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喪女が人生やり直したら?  作者: 斉藤ナオ
5/13

5話


   14


 「いや、言ったけどさ」


 まわりを見渡すと、だいぶ部屋が充実していた。パソコン、本棚、その他、諸々《もろもろ》。

 もう3回目ともなると、慣れるわな。まあ、小学校時代のときも、一段落した翌日には飛ばされたし。今回は出来すぎなくらいだったと思う。ただ、あの後の花崎のことを考えると針のむしろだろうな。まぁ、自業自得だけど。

 昨日、家に着くと疲れきった心と身体にむち打って、日記を書いてきた。かなりの長文になっちゃたよ。ただ、あれだけじゃあ、単なる記憶喪失中の妄想だと思う内容だろう。

 ま、信じるか、信じないか、あの時代の私次第だけど。ただ、あの宮野さんのことだ。異変に気づいたら、私との約束を守ってくれるだろう。

 さて。

 下に降りて、新聞の日付を見る。

 ほほぅ、今回は短大時代ですか。今までと違うのは、入学式や始業式ではなく、7月中旬というところだった。


 高校時代をぶっ飛ばしたか。


 ま、確かに高校時代から29歳の今までは、生きていければいいやモードだったんで、世の中を超低空飛行、最下層住人として生きてきたからなぁ。なんというか、起伏がない。


 じゃあ、なんで今回はこの時代?


 悩んでいてもらちがあかないので、短大に行くことにする。十年前とはいえ、さすがにこの時代のことは覚えている。

 朝食を適当に食べて、自分の部屋に戻ると、改めて見直す。確か•••。ガラケーの電源を入れて、四苦八苦しながら、なんとか目的の画面を表示する。金曜の時間割は•••。

 私の嫌いな講義だった。ただ、欠席するわけにもいかなかったので、準備を整える。

 着替えている途中で違和感を感じた。この年の私はなかなか立派な体型になってきていた。短期間で小学生、中学生と経験した後だとわかるが、あの時代に比べて身体がめちゃくちゃ重たい。家の階段をのぼること自体はもちろん大丈夫だが、中学生のときの身軽さは全くなくなっているのを実感できた。

 毎日、少しずつの変化だと本当に気づかない、いや気づけない。


 鏡を見直す。29歳の今って、もうちょい•••、いや一回りデカくなっているよな•••。


 これを知るために、この時代にきたと言ってもいいくらいのショックだった。頭を振って、気を取り直し、短大へと出かけた。


 小学校や中学校と違って、短大はすごくなつかしい感じがした。小学校や特に中学校は記憶から抹消されていたから感じなかったが、実に十年ぶりの短大は、こんな私でも若いときがあったんだなぁ、としみじみ感じさせてくれた。

 まず、事務局に行って、校内見取り図をもらった。ものすごい怪しい目で見られたけど、印籠いんろうのように学生証を見せる。ちなみに学生証は財布の中にあるのは、家を出る前に確認済み。

 見取り図をたよりに講堂に行くと、入口でもらった出席表に学籍番号と名前を書く。最初は懐かしさから講義を聴こうとしたが、すぐ睡魔におそわれた。まわりがザワザワしている音で目が覚めると、出席表を出しそびれそうになっているのに気づく。

 ギリギリ間に合ったところで


 「秋野!」


 振り返ると、高橋が声をかけてきた。社会人になってからもずっと会っていて、一緒に遊びに行ったりしてた仲だったけど、それがつい最近結婚しやがって•••。


 お前も若いな!


