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世界最強の魔王ですが誰も討伐しにきてくれないので、勇者育成機関に潜入することにしました。  作者: 両道 渡
第1章 『末期の雫編』

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第11話「入学試験~魔術~改めて開始! なお試験官は逃げ出した模様」

『おい、てめえ、名前は?』

「テオドールだよ。君は?」

『……ジュリアンだ』

「いかにも人間らしい名前だね?」


 彼はそれには答えず、鋭い瞳孔で僕を睨みつける。


『テオドール。さっきオレを倒すって言ったよな? ってことは当然、オレが攻撃しても文句はねえんだな?』

「もちろん。その爪で切り裂くなり、ブレスで焼き払うなり凍らすなり好きにすればいいよ。もっとも、そんなことにはならないけど」

「ちょっ、あの、テオくん……あー、あたしもう知らないからね? 巻き込まないでよ? ぜーったい巻き込まないでよ?」


 リズは気まずそうに言ってからそそくさと群衆の中に紛れ込んでしまった。もとより彼女を巻き込むつもりはなかったからこれでいい。


「じゃあ、試験官さん。僕が彼を倒せたら合格にしてもらえるかな?」

「そ、そそそそれは私の一存では」


 言い淀んだ試験官の目前に竜の前脚がずどんと振り下ろされた。地響きと共に大地がひび割れる。


『邪魔すんならてめえも殺すぞ』

「ひ、ひぃぃぃ!!」


 試験官は恐慌のあまり逃げてしまった。

 困るな。判定する人がいないじゃないか。まあ、後で倒れてるジュリアンの姿でも見せればいいか。


『本当にやるんだな? 引き返すなら今だぞ、人間』

御託ごたくはいいから早くかかってきなよ。それとも僕が怖いかい?」


 竜になっても変わらない銀色の瞳に炎が灯り、口内に超高熱の塊が出来上がったと同時に凄まじい勢いで炎のブレスを放ってきた。

 魔術に換算すると第七位階か。別に大したことないなこれは。

 僕は目の前に手をかざして即席の結界を作る。緑色に輝く魔法陣が現れて、火焔をいとも簡単に止めた。どれだけ勢いが強くてもこの程度なら何の問題もない。


 詠唱すら必要としない結界に遮られ、竜の視線が鋭くなる。

 次第に炎の勢いが弱まり、彼は吐き捨てるように言った。


『これでも手加減したんだぜ? てめえが張った結界が第三位階程度だったら瀕死、それ未満だったら貫通して燃えてただろうよ』

「あまり嬉しくない配慮かな? 言ったよね。君の本気を見せて欲しいって」


『死なれたら困るんだよ。殺しちまったらその時点で失格だからな。次は燃やし尽くすぞてめえ』

「強ければ強いほどいい。僕は絶対に死なないから、手加減なんて必要ない」

『……後悔すんなよ!!』


 竜の顎から白光が迸る。先程の炎よりも遥かに強い威力だ。魔術に換算すれば、およそ第10位階に該当するだろう。

 竜族が人間の姿を取ることはよくある。外見だけで年齢を測ることは難しいが、エルフほど極端でもない彼は確か15歳だと言った。


 いくら魔力の強い竜族とは言え、15歳でここまでの力があるとはね。凄いよ。壊し甲斐があって素晴らしい。

 光り輝くブレスが放たれる。この姿だと詠唱無しで防ぐのは少ししんどいか。それに防ぐだけじゃ物足りないな。


「――我が内に秘めたる力よ。この身を灼き尽くさんとする暴威を呑み込め。『魔力吸収アブソーブ』」


 軽い詠唱と共に僕の目の前に黒い魔法陣が現れ、ブレスがその中に吸い込まれる。しかし勢い余ったそのブレスの余波が周囲を焦がして後方にまで届く。

 後ろにも結界を張ってやるかと思ったら、緑色の魔法陣が現れてブレスの勢いを封じ込めた。結界の主はエルフの少女リズだった。どこか掴みどころのない様子の彼女の顔も今は真剣そのものに見える。

 このブレスは僕が大部分を吸収したけど、それでもあそこに届いたのは第六位階の魔術に匹敵する力だ。それを防ぐとは、彼女もなかなかやるらしい。


 なんだなんだ。思い出してみれば、剣術・体術・魔術のどれでも見所のある逸材がいるじゃないか。これでどうして勇者が出てこない? 今年が特殊なだけか?

