1-1 不安定②
更新速度が欲しい。
先輩は、「今日は帰らない」と言って、どこかに行ってしまった。僕は、またもやお留守番というわけだ。先輩は、茶封筒ごと外出してしまったし、目下、僕は暇だった。
それにしても、いくら先輩が傷つかなくとも、先輩に鋏を容赦なく鋏を突き立てるのは緊張する。いまでは、いくらか慣れたけど、慣れないときは、鋏も言うことを全然聞いてくれなかった。
僕の能力は、命のないものに、擬似的に命を与える、というものだから、基本的に、それらは僕の言うことに従うし、僕のやって欲しい事以外はやらない。他のお客さんには、「念動力」と、説明している。していることは変わらないし、余計なことを説明する必要も無い。(手品のタネを積極的に教えてあげることはないから)
いきなり、大きな音がして、僕はすぐにそれが扉の音だとわかった。買い足しておいた、鋏を何本か即座に呼び出し、静かに扉の方へと向かう。この会社の敵だと分かれば、すぐに潰せるように。でも、こんな不躾な扉の開け方、十中八九、敵だ。
「おい!いるんだろ!有沢!」
この声。僕は「あ、敵だな。」と思って、目を潰しにかかった。
「はっはー!敵意が丸出しだぁ!」
鋏をなげだした方向から鋭い、悪趣味な鋏がとんできた。僕はさっさと避ける。
「あんたか。暴力屋」
「つれないね。有沢」
…僕は、この男が嫌いだ。
暴力屋。本名、不明。年齢、不明。(僕と同じくらい?)出身、日本のどこか。でも、僕には、こいつが、この会社の汚点ということさえわかれば十分だ。異能は、さっきのとおり、自分に向けられた殺意の分だけ相手を傷つけられることができるとかいう、生ゴミみたいな能力だ。
「まったく、先輩にお茶の一つも出ないのか」
「あんたを先輩と認めた覚えはない。何の用だ。」
未だに、信じられないのは、こいつが僕の先輩でもある、ということだ。無断欠勤が毎日の、仕事を舐め腐っている奴が。
「まぁ、俺も、お前も、まどろっこしいことは嫌いだったな。じゃ、いうぜ。今回の依頼、俺も参加させてもらう。」
「何で知ってる…」
「地獄耳でね。」
ははっと暴力屋は笑い、僕は全く笑うきになどなれない。情報漏れというのは、ほかの客らへの不信に繋がる。
「情報漏れとかじゃあないから、もっと別の理由だよ。」
「当たり前だ」
僕は強がって、暴力屋はなお笑う。
雑談なんかしたくないし、僕は「用がないなら帰れ」と吐き捨てた。暴力屋は、素直に帰っていった。