 私のそばまで来ると、高橋は


 「なに? どこに座ってたの? 今日、休みかと思った」


 そういえば、高橋とは座る場所を決めていたことを思い出した。


 「いや、遅刻しちゃって、後ろに座ってた」

 「この講義でそんな気を使う必要ないでしょう」


 と歩きながら話していると、いつの間にか話題が食堂で安く済ますか、駅前でランチにするか、という相談になっていた。

 仕事漬けだった毎日と、今、目の前に広がる世界とでは、全く違うものだった。今までのタイムリープの時には感じなかった感情が胸の中から湧き出てくる。


 「どうした?」


 急に黙った私に高橋が心配そうに声をかける。


 「いや、なんか•••。そう言えば高橋、なんでウチの短大に入ったんだっけ?」

 「何だよ、いきなりだな。そんなの遊びたいからに、決まってんじゃん」


 だよねぇ。私もそうだったから。でも、卒業後の生活を知っていると、なんか•••。


 「なんだよ、本当に大丈夫か?」

 「よし! 太郎ラーメン行こう!」

 「な、マジか? やだよ~」

 「ニンニク、入れてやる!」


 結局、彼氏と会うのにニンニクくさいのはイヤだ、という高橋のお願いで、駅前でランチにした。でも、高橋。お前、その彼氏、確か浮気してたと思うぞ。

 未来を変えるわけにはいかない私は、ウキウキの高橋を生暖なまあたたかい目で見送ると、何もやることがなくなった。

 気まぐれというよりは、気の迷いだな。何を思ったか、今、働いている•••、将来働くことになる会社に向かう電車に乗っている。行ったって当然、中にはいれるはずもなく、外から見るだけだろう。


 本当。何してんだろ•••。



   15


 久しぶりに来た会社は、懐かしいわけでもなく、別にイヤということもなかった。しばらく立っていたが何も起こるはずもない。

 せっかくここまで来て、全く何もしないというのも、何かむなしかったので、よく利用しているパン屋のイートインに入る。窓際に座ると会社がよく見えた。食事は済ませたばかりだったので、菓子パンと紅茶だけ頼んだ。

 十五分ほどったところで、トレイのものも無くなった。帰ろうと立ち上がりかけた時、店内に会社の先輩たちが入ってきた。

 有馬千夏ありまちなつ先輩と村田理沙むらたりさ先輩。確か二人は同期で、私より3つ上。私が入社したとき、有馬さんに色々教えてもらった。立ち上がったが、そのまま水を一杯持って席につきなおす。

 村田さんは私が入って確か2年後に結婚退職した。有馬先輩もその翌年に結婚して、つい最近、妊娠されて産休を申請していた。

 雲の上の存在だった先輩が、今の29歳の私より年下というのは、なんか不思議な感覚だった。


 「疲れたよーっ、早く新しい人、入れて欲しいよ!」

 「でも、使い物になるまでは、かえって大変になるよ?」


 有馬さんはリラックスしまくりで、村田さんはそんな有馬さんにリアクションする。総務全般をこなす有馬さん、守秘義務ガッチリの人事の村田さん。


 昔から変わらないなぁ。


 「だいたいチーちゃんが頼まれてもいない仕事、引き受けちゃうからいけないんじゃん」

 「だってオジさんたち、私が十分で終わる仕事、一時間もかけているんだもん」


 ひえ~、有馬さん、昔からバリバリだったんスネ~。


 「私は営業はできないけどPCや資料作りはできる。オジさんたちはPCできないけど営業はできる。お互い、得意分野で頑張って、会社に利益を出させりゃいいんでしょ!」

 「じゃあ、文句言わない」

 「だって疲れているのは本当だも~ん」


 も~ん、って。こんなキャラだったんスか、有馬さん! 激しく萌えるんですけど。


 「チーちゃん。もし新しい人が入っても、あなたと同じようにはできないからね」

 「わかってるって」

 「いいえ、たぶん、わかってないよ。だってチーちゃん、変態じゃん」


 え? 有馬さん、変態なんすか!


