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第13話「入学式の挨拶は魔力を込めて」

 数日後。

 僕は学園の制服を着用して、今年入学が決まった人たちの中に混ざり込んだ。


 帝国軍の軍服と同じく黒を基調とした制服の着心地はあまり良くない。男女共に上半身のデザインはほとんど変わらず、男子はズボン、女子はスカートを穿いている。

 制服の胸元に刻まれた校章の色で学年がわかるようになっているらしく、1年は銅、2年は銀、3年は金に光り輝いている。


 そしてミルディアナ軍学校の校庭兼模擬練習場で入学式が行われ、リューディオ学長の挨拶やら訓示やらがあった。

 別に興味がなかったのでぼーっとしていたら、唐突に名前を呼ばれた。


「それでは、入学者代表のテオドール。この場にて、皆の前で発表を行なってください」

「え?」

「まさか聞いていなかったのですか。貴方は剣術・体術・魔術のすべての部門で首席の座を獲得しました。入学者代表として、軍学校の全生徒に思いの丈を語ってください」


 学長の隣に行くと、ぼそぼそと説明される。なるほど、思いの丈か。特に何もないな。楽だったし。

 全生徒はおよそ700名以上になるだろうか。最前列に最上級生、その後ろが2年、最後に今年度の入学者が並んでいるようだ。入学試験で見覚えのある人物たちの姿も見かける。

 最前列にいた生徒の何人かが囁き合う。


「アレが500年前の勇者と同格? 嘘だろ」

「弱そうなガキじゃねえか。しかも貴族じゃねえときたもんだ」

「薄汚い平民風情がいい御身分だ」


 僕は演壇の上にひょいと乗り込んで、座り込んだ。足を組んで全生徒を見下ろす。

 信じられないものを見たとでも言いたいかのような表情で固まる生徒たちが大半だった。

 どうせだから挑発でもしてみようか。全校生徒に言う機会なんてなかなかないだろうしね。


「えー……学長がなんか言ってたけど、今年から軍学校に入学するテオドールって言います。よろしくね」


 生徒たちだけではなく、周囲にいる教師たちもがざわつき始めた。あまりにも無礼な態度だから無理もない。リューディオ学長だけは面白そうに笑ってるけど。


「わけあって剣術・体術・魔術の3種目を受けて全部で首席になったけど、この記録って500年前から今までずっと破られたことなかったんでしょ?」


 僕は最前列に位置する生徒たちを見やる。


「凄く簡単だったよ? そこで僕を蔑んで見てる先輩たちはどうしてこんなことも出来なかったんだい? 弱いからかな?」


 その発言に頭が沸騰した連中が口々に言った。


「てめえ! 平民の分際で調子こいてんじゃねえぞ……!」

「入学したてのガキがよくもまあそこまで言えたもんだな!」

「今年の奴らが雑魚だっただけだろう!?」


 最後のは違うな。今年の子たちは見るべきところがあったよ。少なくとも、君よりは。

 視線と笑みだけでそれを伝える。


「い、いくらなんでも挑発が過ぎるのではないか!?」

「中将! やめさせるべきでは……!?」

「まあまあ、もう少しだけ見守っていましょう」


 教師たちが騒ぎ始めた。別にいいじゃないか。事実なんだし。

 まあ、こういう挑発をいつまでも続けるというのも白けるか。石ころも同然の相手にわざわざ口を開く理由も見つからない。


 だから、僕は全身を駆け巡る魔力をほんの少しだけ凝縮させた後、周囲にいる者たちすべてに対して解き放った。

 瞬間、それまでわめいていた先輩たちがばたばたとその場に崩れ落ちていく。膝からくずおれる者、顔面から地面に叩きつけられる者、卒倒する者、実に滑稽で無様な姿を晒してくれた。

 倒れたのは生徒たちだけではなかった。教師たちのうちの何人かもその場に倒れ込んでいる。


 嘆かわしい。こんな微量の魔力にすら耐えられないのか。

 まるで何事もなかったかのように嬉しそうに笑っているリューディオ学長以外の倒れなかった教師たちの誰もが、その表情を硬くして冷や汗をかいていた。

 僕は改めて全生徒たちに視線を移す。その場に立っているのは5人だけだった。その全員が最後尾のあたりで立ち尽くしている。


 赤い髪の青年、獣人族の娘が2人、エルフの少女が1人、竜族の少年が1人。驚いたことに僕の魔力の波動に耐えられたのは全員が見知った顔だった。

 正直、期待外れだ。2年や3年にも面白いのがいないかと思っていたのに、そのあたりはもう意識を保っているのがやっとの連中ばかりだったから。

 溜息を吐いてから言う。


「この程度の魔力にも耐えられないようじゃ、軍人としてやっていけないんじゃない? 弱過ぎるよ、君たち」


 もはや批判の声は上がらない。誰もがそんな余裕を無くしている様子だった。


「文句があるならいつでも僕を倒しに来なよ。別に正々堂々じゃなくていい。闇討ちでも暗殺でも、なんでもいいから出来るものならやってみろ。少しは楽しませてくれることを期待しているよ。以上」


 最後に最大級の挑発をして、僕は演壇から降りた。

 それを出迎えたのは学長だった。くっくっと肩を揺らして笑っている。


「いやぁ、爽快でしたねぇ。ここまでやる人は初めて見ましたよ。今日からは夜道に気を付けた方がいいかもしれませんよ」

「そのくらいの刺激がなきゃつまんないよ」


「実に愉快でした。しかし……私としては喜ばしいことですが、他の方はそうもいきません。特に貴方が真っ先に挑発した最上級生たちには有力な貴族の出の者も多い。後で後悔することになるやもしれませんが?」

「自分の身に降りかかる火の粉くらいなら払えるさ」


 どんな実力行使で来られても構わないからね。

 それよりも僕はずっと気になっていたことを学長に告げることにした。


「リューディオ学長。実はお願いがあるんだけど――」


 結局、入学式の後は1年生として適当なクラスに編入させられた。

 現在の特待生枠について聞いてみると、どうやら学園の寮を無料で使えたり、在学中に一定の金額を与えられたり、卒業後に軍人になった暁には将校になれる可能性がぐっと高くなるなどという特典があるくらいらしい。レナが前に言っていたようなものとほとんど変わらない。

 暇潰しになったかどうかも怪しいけど、将来有望な1年生がいたのは確かだ。でもその全員が僕とは別のクラスに入ってしまったのがつまらない。


 みんなが学校でどういう風に学んでいくのかを間近で見てみたかったんだけどね。

 他の人たちには期待できそうになかったし……。

 まあ、今は愚痴を言っても始まらない。


 何はともあれ、彼ら全員と改めて顔を合わせて思いの丈を語って欲しいものだ。

 特に魔族についてどう思ってるかを詳しく聞いてみたい。

 憎しみが強ければ強いほどいいというものでもないけど、さて何て答えてくれるのかな?


 というわけで、僕はクラスの担当の教官が今後の予定やらを語ったのを聞き流した後、早速とある場所へと向かった。

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