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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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幕間「取り調べ」

 リューディオ・ランベールは軍部の地下にある部屋へと入った。

 狭い室内を照らすのは頼りない燭台の灯りのみ。

 簡素なテーブルと椅子だけが置かれた石造りの部屋に彼女はいた。


「申し訳ない。待たせてしまいましたね、メイルディア少尉」

「……」


 椅子に座って俯いているのは、眼鏡をかけたエルフの女性だった。

 容姿は非常に整ってはいるが、エルフから見ればそこまで特筆に値するものでもない。

 軍人としての戦闘能力は平均としか言いようがなく、リューディオからすれば特別に興味を抱く相手ではなかった。


「それでは、早速ですが……件のミリアム・ステイシス少尉の失踪の件について話を聞かせてもらえますか?」

「……はい」


 非常に憔悴しているといった様子のラティスは、たどたどしい口調で数日前の深夜に姿をくらませた親友と自分の身に起こったことについて話した。


「深夜に2人で街を歩いていた時に、突如として異変が起こったと?」


 ラティスは無言で頷いた。

 テーブルの上で両手を組んで硬く握り締めている。


「ステイシス少尉は何事かわけのわからないことを呟いた後、貴女に対して攻撃を行なった。そして意識を失った貴女は、気が付いたら軍部に運ばれていたというわけですか」

「そう、です……」

「わけのわからないこと、ですか。具体的な言葉は覚えていませんか? 記憶にあるままでいいので話してください」


 ラティスはうつろな瞳でリューディオを見つめてから呟いた。


「『雫が足りぬ』……」

「雫、ですか。その言葉に心当たりは?」

「翼を呼ぶもの……」


 心ここにあらずという有様のラティスは、まるで魂が抜け出てしまったかのように茫洋ぼうようとした瞳をしている。

 彼女とミリアム・ステイシス少尉は無二の親友であったらしい。それでは無理もないことなのかもしれない。


「雫は翼を呼ぶもの、ですか。なるほど。他には?」

「……」

「何も覚えていませんか。それでは、ミリアム・ステイシス少尉の行き先に心当たりは?」

「……」


 ラティスは意識を失った翌日には発見され、当日中に目を覚ました。

 しかしながら何を聞いても答えられなかったため、こうして事情聴取を行なうまでに時間がかかったのである。

 この様子ではまだすべてを話すことは難しいか。それとも、もう本当に何もわからないのか。


「まあ、いいでしょう。今日の聴取はこれでお開きとします」

「……」


 リューディオはさりげない動作で指を鳴らした。

 簡易的な術式破壊だ。

 念のために催眠や洗脳の術式がかけられていることを疑ったが、彼女は何の反応も示さない。


「では、貴女にはこの後すぐ、高等魔法院へ出頭してもらいます。出頭とは言っても、ステイシス少尉の攻撃の後遺症が残っている可能性があるので詳しい検査をするだけですが」

「……はい」


「あそこは名のある魔術師たちが多数在籍しています。治療はもちろんのこと、もしも何者かが貴女を襲撃するように企ててもそれを寄せ付けないだけの力がある。安心なさい」

「……はい」

「以上です。後は他の者が引き継ぐので、その指示に従いなさい」


 そう言ってリューディオはすぐに部屋を立ち去って代わりの軍人の男2人が彼女を強引に立たせた。

 階級章から見るに2人とも佐官であるらしい。


「さっさと歩け」

「……」

「面倒を起こさせるんじゃないよ、まったく」


 男たちはラティスを半ば強引に引きずるようにしながら部屋を出て階段を昇り始める。


「まったく、何だって俺がこんなことをせねばならんのだ。エルフのお守りじゃねえんだぞ」

「まあ、仕方ないさ。中将殿が無能なんだよ。ゼナンとの戦争で活躍して英雄呼ばわりされて偉そうにしてるけど、実際には戦うこと以外何も出来ないんだろう」


「奴隷商人から貴族の屋敷の調査まで散々こき使ってくれた挙句、全部が空回りだってんだからやってられねえな」

「あんなハーフエルフ如きが総指揮官だなんて考えられないね。今消えまくってるエルフごとまとめて中将殿もどこかに消えてしまえば良いものを」

「違いねえ」


 軍人たちはラティスがいるにもかかわらず、エルフに対して差別的な言動を続ける。

 同盟が結ばれてから100年。エルフが爵位を授与されたり、軍部の将校を務めるようになったのは帝国内のエルフたちの待遇の改善と言えるものだった。

 しかしそれを快く思わない者たちは多い。完全なる実力主義である帝国軍においてもそれは変わらなかった。


「しっかし、エルフはどこに消えてるんだろうなぁ。やっぱアレかねぇ、奴隷にしてんのか」

「それにしては規模が大き過ぎる気もするけど。帝都あたりの大貴族に囲われてる可能性もあるかもしれないねぇ」


「へへ、いいよな。エルフの奴隷。おいお前、ラティスとか言ったか? 片割れだけさらわれてお前は用無しとは笑えるな。どうだ、俺の奴隷になる気はねえか? ん? 気持ち良くさせてやるぜ」

「……」


「そこらへんにしときなよ。エルフの奴隷を飼うのは重罪だ。人間の奴隷は平気で売り買いされてるってのにね」

「ちっ、まったくその通りだ。お高く止まりやがってよ。おら、さっさと歩け!」


 ラティスは無言のまま、たどたどしい足取りで歩き続けた。

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