 「村ッチ、それ褒め言葉じゃないからな」

 「私としては最高の褒め言葉なんだけどな」


 この場合、めちゃくちゃ仕事ができる人。そういう意味で村田さんは使っているみたいだった。あ~ビビった•••。


 ここで入社した時のことを思い出した。有馬さん、すごく丁寧に色々教えてくれたな。で、その色々をことごとく忘れていく私に、最後はブチギレてたっけ。

 なんか落ち込んできた。でも•••


 「私のこと、なんでもできるスーパーOLだと思っているだろ!」


 同じようなことを考えていたので、ドキッとした。


 「違うの?」


 すました顔で優雅に紅茶を口に運ぶ村田さん。


 「あのねぇ、私が影でスッゴく努力しているの、知っているでしょう!」

 「単なる大の負けず嫌いなだけでしょ」


 む、村田さん、私にはめっちゃ優しいのに、本当は有馬さんよりコワい人なんだな。


 「村ッチ、まだ入社した時のこと、引きずってるだろ」

 「引きずるというか、チーちゃんが変わらない限り、教えてあげないとね、トモダチとして」

 「わかってるよ。もう、さすがに女王様じゃないでしょ?」

 「どうだか」

 「私が女王様なら、その高い鼻をバッキバキにへし折るあなたは何ですか?」

 「結婚退職を狙う腰掛けOLですけど」

 「なに、村ッチ、あの人と結婚すんの?」

 「さぁて、そろそろ戻らないと」

 「あ、ずりぃ、自分の話になるとすぐ逃げる!」


 私はいそいそと会社に戻っていく二人をガラス越しに見ていた。店員が後ろを通る気配で、しばらくぼーっとしてたことに気づく。

 私も店を出て、何の気なしに会社帰りによく寄っている本屋に入ると、目的もなく店内を歩いてまわった。本を選んでいるようで、さっきの二人のことで頭がいっぱいだった。

 ふと、ビジネス書籍コーナーの前で足を止める。こうしてみると、ジャンルだけでも驚くくらいある。この手の本など読んだことない私は、何がなにやら全くわからなかった。


 9年間も社会人しているのに、自分が何の仕事をしているのかも、わからないなんて•••。



   16


 家に帰ったのは夕方だった。


 「おかえりー」


 お母さんが大鍋をかき混ぜている。匂いでカレーじゃないから、シチューかハヤシか? お! ハヤシだ! いつもお兄ちゃんの好きなカレーか、キミの好きなシチューなので、超嬉しい。


 「手洗い、うがい!」

 「は~い」


 洗面所で手洗い、うがいをする。鏡にはハヤシライスに心躍らすポッチャリがいた。


 「••••••」


 洗面所にかけられた時計を見る。先輩たちは残業か、金曜で飲みに行ったか。それに対し、今の私は帰ってくれば、お母さんが夕飯を用意してくれている。


 なんだろう、この気持ち•••。


 胸のモヤモヤを無視して、部屋に戻りスウェットに着替えて、ニコ動をチェックしていると下からお母さんの、ごはーん!の声が聞こえた。二階の三部屋からバラバラと出てくる。二人とも帰ってたんだ。


 「セリ、お前の笑い方、キモい」


 どうやら声に出ていたらしい。お兄ちゃんの文句は無視して、キッチンに降りる。私がスプーンやら小皿を並べて、キミはお皿にご飯をよそると、お母さんが流れ作業的にハヤシをかける。お兄ちゃんは座ってテレビなんか見やがっている。ずりぃよな。

 お父さんを待たずに、いただきます、をする。やはりハヤシはうまい! 私がトマトの酸味とコクにやられていると、キミが少し興奮気味に私に話しかけてきた。


 「お姉ちゃん、あの宮野優希と友達なの?」


 ブホッ。


 「ったねーな! 何やってんだよ」


 うるせー! ビビったんだよ! ハゲ!

 ちなみにお父さんはすでにだいぶ後退しているが、私は知っている。兄の未来の頭皮を。ぷっ。


 「と、友達じゃないよ。一年の時、同じクラスだっただけで」

 「今日、バイト先に来てさ、先輩から私と同中おなちゅうだって聞いて、もしやと思って秋野芹香って知ってますか? って聞いたら、すげー笑って友達だよ、って言うからびっくりしてさ!」


