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第10話「入学試験開始~魔術~――などやってる場合ではないようで?」

 今日の入学試験は昨日の2種目と違って別の場所で開催されることになった。

 いつもは軍人たちが鍛錬に使うためにある専用の施設を試験場として使い、その中で魔術の試験を行なうらしい。


「あ、テオくんだ。こっちこっち~」


 エルフがぶんぶんと手を振っている。かなりの人数の受験生がいる。昨日の比じゃない。そんな中でもリズの美しさはぐんを抜いていて一際目立っていた。

 彼女の手にはいつの間にか杖が握られている。魔術師がよく持つものだ。


「テオくんは手ぶら?」

「うん、そうだけど……もしかして何か必要だった?」


「ああ、これ? エルフは攻性術式こうせいじゅつしきが苦手だからさ。って言っても知らないかな」

「いや、確かにそういう話は聞いたことがあるね。回復系の術式は得意だけど、相手を攻撃する術式を扱うまでには人間以上に凄まじい努力が必要だとかなんとか」


 それはエルフの種族上の問題らしい。あまり詳しくは知らないけど、彼女らが崇めている神が慈愛の神だから攻撃には向かないのだとかなんとかいう話を聞いたことがある。


「そそ。試験はどうしても攻性術式がメインになっちゃうから、エルフはその力を補助できる道具を持っててもいいわけ」

「苦手だとは言え、優遇されてるんだね」

「うん。エルフの魔力は人間よりも凄いからね。回復術式なんて数十年鍛えた人間より魔術を使ったばっかりのエルフの方が得意なくらいだし。そんなエルフが攻性術式を使えたらそりゃーとんでもなく強いわけで。帝国の軍事力を強化するという名目で、こういうものの使用が許可されてるんだよー」


「確かに回復術式の試験って言っても難しいからね」

「怪我人がいないと始まらないしね~……。ま、そんな地味なものよりドッカンドッカンぶっ放せる攻性術式の試験の方が楽しそうだからいいけど!」


 エルフは争いを好まないんじゃなかったっけ。もしかしたら、僕のエルフ観はだいぶ古いものなのかもしれない。

 そんなことを思っていると、受付嬢が全員に聞こえるように言った。


「えー、受験人数が大変多いので試験は複数回に分けて行なわれます! 第1回目の試験はもう締め切りましたので、それ以降の試験を受験する方はお早めに受験届を提出してください!」

「おー、やばやば。テオくん、早く行こうよ。こんなんじゃ日が暮れちゃう」


 足早に受付嬢のところに向かう彼女に続く。と、そこでたまたま僕と受付嬢の目が合った。あの眼鏡は昨日の。

 向こうは僕の姿を見た途端、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込んでまた騒ぎになった。


「ありゃま、ちょっとそこどいてどいてー。もしもーし? ……あー、こりゃ完全に伸びてるねぇ」


 リズが受付嬢の様子を確認して軽い調子で言った。

 ……今のは僕は悪くないぞ。勝手に向こうが怯えただけだ。

 そんな言い訳をしつつ、速やかに交代された受付係の人間に受験届を貰った。

 昨日と同じ要領ですらすらと必要項目を書いて、提出しようとした正にその時。


 ――ゴバァッ!!

 凄まじい爆発音と共に硬い何かが粉々に砕け散る音が辺りに響いた。遠くにいたにもかかわらず、鼓膜がびりびりと震える感覚がする。


「うぐぁっ!? 耳がぁっ!! なになに!? 何なのぉ!?」


 まったくの想定外の事態にリズがその場に転がって耳を抑えている。エルフ特有の耳の良さが裏目に出たようだ。でも今はそれどころじゃない。

 爆発音がしたのは試験場だ。僕は周囲の人が戸惑っているのをよそに、人波をかき分けて現場に辿り着く。


 肌を焼くような熱さと、猛烈な煙が辺りに充満していた。誰かが魔術を使ったんだろう。それはわかるけど、一体誰が。

 煙が晴れると、そこにあったはずの『試験場そのもの』が吹き飛んでいた。僅かに残った瓦礫だけがその名残を残している。


「あーあ。ぶっ壊れてやんの。噂に名高いミルディアナ領直属軍学校の魔術試験もこの程度かよ。くだらねえ」


 破壊された建物の前にいたのは、1人の少年だった。

 烏のように黒い髪をぼさぼさにしていて、非常に珍しい銀色に輝く瞳が特徴的だった。ローブを纏ったその姿はまだ12歳かそこらくらいにしか見えない。


 その小さな身体から放出されている莫大な魔力の質と量は明らかに他を圧倒していた。

 一見少女のようにも見える顔立ちの少年は露骨な溜息を吐いて言った。


「おい、試験官。これでいいんだよな?」


 魔術の試験官を務めていた男性はぶるぶると震えている。


「あ、有り得ん……!! この試験場には第八位階だいはちいかいの魔術にも耐えうる魔術結界が施されているんだぞ!! それが、こんな……こんな」

「なら、試験のお題目には『第八位階を上回る魔術の使用は禁ずる』とでも書いとくんだな。あんたが全力で魔術をぶっ放しても問題ないって言うからこうなったんだぜ?」

「有り得ぬ……有り得ぬ」


「現実を受け入れろよ。そんなんでよくもまぁ今まで試験官なんざやってこれたよな」

「こ、このようなことは今までに一度もなかった……!!」

「へぇ。じゃ、今まで受験した奴らが全員雑魚ばっかだったのか。この様子じゃ、帝国軍の魔術師たちも大したことなさそうだなぁ。つまんねえ」


 遠巻きに見ていた受験生たちが、そのあまりにも凄まじい光景に仰天していた。ざわざわとした声が上がっている。


「なあ、試験官。これでオレは合格だろ? 特待生間違いなしだよな。やったぜ」


 肩を竦めて言う少年の仕草は実に優雅だ。第八位階以上の魔術と言えば、名のある魔術師が全力で解き放った後に魔力が枯渇して気を失ってもおかしくないものだというのに、この少年はそれを使った後でも何ともないらしい。


