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喪女が人生やり直したら?  作者: 斉藤ナオ
8/13

8話


   24


 頭が痛い•••。気持ち悪い•••。


 まだ朝の五時前。スマホの着信ランプが光っていたが無視する。冷蔵庫のミネラルウォーターを直接、口に運ぶ。よこから水がこぼれ、昨日のままの服を濡らした。ペットボトルをテーブルに置くと、服をその場に脱ぎ捨てる。再び、ベッドに倒れ込むと、昨日のことがフラッシュバックする。


 やっちゃった•••。


 後悔が押し寄せてきて、息が苦しくなる。もう嫌だ、という思いが頭の中を駆けめぐる。学校で嫌なことがあった時、会社で怒られた時、いつもおちいっていた感情•••。ふと、バカな考えが頭をよぎる。


 また、時間を巻き戻して、やり直せたりして•••。


 あり得るとは思えなかった。あっても、どうしたらいいのか、わからなかった。今までみたいにまわりで起こった事のやり直しじゃなくて、今回は私の心の中の問題だから•••。


 一生こんな感じで生きていくんだろうな•••。


 でも•••。


 でも、仮に時間をさかのぼったら、今度はどうする?


 全然、考えが浮かばなかった。頭の中のノートに整理してみる。しかし、やっぱり何も出てこない。数ヶ月前に経験した、あの不思議な現象を思い出す。

 望月くんに告白されて逃げ出した過去を後悔して、ちゃんとできたかわからなかったけど、精一杯答えた。


 結局、今回また同じことしちゃったけどね•••。


 自分で考えておきながら、胸を締めつけられる。

 中1の私が犯人にされてハブられた過去自体、花崎を捕まえることでなくなった。

 確かに犯人にされた記憶は未だ私の中にある。でも、今回のやり直しで気づいたこともあった。心配してくれていた家族、ひいおばあちゃんの笑顔。


 あんなトラウマなんかより、大事なものがあるって、わかったんじゃなかったの?


 だから、あんなことできたんだし、宮野さんとも話ができた。

 そして、あのトラウマを『理由』に色々なことから逃げてきたツケを返すために•••。


 腕を宙に伸ばす。ここ数ヶ月で自分でも驚くくらいせた。食べてゴロゴロしていた方が楽なのに、頑張ってダイエットした。有馬さんやお兄ちゃんから色々聞いて、仕事も頑張ってきた。


 なんで•••なんで、あんなこと、しちゃったんだろ•••。


 ボロボロと涙が出てくる。昨日だって最初こそ驚いたけれど、みんな、私のために来てくれたのに。


 ごめんなさい•••。

 ごめんなさい、ごめんなさい•••。


 頭の中で、ただひたすら謝るだけだった。


 ••••••。


 カーテン越しに光が差し込んできていた。


 どれくらいたったんだろう•••。会社に連絡しなくちゃ•••。


 スマホを確認してみる。七時を過ぎたところだった。メールで有休の承認依頼をする。着信ランプを確認すると、キミから着信とラインが、アホほどきていた。

 まずはキミに謝ろう。ただあの子には自分の家庭があるから、朝の今頃は忙しいだろう。子どもたちとダンナを送り出して、自分もパートに出る手前くらいなら、迷惑も少ないかな•••。散々、心配かけておいて今さらだけど。