 再びむせる。家族には聞こえない声で


 「あのやろー、なに勝手に友達宣言してんだ」


 キミが続ける。


 「ねぇねぇ、もし遊ぶことあったら、私も連れてってよ~」

 「いやいや、連れて行かないし、友達じゃないから」

 「え~、だって向こうが友達だって言ってたよ」


 そこにお兄ちゃんが入ってきた。


 「ファンを増やすためだろ」


 「宮野さんはそんなことしないよ」


 あ、思わず声に出ちゃった。


 「ほら~、やっぱり友達なんじゃん」

 「違う! 以上、この話は終わり! おかわり!」


 自分で宣言して、自分でよそりにいく。


 「な~んだ、せっかく芸能人と知り合いになれると思ったのに」


 一杯目と変わらぬ量をテーブルに置いて


 「今度会ったら大好きです。友達になって下さいっていってみな」

 「そんなことで友達になれるわけないじゃん」

 「ま、やるか、やらないかは、キミ次第だけどね」


 さすがに、もうそんなにチョロくはないか。

 お兄ちゃんとキミは、おかわりをしなかったので、キッチンには私とお母さんの二人になった。テレビを見ながら、満腹になって思考力ゼロの私に、お母さんが話しかけてくる。


 「どう、短大は?」

 「ん? •••普通」

 「いやね、お父さんは何も言わないし、あんたも合格したから、いいんだけどさ」

 「••••••」

 「お兄ちゃんも、なんやかんやで今、就職活動頑張っているみたいだし、キミはなんか今のバイト先に就職する、なんて言ってんのよね」


 「ふ~ん」


適当な相づちを打つ。


 「なんか、あの子たちは自分たちでなんとかやっていく感じがするんだけどさ•••」


 珍しくズバズバ言ってこないお母さんに視線だけ向ける。


 「なんかセリは、今をどうにかこうにかするのに精一杯、みたいな?」

 「なに? どうしたの、お母さん?」


 少しだけ考えてからお母さんは


 「あなた、昔、少しの間だけセリの中にいた人?」


 今回はしばらく息ができないくらいむせた。

 気のせいか、心臓まで痛い気がする。


 「は、はぁ? 何を言っているのか、よくわからないんだけど」

 「いや、私も自分で何を言ってんだかわからないんだけど、なんか前にもこんな違和感があった気がしてね」


 どうする? え? バラしていいの? 秘密を言ったら死んじゃう系?


 「なんてね。そんなわけないか! あはははは」


 ビ、ビビッた•••。今のはマジ、ビビッた。母親、恐るべしだな。


 「たださ、なーんも考えなしに、ただ学校行っているだけだと、2年なんてあっという間だからね」

 「うん•••」


 私が今、本当に若かったら、聞き流しただろう。でも29歳の私にはそれが事実で、さらになーんも考えなしに、ただ会社に行っているだけだと、どうなるかもわかっていた•••。


 「さっきの話だけどさぁ•••」

 「え? なんか言った?」


 もうテレビに意識がいっちゃってる。自分でも、なにを言いたいのかわからなかったので、ごちそうさま、と言って、二階に上がった。



   17


 ノートの前に小一時間。恒例の日記を書こうと思ってみたのだが•••。


 目をつむって、今回の時間をさかのぼって再び経験してきたことを思い出してみる。


 小学校時代は望月くんからの告白に対して、恥ずかしながら29歳、真剣に答えました。望月くんに返事をして思ったのは•••。今までずっと他人から攻撃されないように、物理的に避けて、精神的に壁を作ることで精一杯だった。でも、望月くんは攻撃ではなく、好意をくれた。中学一年からずっと閉じていた心を、私は望月くんの気持ちに答えるのに、何十年ぶりかに開いた。開くことができた。

 中学校時代は長年のトラウマを、正面から見つめて、考えて、実行できた。結果も上出来じょうできすぎるくらいだった。


 この二つは未来を知っているというチート技のおかげだ•••。


 今までの私だったら、『だから』上手くいったのであって、知らなかったら過去と同じ結果だったに違いない、と考えていただろう。


 でも、答えは出せなかったけど、望月くんの気持ちに向き合ってから、自分以外の人たちのことも少しだけ見ることができるようになった気がした。

 私のせいで飯田くんが傷ついたのは、すごくショックだった。田舎のひいおばあちゃんを結婚式に呼んであげられなくて、トイレで泣いた。今まで大嫌いだった宮野さんも、私と同じ人間不信だったことがあって、それでも立ち直ったことを教えてくれた。


 なんだろう。二つの出来事をやり直して、今、感じているのは胸の奥の奥にある暗いモヤモヤだった。


 もしかして、あの中学校時代の二つの事件を私は安全なシェルターにしてたのかも•••。なにかつらいことがあったら、だって中学校時代にヒドいことがあって。だから、私はかわいそうでしょ、って•••。


