ってたらあんなことはしなかったんだけど……力量差がわからないなんて、僕もまだまだだね」

「ふざけんなこの野郎!!」


 公爵家の人間が掴みかかってきた。

 誰もが息を呑んだその時、教室の中をひょっこりと覗いてきた者がいた。


「なんだ。やけに騒がしいと思って来てみたらやはりお前だったか、テオ!」


 黄金色の耳と長い尻尾が印象的な狐の少女だった。

 彼女はその耳をぴくぴくと興味深そうに動かしてから、教室内の様子をきょろきょろと見回した後、教師を見つめて言った。


「おい、教官殿。テオが何かやらかしたのか?」

「え、ええ……公爵家の者に……いや、生徒に暴力を起こしたようで」


「それはまことか、テオ?」

「うん、イタズラをされたからやり返しただけなんだけど、誰も僕の味方になってくれなくて困ってたんだ」


 軽い気持ちで言うと、ロカは尻尾をふりふりとしながら朗らかに笑った。


「であろうな~。ここにいる者共を見よ。誰も関わり合いになりたくないという顔をしているぞ」


 面白そうな調子で言うロカは再び教師へと目線を向ける。


「で? 教官殿の裁量はいかに?」

「た、たった今、停学処分としたところです……!」

「そうかそうか! うむうむ、あの入学式から数日以内にテオなら絶対に何かやらかすと思っていた余の目に狂いはなかったな!」


 あれ、そんな目で見られてたんだ、僕。


「では、教官殿。テオはもうしばらくいらんのだな?」


 ロカは教室内にずんずんと入ってくると、僕の手を鷲掴みにした。


「こいつを少し借りるぞ。余のおもちゃにするのだ!」


 わけもわからずに引っ張られていった時、公爵家の人間が言った。


「おい! そいつからの謝罪がまだねえぞ!」

「謝罪ぃ? 先に手を出したのはお前らしいではないか?」

「公爵家の人間の言うことが信じられねえのかよ!」


 鼻で笑う生徒に、ロカもまた鼻で笑って返した。


「うむ、余も身分は重んじるがそれとこれとはまったく別の話だな! くだらない戯言で余を足止めするでない。では行こうぞ、テオ」

「待てよ、この『ざり者』が――」


 ロカの尻尾が公爵家の生徒の顔を叩いた瞬間、彼はその場で昏倒した。


「ろ、ロカ・コールライト! 何をするのですか!?」

「教官殿よ。その男が口にした言葉が我ら獣人族に対してどれほど無礼なものであるかがわからぬか?」


「……!! し、しかし」

「ここが学び舎でなければ、その首を折っていたところだ。我ら獣人族を侮蔑した罪は万死に値する」


 彼女の一撃は明らかに手加減していたものだった。

 しかしその言葉には殺意が籠もっている。


「貴族だかなんだか知らんが、余は王だ。それが起きたら伝えておけ。次にまた同じ言葉を吐いた時がお前の最期だとな」


 教師はもはや何も言えずに呆然としている。

 ロカはつまらないものを見るような目で軽く溜息を吐いた後、僕を見てにぱっと笑った。


「さて、こんなつまらんところにいては身体が腐っていくだけだ! 行くぞ、テオ!」


 僕はロカに身を任せてその場を後にした。




 ロカに連れられていった場所は校舎裏だった。

 そこに佇んでいた色素の薄い少女が赤い瞳を見開いた。


「ロカ! ……と、何であんたがいるわけ? というか、どうしてロカと手を繋いでいるわけ!?」

「いや、僕にも何がなんだかさっぱりで」

「テオが問題を起こしたから連れてきたのだ!」


 ロカの発言にシャウラが眉根を寄せる。


「問題? どうせその男のことだから女の子に性的なイタズラでもしたんでしょう?」

「テオをお前と一緒にするな。ただ単に善良でか弱い生徒をぼこぼこにして停学にされただけだ」


 いや、微妙に違うよロカ?


「呆れたわ。真っ先に暴力沙汰で問題を起こすなら絶対にロカだと思っていたのに」


 シャウラもシャウラで何かと酷いことを言っている気がする。本当にこの2人は王と臣下なんだろうか。

 そもそも前から気になっていたけど、ロカが自称する王とは一体どういう意味なんだろう?


「残念だったな。シャウラ、お前の負けだ。今日はお前の金で好き放題贅沢をさせてもらうぞ」

「はいはい、わかったわよ……ちっ、本当にむかつく男ね」

「どうして矛先が僕に向けられるんだろう? 流石に傷つくよ?」


「シャウラと賭けをしていたのだ。余とテオのどちらが先に問題を起こすかとな。余は絶対にテオが何かやらかすと信じていたから、自由に使える金をすべてお前に賭けたのだ!」

「こっちはこっちで酷いし。……そういえば、君たちは授業どうしたの? もう始まってるでしょ」


「そんなものはサボったぞ」

「そんなものはサボったわ」


 2人同時に同じことを言った。この子たちも本当に問題児だなぁ。


「あんなしょうもない講義を聞かされる余の身にもなれ。退屈で退屈で仕方がないぞ。体術の実技は弱い奴ばかりで話にならぬしな」

「私、魔術の講義とかほんとどうでもいいし……女の子の身体の構造とか教えてくれるなら話は別なのに。種族別で性感帯を教示してもらいたいものだわ」


 この2人にまともに講義を受ける気がないのは確かなようだ。多分、僕よりもやる気がない。


「ところでロカ、どうして僕をここに連れてきたんだい?」

「それはもちろん、他に誰もいない場所でお前を2人で嬲り殺しにするためだぞ!」


「うん、で、どうしてなのかな?」

「むぅ、つれん奴だ……先も言ったように授業をサボっていたら騒ぎが聞こえてきたから見に行ったのは本当だぞ。そこでテオを見かけたから、暇潰しに連れてきたのだ。余とシャウラはこれからこの街を見物して回るつもりなのだが、お前もどうだ? 『はい』以外の言葉は求めておらんぞ?」


 強制的だなぁ。本当に傲岸不遜を地で行くような子だ。

 とは言え、これは願ってもない話だ。2人のことをそれなりに聞きつつ、例の話を持ち出してみるとしようか。


「わかった、いいよ。どこに行く?」

「げぇ……ロカと2人きりでデートのつもりだったのに、最悪だわ……」

「いつもいつもお前と2人ではつまらんからな。では、余が気ままに散策する故、お前たちは大人しくついてくるがいい!」


 狐っ娘のふてぶてしい物言いを承諾して、僕たちは揃ってミルディアナの街へと繰り出した。

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