 やることを決めると動けるタイプの私は、シャワーを浴びて頭を切りかえることにした。


 八時半。キミに電話をした。


 「もしもし、お姉ちゃん? 大丈夫?」

 「ごめんなさい。心配かけて」

 「無事なのね•••。もう! 心配したんだからね!」

 「ごめんなさい」

 「••••••。みんなには?って、お姉ちゃん、連絡先知らないか」

 「うん、それでキミにお願いがあるの。みんなに謝りたくて。それで連絡先、教えてくれないかな?」

 「いいけど。あ、飯田さんだけ先に会っちゃうよ?」

 「うん、申し訳ありませんでした、って伝えてもらえる? あと連絡先を私に知らせたことも伝えておいて」

 「うん、わかった。お姉ちゃん、会社は?」

 「ははは、休んじゃった」

 「そっか•••。ま、ゆっくり休んで。後でみんなの連絡先、送るから」

 「うん、じゃあ」


 通話を切る。あんなことがあった後なのに普通に話せる。そのことがすごく嬉しかった。


 家族か•••。今回も迷惑かけちゃったな•••。本当、私、どれくらい家族を心のささえにしているんだろう。


 ほどなく、キミからメールが届いた。名前と電話番号のみで、キミが忙しいなか、ダッシュでメールしてくれている姿が目に浮かぶ。妹に感謝しつつ、送られてきたメールを確認する。


 ユーキ 080-XXXX-XXXX


 いきなり男の人、それも未だに信じがたいが、こんな私に告白してくれた人たちに、連絡するのは•••。少し、ではなく、かなり気合いが必要だった。

 そこで、宮野さんから、まずは謝ることにした。いきなり電話するのも申し訳なかったので、携帯番号でメッセージを送る。まずは謝って、できたら直接、頭を下げたいことも伝える。そしたら先ほど登録したばかりの番号から電話がかかってくる。慌てて通話を押すと


 「心配したんだからね!」


 いきなり怒られました。ただ、今までと違って嫌な気持ちにはならなかった。ただ、本当に謝りたかった。


 「ごめんなさい。心配かけて」

 「ふぅ•••。よし、無事ならとりあえずOK」

 「あ、あの、それで忙しいのはわかっているんだけど、できたら直接謝らせて欲しくて」

 「へー•••。ん~、秋野さん、今日、会社は?」

 「•••休みをいただきました」

 「あーっ! さっきから敬語ウザい! やめないなら切るよ」

 「すみ•••、ごめんなさ•••。ゴメン」

 「よし。じゃあ、私、忙しいから、秋野さんが来て」

 「え?」

 「そうねぇ、今九時か。じゃあ、十二時に汐留の日テレ大時計前で。遅刻厳禁だよ!」


 もう切れていた。宮野さん、なんかスゴい•••。でも、謝るチャンスをもらえただけでも、ありがたかった。



   25


 急いで用意して、汐留に向かう。行きの電車の中、キミに報告した。返信は


 『ぶっ飛ばされてこい!』


 はい、ぶっ飛ばされてきます。三十分前に着けたので、軽くおなかに入れておくことにする。なにしろ昨日の今日ということと、大慌てで出てきたせいもあって、貧血気味だったので。それでも十分前に大時計前にはたどり着けた。


 うわっ!