 首を右に曲げ、骨を鳴らす。左側もやろうとした瞬間。


 「秋野、それ止めろ。みっともないし、まわりも嫌だし、第一健康に悪い」


 唐突に有馬さんの言葉を思い出した。

 有馬さんが紹介してくれた本は、何冊かは読んだけど、仕事でどう生かせばいいのかわからなかった。でも、首を鳴らすな、は理解できた。

 でも、今みたいに無意識にしていたかも•••。


 「秋野。まずは報連相だ。途中経過や終わったら報告しろ。連絡なしに勝手にやるな。わからなかったり、納期に間に合わないなら相談しろ」


 ははは•••。


 当時の私は、私なりに有馬さんに対して、言われたことをやろう、って思ってはいたんだけど•••。

 今回の中学校時代の時みたいに、真剣じゃなかった•••。だから? 有馬さんに聞くことも全然できなかった?

 そんな私に有馬さん、同じことを何回も言ってくれた。全然できない私に、色々なアプローチをしてくれた。


 「単なる大の負けず嫌いなだけでしょ」


 今日の村田さんの言葉を思い出す。有馬さんは私のために、色々勉強してくれたんだと思う。私が自分のことだけに使っていた時間に。


 本心をさらせない結果、人の話を真剣に聞けていなかった。過去にあった嫌な出来事を逃げ場所にして、ずっと耳をふさいでいた。そんな人間は、どこに行ったって、うまくやっていける訳がない、ということが今なら嫌でもわかる。


 再び白紙のノートに目を移す。


 今、私が思っていることを全て書いたとしても、信じるか信じないか、やるかやらないかは、この時代の私次第。


 でも、その前に•••。


 私自身、今、感じていること、考えていることを、もとの時代に戻った時、やれるの?


 ブルッと身震いする。

 わからなかった。やらないということじゃなくて。


 何をどうすればいいのか、未来は過去じゃないから、わからない•••。


 突然わけのわからない焦りにおそわれ、以前、有馬さんに言われたことを思い出して、インターネットで調べたりしてみる。しかし、どれもピンとこなかった。


 「セリ、開けるぞー」


 心臓が跳ね上がる。

 私が返事をする前に、お兄ちゃんは入ってきた。コノヤロ~。でもキミには、こういうこと絶対できないのを私は知っている。


 「なに?」

 「マンガ、貸して」

 「金、とるよ」

 「う~ん、これでいっか」


 適当な感じで何冊か、ガッツリ持っていく。ちくしょう•••。そうだ。


 「ねー、お兄ちゃん」

 「払わねーよ」

 「そーじゃなくて•••」

 「なんだよ、行くぞ」

 「ちょっと、待って。あ~、今まで失敗しているのがわかったんだけど、これから何すればいいかわからない場合、お兄ちゃんならどうする?」


 お兄ちゃんは何か言いたそうな顔をしたが、咳払いを一つすると


 「恋愛?」

 「いや」

 「う~ん、それなら先に失敗しているのがわかっているなら、先にそっちをどうにかしろよ。そうすりゃ、次やることなんて、頼んでもねーのに出てくるぞ」


 ほほぅ。初めて役にたったな、兄上。もう、よいぞ。


 「ふ~ん、わかった。ありがと、お兄ちゃん」


 初めての兄から聞いた役にたつアドバイスで、私の気持ちも決まった。


 さて•••。


 このノートに書いたら、なんか『跳び』そうな気がする。まだ一日目だから書かなくても大丈夫だろうし、やり残していることがないか、不安だった。


 というのが、今までの私の失敗だったんだ! やるべきことから逃げない! っと。


 というわけで、書こうと思うんだけど、何書こう•••。

 ポクポクポクポク•••チーン!


 マジ、閃いた。


 今まで私の設定は『未来の私』だった。そこにはどこか今の喪女である自分を隠していた。


 格好つけずに素直に書く! それと三回のやり直しを経験して得た『答え』を書けばいいんだ。経緯なんていい。結論だけでいいんだ。


 そして日記に書いた。


 『あんた、このままだったら29歳まで彼氏なし、友達なし、仕事できない、最強喪女になるよ。 29歳の私より』


 あ、未来のこと、書いちゃった。まあ、いっか。



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