 僕は感慨かんがいに耽りながら、目の前にある黒い魔法陣に集中した。白光のブレスの勢いは弱まり、もうその力はすべて魔法陣に吸収される程度に抑えられている。

 若き竜族、ジュリアンは驚愕を露わにしていた。


『……防ぐどころか、吸収……だと!?』

「こう見えても魔術は得意なんだ」


 この身体であっても10位階程度の魔術であれば、詠唱ありきで行使することが出来る。そしてあの魔術には続きがあった。


「――飲み下した暴威を力に変換せよ。其は滅亡のやじり也――『反転砲撃リフレクト・ストライク』」

 黒い魔法陣から先程のブレスよりも高い出力の魔力が溢れ、凄まじい光を放ちながら発射。それは瞬く間に竜の身体を穿うがった。

 吸い込んだ魔術を強化して相手に反射するのがこの術式だ。彼が放ったブレスと同程度の第10位階くらいに威力は抑えた。死なれたら困るからね。


『ぐぁっ!?』


 短い悲鳴と共に白銀の竜の身体が堪え切れずに吹き飛ばされる。

 竜族の魔術への耐性は極めて強い。今の魔術が直撃すれば、力ある魔族でもただではすまないけど彼はどうかな。


 吹き飛ばされて煙を上げてはいるが、死んではいない。気が付けば、彼の身体は少年のそれに戻っていた。力を失うと人間の姿に戻るようだ。

 僕は倒れている少年に近づき、声をかける。


「大丈夫かい?」

「……クソっ……てめえ……ぐぅっ」


 手を貸して起き上がらせようとしたけどその手を跳ねのけられた。

 そして彼は苦しそうな表情をしながらも目の前に魔法陣を展開させる。

 負けを認めたくないらしい。昨日の獣人の彼女たちを思い出して微笑ましい気持ちになる。


 次の魔術は第六位階くらいかな。じゃあ、それに合わせて相殺してあげようか。

 僕も適当に魔法陣を展開し、お互いの魔法陣から火花が走った瞬間――。


「そこまで!」


 その声と共に僕とジュリアンの魔法陣は一瞬で砕け散った。

 術式破壊じゅつしきはかいか。

 

 咄嗟に判断して声の主の方を見ると、群衆の群れを掻き分けて男性のエルフがやってきた。

 紫色の髪を伸ばした長身にエルベリア帝国軍の黒い軍服を着用し、その上からローブを羽織っている。

 見た目は20代かそのあたり。エルフらしく非常に整った顔立ちをしていた。


「2人共、実にお見事でした。いやはや、今年は素晴らしい逸材が現れたものです」


 凛々しい顔を和やかな笑顔にした彼はそう言って拍手をした。

 第六位階の術式とは言え、2つ展開されていたそれを瞬時に破壊する腕前は只者ではない。

 それにこの口ぶりから察するに彼は――。


「失礼。自己紹介がまだでしたね。私はこのエルベリア帝国ミルディアナ領直属軍学校の学長を務めているリューディオ・ランベールと言います」


 あくまでも丁寧で優しげな表情をしているけど、一切の油断をしていないのは何となくわかる。

 このまま僕たち2人が同時に最大級の魔術を展開しても、余裕で止めてみせるくらいの力量はありそうだ。


「……学長が、試験の邪魔してんじゃねえよ……」


 ジュリアンが苦しげな口調で呻いた。ここまでされてまだ諦めていないとは。昨日のロカと同じかそれ以上の負けず嫌いらしい。


「これ以上の戦いは無意味だと判断しましたので。そしてなにより、他の受験生が委縮し切っています。ここらへんでそろそろ矛を収めてはくれませんか」

「うる、せえ。オレはまだ戦える。こいつをぶっ倒して」

「残念ながら無理でしょうね。ジュリアンと言いましたか。今の貴方では彼には勝てませんよ。テオドール、貴方の方はどう思います?」


 顎に手を添えて微笑みながら言うリューディオ学長は一見冷静に見える。でも、アレはまるで面白いおもちゃを見つけた子供のような表情だ。何となく僕と同類なんじゃないかと思った。


