1-1 不安定①
ダラダラ続きます。
スーツを着た男は、佐藤と名乗って、有名な玩具会社の名刺を先輩に渡した。僕達は、何気ない動作一つで戦争が起きるんじゃないかってくらい、緊張が張り巡らされた中にいる。
「じゃ、どうぞ、お掛けになってください。」
と、先輩は佐藤という男に勧め、僕もそれにならった。
「とりあえず、今回は、こんなところまで、お越しいただきありがとうございます。」
佐藤は、「はぁ、丁寧にどうも。」と笑顔を崩さず、話を進めようとする。先輩は、それを見て、「では、」と、マニュアル通りの説明をはじめた。
「当社は、基本的に、能力に秀でている者を集めて、仕事をすることを目的としています。私達は社会に適合していかったので。」
ここまでは大丈夫ですか、と先輩が質問すると、佐藤はじゃあ、と胡散臭そうに尋ねた。
「貴方達は、えっと、何かしらに障害がある、ってことですか?ならどうやって、治安維持なんて物騒なことできるんです?」
当然の疑問、とでも言うべきか。僕は始終黙って、先輩たちのやりとりをきいていることにした。
「ハンディキャップがある方たちには、それなりの施設がありますし、仕事だってあるでしょう。しかし、先天的な"病気"という意味では正しいかもしれませんね。私達は、ー簡単に、本当に噛み砕いていうとー異能者、なんですよ。」
「…異能者…?」
?のマークをあからさまに浮かべる佐藤に、先輩は笑ってみせる。
「そうです。漫画とかである、バトルしたり、学園日常みたいな、そんな感じの」
「と、すると、山崎さんも…?」
「使えますよ。勿論。見せてみましょうか。」
先輩は僕に目配せした。僕は適当なところにある刃物を探して、業務用鋏をみつけた。「こっちにおいで。」とよびかける。僕は、鋏の気持ちが手に取るようにわかる。佐藤はドン引きしてるっぽいけど構うもんか。鋏は僕の呼びかけに応えて、ふわふわとこっちにとんできた。
「じゃ、倒れないようにお気をつけて。」
僕は先輩に目配せして、鋏に、先輩の胸をブッ刺すように命じた。
数秒の間もなく鋏は僕の指示に従った。
動脈を刺したときの独特の鮮血が先輩の胸からこぼれ落ち……
る訳もなかった。鋏は、先輩の胸をすり抜け、ソファを傷つける前に空中で止まっていた。
「まぁ、こんな感じで。」
と、先輩は笑ってみせる。先輩は煙となった自分の体をかき集めるそぶりをみせた。
「簡単にいうと、私は自分の体を煙にすることが出来るんです。それで、アロマとかを使って、犯罪やその場のストレスを分散させたりして、治安維持のサービスを提供させて頂いてます。」
「なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。」
先輩は、「こちらこそ」と受け流す。
「私達からの説明は以上ですが、何か他に…」
そのあと、二、三個質問して、「依頼の内容です。」と茶封筒をわたして、佐藤は帰っていった。僕は何ともいたたまれない気持ちで、さっきの鋏をばらしてた。あのときの、鋏の感情。いままで、色々な刃物に命を吹き込んできたけど、あれほど、猟奇的な感情を初めから持った鋏もまれだ。
おかげで、佐藤とかいう男を殺しかけた。