 その十分後、頭の上でメロディーが鳴り始める。見上げると巨大な仕掛け時計が様々なカラクリで動きながら、音楽をかなでていた。ぼーっと見上げていると


 「秋野芹香さんですか?」


 知らない女性に声をかけられる。私がテンパっていると、少し笑いながら


 「宮野があちらで待っております」


 そう言って、女性が向かう先にはスモークバリバリのワゴン車が止まっていた。横のスライドドアが開くと、宮野さんが手招きをしている。自然と小走りになり、車に乗り込むと


 「さあ、秋野芹香! 謝れ!」

 「ご、ごめんなさい!」


 宮野さんの迫力に押され、子どものように頭を下げた。と同時に車が走り出したので


 「「うわっ」」


 宮野さんが私におおかぶさってきた。目を開くと、宮野さんの顔が目の前で、危うく女同士でいたすところだった。


 「うわわ•••」


 今度は私だけ悲鳴をあげ、ドアまで後ずさった。そんな私を見て宮野さんは、あっはっは、と明るく笑う。


 「いや~、秋野さんのファーストキス、奪っちゃうとこだった。それとも女優で練習しとく? ヘタな男より経験値あがるよ」

 「い、いえ。結構!」

 「冗談よ、冗談! それじゃ、お昼食べようか?」

 「え? あの、私、宮野さんに謝りたかっただけで」

 「もう謝ってくれたじゃない。あ、そうか。まだ私が許してないのか。うん、許す! それじゃあ、行こう」


 いつの間にかパーキングに駐車した車から降りようとする宮野さんを捕まえて


 「いや、だから、ちょっと待って」

 「あーっ! うるさい! 一緒にご飯食べなきゃ、やっぱ許さない!」


 十分後、景色のいい高層レストランで、芸能人とランチをしていた•••。


 「勝手に予約しちゃった。苦手なのは無理しなくていいから」

 「あの、宮野さん?」

 「なに?」

 「私、宮野さんに謝りに来たんだけど」

 「聞いたよ。それに、もういいよって」

 「それだったら、もう•••」

 「•••秋野さん。いや、セリ」


 宮野さんに何故かいきなりセリ呼ばわりされる。キミあたりに聞いたのか?


 「私といるのイヤなの?」


 そう言われると考えてしまう。イヤなわけではないんだけど、なんだろ•••。


 「わかんない。イヤじゃないけど•••、宮野さんと話をするのも楽しいし。あえて言うなら•••」

 「言うなら?」

 「苦手?」

 「そんな~」


 明らかにヘコむ宮野さん。申し訳なく思い、時間のさかのぼりについては話さないように気をつけながら


 「私、宮野さんのこと、ずっと苦手だったんだけど、少し前に誤解だったのを知って。それに、また会うなんて思ってなかったから、まだ頭の中が整理できていなくって」

 「•••昔もあったような気がするんだけど、セリ、ワケわかんないこと言うよね」

 「私もそう思う」

 「なによ、それ。でも、じゃあ嫌いじゃなくて、むしろ私とお話したいと!」

 「そうなるの?」

 「そうなるの!」


 ちょうど前菜が並び始める。いただきます、と思わずしてしまい、まわりをキョロキョロしていると、宮野さんが声を出さないように肩を震わせていた。


 慣れてないんだよ!


 「ね」

 「なに?」

 「お箸、もらいましょうか、おばあちゃん?」

 「大丈夫DEATH!」

 「何だろう、殺意を感じたんだけど」

 「気のせいでしょ。これ、美味しい!」

 「良かったぁ」


 宮野さんが今日、初めて本当に笑った感じがした。ずっと気をつかっていたんだろうな。やっぱり宮野さんはあの花崎さえ許しちゃうお人好しで、まわりにすごく気をつかう、いい人のままだ。


 「宮野さん、あの•••」

 「なに?」

 「いまさらだと思うかもしれないけど、私と•••友だちになってくれませんか?」


 ガッツポーズをとる宮野さん。


 「やった! ついに言わせてやったぞ!」


 感慨かんがいにふける宮野さんに声をかける。


 「それで、どうかな?」

 「あ、ごめんごめん。仕方ないな! そんなに私のこと好きなら、いいよ!」

 「いや、そんなに好きじゃないよ。ただ、話というか、考え方が面白くて、興味があるかな」

 「やっぱり一筋縄じゃいかない人だよ、やれやれ•••」


 そんな宮野さんを見て、思わず笑ってしまった。



   26


 「とりあえず二人に謝りたいんだけど•••。でも、その•••まだ二人のこと、好きとかそういう感じじゃなくて•••」

 「なるほど、ね」


 目の前に座る宮野さんを見て、本当にデザート食べるだけでも絵になるなぁ、なんて思いながら、私も一口。もちろんマズいわけないんだけど、複雑すぎて。ただ美味おいしい、としか言えなかった。


 なんか、今の私の気持ちみたい。


 男の人から、それも二人同時に告白されて、確かに嬉しくもあるけど、じゃあ、どうすりゃいいんだ? 目の前の宮野さんは明らかに私から話し始めるのを待っている。たぶん、このまま黙っていたら、今日はそのまま別れてしまうだろう。宮野さんとは、いつ会えるかわからない。だから!