「学長が止めなかったら最後までやるつもりだったよ。彼が魔力切れで気絶するくらいまでは付き合うつもりだった」

「おやおや、これはこれは。万が一にも自分が負けるわけがないとわかりきっているようですねぇ。竜族を前にしてここまで堂に入った傲慢さを見せる人間を私は他に知りません。人間離れしていると言うほかない」


 ……まずい。やり過ぎたか? いや、どう考えてもやり過ぎたとかそういう話じゃない。

 僕は今までの相手の力量を測るために戦ってきた。それは身体こそ人間だけど、あくまで魔神としての考え方に他ならない。


 だって、そうだろう。このエルフが言うように竜族と相対して嬉々とするような人間なんていない。竜族は普通なら歴戦の軍人でさえ歯が立たない相手なのだから。

 学長の乱入は想定しておくべきだった。よくよく考えれば、このミルディアナは魔術師たちが多く集まる街であって受験生も魔術師の数が圧倒的に多い。学長ともあろう者が、試験の様子を見ていないわけがないんだ。


「というわけで、ここは1つ。テオドールの勝ちということで手を打ちませんか」

「冗談じゃねえ!! 誰が……ぐぁっ!?」


 起き上がろうとしたジュリアンの身体が地面に叩き落とされる。

 一時的に強い魔力を浴びせて平伏させたんだろう。しかも疲労しているとは言え、竜族を相手にか。


「彼我の実力差を知ることは軍人としてのみならず、竜族であっても必要不可欠なものです。これ以上戦闘行為を続けるつもりであれば、入学は許可出来ません」


 落ち着いた口調ながらも有無を言わせない態度だった。

 ジュリアンはもはや呻き声すら出せずに地面に伏せるのみ。圧倒的な力を前にすれば竜族でもこうなるしかないか。

 凄いな、このエルフは。もしかしたらテネブラエの魔神たちともやり合えるほどじゃないか?


「もちろん、先に試験場を破壊したことについては評価点と見なします。あの偉業だけでも貴方を特待生として迎え入れる準備がある。どうかそれで落ち着いてはくれませんか?」


 竜族の少年はよろよろと顔を上げて、虚ろな瞳でリューディオ学長を見つめる。まだ何か言い足りないようだったが、やっと理解したのだろう。自分ではまるで相手にならないということを。


「……くっ……わかったよ」

「よろしい。もちろんテオドール、貴方もこのジュリアンを圧倒して見せたのです。それだけでも特待生としては相応しい。しかも貴方は昨日行なわれた剣術と体術の試験も両方で首席を取っている。こんな学生は私が記憶する限りでは……そうですね、500年前に記録を打ち立てた伝説の勇者。レナという女性が最初で最後だった」


 ああ、レナって記録に残ってるんだね。凄いな。後で褒めてあげよう。


「貴方はもしかすれば彼の勇者に匹敵する力を宿すやもしれません。是非、当校に入学を。歓迎しますよ、テオドール」

「それじゃあ、先生のお言葉に甘えることにしようかな。でも3種類の試験で1位にならないと特待生枠に入れないって話、酷くないかな? 結構しんどかったよ」


 しんどかったは楽しかったの意である。


「はぁ……。そのような規定は当校どころか、他の学園にも存在しませんが……」


 え?


「いや、でも受付のエルフにそう言われたんだけど」

「ふむ? 後で調べてみましょう。それではテオドール。入学式など諸々のことは後日にお話ししますので、今日のところは帰ってもらって構いませんよ。ジュリアンの方は……おや、意識がありませんね」


 見ると、ジュリアンは地面に倒れたままぴくりともしていない。疲労が限界だったんだろう。


「これだけのことをしでかしておきながら眠りこけてしまうとは。いい御身分なことです。試験場の修繕費やらまだまだ後がつかえている受験生のことやらで頭が痛いですよ、まったく」


 そうは言うものの、リューディオ学長はどこか面白そうな笑顔を浮かべたままだった。


「ランベール中将! こちらに来てください! 先程の戦いのショックで気を失った者が何名も出ております!」

「はいはい、了解しましたよ」


 さて、これで試験は終了した。

 簡単ではあったけどなかなか面白いものが見られた。今後が楽しみだね。

 僕はそんなことを思いながら、これから忙しくなるであろう現場を後にした。

ブクマと評価、ありがとうございます。

感想まで頂けてとても嬉しかったです!

引き続き応援してくだされば幸いです。

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