 確かに凄い。凄いんだけど。


「ねー、テオくん……何が起きたの……いったた……」

「ああ、彼が試験会場を丸ごと吹っ飛ばしたみたいだよ。それより耳は大丈夫?」

「何とかね。……ん? あの子がやったの? どう見てもまだ子供じゃん」


 その会話が聞こえていたのか、少年は銀色の瞳をこちらへ向けた。


「おい、そこのクソエルフ。見た目で舐めてると痛い目に遭うぜ? お前にも食らわせてやろうか?」

「なっ!? ちょっ、えっ、なにこの子!? 超口悪いんですけど!? ていうかキミ、入学規定満たしてんの? 最低でも15歳にならないと受験出来ないけど?」


「これだから見た目で判断する奴は嫌なんだ。オレは15」

「えー、うっそでしょ!?」

「てめえ、丸焼きにされたいのか?」


 少年の瞳がぎらりと輝く。結構本気だな、彼。

 その喧嘩っ早さは昨日の白い方、シャウラを思い起こさせる。


「まあまあ、2人とも落ち着こう。で……君があの魔術を使ったのかな? 凄いね」

「はっ、別に凄かねえよ。ただ帝国の程度が低いだけだろ」


「でも、困るなぁ。これだと僕たちの試験が出来ないんだけど」

「知らねえな。オレが入学できれば、お前ら全員分よりも活躍してやるよ。それなら文句ねえだろ」


 その言葉を聞いていた一部の受験生が文句を言うが、一睨みされると全員が委縮した。


「それは困るかな。僕も一応入学希望だからね……そうだ、試験官さん。ちょっといいかい?」


 僕は腰を抜かして倒れている試験官のおじさんに声をかけた。彼はだらだらと冷や汗を垂らしながら言葉もなく僕を見つめてくる。


「試験会場が壊れたら、試験はもう出来ないのかな?」

「そ、それは……前例が、ない」

「そっか。でも試験の項目にはこう書いてあったよね。『各々がその分野で最大限の実力を示せ』って」


 僕が何を言いたいのかわかっていないのだろう。試験官はこくこくと頷くだけだった。


「じゃあ、僕が『彼を倒せば』入学の価値ありとみなしてくれる?」


 試験官の顔が馬鹿丸出しになったのと同時に、少年から発せられる剥き出しの殺気が僕の肌を突き刺した。


「……てめえ。あの惨状を見て、それでもオレを倒せるって言いてえのか?」

「もちろん」


 即答すると、彼は若干怯んだ気配を見せる。少しは警戒したようだ。でも、すぐにその傲岸な口を開いた。


「おもしれえじゃねえか。やってみろよ。ほら、いつでもいいぜ。お前の使える最大級の魔術をオレにぶつけてみな」

「それじゃ君が死んじゃうから無理だね」


「なっ!? んだと、てめぇ……!!」

「ちょ、ちょいちょいテオくん! あんま刺激しない方がいいんじゃないの!?」


 僕はリズが止めるのをよそに話を続ける。 


「君、人間じゃないよね。上手く人間に化けてるけど……これは『竜』の感覚な気がするよ。どうだい?」

「竜!?」

「竜だと!? ゼナン竜王国りゅうおうこくから来たのか!?」


 後ろで観衆と化した受験生たちが口々に言った。やっぱり帝国であっても竜を見る機会なんてないだろうからね。しかも見た目は完全に人間の少年にしか見えないから。

 竜だと指摘された少年は少し驚いたように目を見開くが、その後に剣呑な口調で言った。


「だったら何だよ? 言っとくが、入学要項に竜族は禁止だなんて書かれてねえぞ」

「うん。そんなのはどうでもいいんだ。早く君の本当の姿を見せて欲しい。それなら」


 僕は自然と口角を上げた。


「僕の魔術を受けても、重傷くらいで済むだろうから」

「……おもしれえ」


 爆発的な魔力が少年を包み、眩い光を迸らせる。

 そして異常な威圧感が辺りに漂った。正真正銘、本物の竜が姿を現した証拠だ。竜はそこにいるだけで周囲の者を威圧する。僕が本来の姿でいるだけで周囲に影響を与えるのと同じように。


 そこにいたのは体長3メートルはあろうかというほどの白銀色に輝く竜だった。

 全身から淡い光を放つその姿は実に神々しい。極めて高い知性を持つとされる竜族に相応しい姿だ。


 ……竜を見るのは久しぶりだ。何年ぶりだろうね。懐かしい感覚だよ。ま、目の前の彼は少し小さいけど。

 さて、彼はどのくらい僕を楽しませてくれるのかな?

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