 「宮野さん」

 「なに?」


 グイグイ前にくるわけでもなく、かと言って全く興味がない、ということでもない。花崎の時より、なんかレベルが上がっているなぁ、などと思いつつ、気を取り直して


 「あの•••、二人にも謝りたいんだけど•••」


 宮野さんはクスッと笑うと


 「さっき聞いたよ? じゃあ、セリは二人のうち、どちらかに決めてからじゃないと会って謝れないの?」

 「そうじゃないんだけど•••。でも、そこをあやふやにしたままじゃ•••」


 今度はあからさまに肩を落とす宮野さん。


 「あのさ、選ぶも何も二人のこと、まだ何も知らないんじゃないの?」


 二人どころか家族以外の男の人のことなんか、全くわからないッス。

 縮こまっている私をはかるように見てから、


 「セリ、二人のこと嫌い?」


 首を振って否定する。


 「じゃあ、まずは謝ってから友達になって、それからじゃないのかな。もしかしたら向こうから、やっぱり付き合いませ~んって言われるかもしれないし」


 軽く笑いながら話す宮野さんに対して、完全にテンパっていた私の口から出たのは


 「でも私なんかと話しても二人の時間が無駄になるだけだと思うし•••、それに、たぶん、断られると思うし•••」

 「あ~、やっぱりセリ、そうだったんだ!」


 突然、テンションの変わった宮野さんを見ると、ジト目三白眼で私をにらみながら


 「覚えてる? 私が昔、色々と悩んでいて他人を信じられない、みたいなこと言った時、セリ、私は違うって言ってたんだよ」

 「そうだっけ?」

 「そうだよ。なのに今になって何を言い出すかと思えば•••」


 ため息をつく宮野さんを私は見ているだけだった。


 「じゃあさ、セリは二人にこのまま会わないの?」


 以前の私だったら、そうだったかもしれない。でも今は自分が間違ったことをしたこと、それに現在進行形で『今』この間と同じことをしていることもわかった。

 だから!


 「ごめんなさい。こういうこと考えるのが私のダメなところで•••。この間みんなに申し訳ないことをしたばかりなのに•••」

 「なんだ。わかってるんだ。じゃあ、あとは今みたいなこと思ったり、言いそうになったら•••」


 自分のバッグをガサゴソとしだす宮野さん。


 「これでいっか。左手だして」


 全く訳もわからず言われたまま左手と差し出すと


 パチン!


 「痛っ!」


 左手首を見るとかわいい色のゴムがあった。前を見ると宮野さんも同じようにつける。そして少しだけまむと、先ほど私にやったように自分で


 パチン!


 「な、どうしたの、宮野さん?」


 私の心配をよそに、得意げな顔の宮野さん。萌えるなぁ、この人•••。


 「私が教わったこと、教えてあげる」


 宮野さんが教えてくれたのは、


 左手首に輪ゴムをはめて、ネガティブな感情が出たら、その輪ゴムを引っ張って「パチン」とやる。それによって、ネガティブな感情を断ち切る。


 ふ~ん•••。


 「あ、信じてないな! まぁ、こんな安上がりな方法で? って思うかもしれないけど、とりあえずやってみてよ」

 「わかった。やってみる。ありがとう」


 私がそう言うと顔を赤くする宮野さん。なんなんだ、美人でかわいいって!

 あ、そうだ。


 パチン!


 「ん? なんで今やったの?」

 「なるほど。いやいや、確かにいいかもしれない」

 「いや、だから何考えたの?」

 「コレのおかげで断ち切れたみたいで、忘れちゃった」


 むー、とうなる宮野さんを無視する。

 一つ息をはくと宮野さんはニヤッと笑い


 「じゃあ、もう一つプレゼントというか•••」


 そう言いながらスマホを操作する。


 「よしと。二人にラインしておいたから。あとの細かいことは本人同士でやってね」

 「え? な、どういうこと?」


 宮野さんは私の目の前にスマホを差し出す。その画面には


 『セリが二人に話があるらしいよ。今日、連絡させるね』


 「み、宮野さん?」

 「これで二人に連絡しなきゃ、いけなくなったね」


 あ、悪魔だ•••。


 「•••なんか悪口考えているでしょう? ほら、パチン! パチン!」


 左手首の輪ゴムをつまみながら、私はジト目で宮野さんを見ると、何事もなかったかのように口もとを上品なしぐさでふいている。


 パチン!


 強めにやる私だった。



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