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喪女が人生やり直したら?  作者: 斉藤ナオ
10/13

10話


   31


 「マジ疲れました。私にはやっぱり、男の人と付き合うなんて無理なんじゃないかな•••」


 家に帰って、宮野さんに報告、というよりは弱音メッセージを送った。その後はシャワー浴びて、ベッドに倒れ込むと、泥のように眠ってしまった。

 翌朝、目覚まし時計で起きると、宮野さんから返事が来ていた。


 「今まで逃げてた報いだよ~」

 「また逃げるの? って、マジで寝たな!」

 「ちくしょう! 孤独に送信し続けてやる!」

 「今回のことは謝るとして、日本は一妻多夫制じゃないんだから、ちゃんと二人のどちらか、考えなよ~!」

 「二人とも選ばないってのもあるのか?」

 「私個人としては、どっちかと付き合ってみたほうが、いいと思うよ~」

 「アドバイス! 自分じゃ決められないなら、自分をよく知っている人に聞いてみる、っていうのがおすすめ」

 「ま、最後に決めるのは、自分だけどね!」


 参考になったところと、そうじゃないところがあったけど、とりあえずお礼はしておこう。


 送信すると、朝支度を済ませ、会社に向かった。駅のホームで電車を待つ。数分時間があるのを確認すると、キミにメッセージを送った。すぐに返事が来て、OKとのこと。


 とりあえず、私をよく知る人間にアドバイスをもらおう。


 電車がホームに入ってきた。


 そして、あっという間に帰社時間。

 昨日同様、今日も自分で決めた業務をやりきると、キミん家の子供たちに何か買ってあげようと、会社を出た。


 キミの家に着くと子供たちが出迎えてくれた。来る途中に買ったお菓子の詰め合わせをあげると


 「セリちゃん、ありがとう!」


 かわいい•••。


 キミは私のこと、セリちゃんと呼ばせていた。まぁ、私としては、おばちゃんと呼ばれるよりはいい。


 「いらっしゃい。夕飯まだでしょ? 今日は生姜焼きだよ」


 キミは結婚してから、料理が上手くなった。私もできないことはないけど、レパートリーは少ない。さっそく席について食べ始める。


 「で話って飯田さんたちのこと?」

 「まぁ、そう」

 「そう言えば、この間送ったお店のリスト、役にたった?」

 「昨日、望月くんとベトナム料理のお店に行ってきた」

 「おお~」


 キミはマジで感心しているようだった。確かに今までの私からは想像もできないことだと思う。私自身がそうだから•••。


 「で、なんかあったの?」

 「うーん•••。とりあえず、この間のことは謝れたんだけど•••」

 「うんうん」

 「話の流れで昨日も、なんか•••」

 「なに? 今度はどうしたの?」


 ここで詰まっていたら、相談もできない。一気に話す。


 「えっと、友だちから始めませんか?的なこと言われて•••」

 「いいじゃん! お姉ちゃんのリハビリにも」


 それは確かに思った。でも、今度は飯田くんにあって謝らなくっちゃいけない。そこでも、同じようなこと言われたら•••。


 「もし! もしだよ? 二人と、まぁ友だちになれたとして、その後、どっちか選ばないといけないじゃん?」

 「そうだねぇ」


 テンパる私に対して、のほほんとしているキミ。


 「なんか、それで会うのって•••」

 「なに?」

 「いわゆる二股みたいな感じがして•••」


 必死に相談したっていうのに、キミはやれやれと言わんばかりにため息をついた。


 「はぁ•••、あのね、お姉ちゃん。二股っていうのは、両方に好きって言って付き合うことで、お姉ちゃんは二人のうち、まだどちらにも好きなんて言ってないんでしょ?」


 そりゃ、そうだけど•••。


 「それとも、すでにどちらか決まっているとか?」


 首をふる。

 決めるもなにも、リアルな三次元男子なんて、そういった目で見たこと自体、ほとんどない。

 ただ•••、二次の好みはしっかりある。


 「だよね。お姉ちゃんがやっているゲームだったら、明るくかわいい感じのキャラが望月さんで、無口でマジメで、少し俺様が入っているのが飯田さん、ってとこ?」

 「な、な•••。そんなの•••」


 心を見透かされた気がして、めちゃくちゃ動揺した。


 「てことは、本命は飯田さん?」


 顔が一気に赤くなる。

 正直、自分でも気づいていた。ただ、今回はリアルワールドだし、当たり前だけど、ゲームと現実は違うと思うし•••。経験はないけど。

 ただ、望月くんとは昨日、私としては話せたと思う。でも、飯田くんとは•••。

 この間の飲み会を思い出す。

 私が妄想の世界にひたっていると


 「そっか。お姉ちゃん、飯田さんがいいんだ。まぁ、おすすめではあるけどね」

 「いや、そんなこと、言ってない•••」


 ジト目で私を見るキミ。


 「•••こ、好みでは、ある•••」

 「お、珍しく素直だ。ただ、お姉ちゃん、現実とゲームは違うからね!」

 「わ、わかってるよ!」

 「それならいいけど。ただ•••」


 キミが下を向いて考え込む。


 「なに、どうしたの?」

 「いや、飯田さん、おすすめだけあって、社内でもアプローチされてるの見たことあるんだけど、全然で。でも、彼女いるか聞くといないって言うし。なんか、あんのかなぁ•••」

 「へ、へぇ•••」


 後日、キミの懸念は、その理由とともに、判明することになった。



   32


 金曜日。

 今日は飯田くんと会う日。

 キミは二股じゃないって言ってたけど、相手の気持ちを知った上で、交互に二人の男性と会うっていうのが、私にはどうしても自分の中でイヤだった。


 私みたいな喪•••、やつが天秤てんびんにかけるようなまね、百万年早いと思う。


 一瞬、気持ちがアッチ側に行きかけるが、どうにか踏みとどまれた。

 それに、あらためてキミに自分の好みを言い当てられて、ある意味、気持ちの方向性がついた気もする。そして、その気持ちに対して、逃げないようにすることが、二人の気持ちに答える方法だと思った。

 こんな風に考えられるようになったのも、『過去のやり直し』のおかげだと思う。中学時代に戻って花崎を捕まえた経験をしてから、『今』の私には度胸というか、覚悟みたいな強い意志が確かにある。それに宮野さんから、逃げずに踏ん張る方法も教わった。そのおかげで、今日のプレッシャーにも負けないでいられた。


 終業時刻ぴったりに、本日の業務予定を終えると、まだ残っている人たちに声をかけて会社を出る。

 今回もキミから教えてもらったお店に向かっていると、キミから電話がきた。


 「お姉ちゃん? 大変! 飯田さん、今、会社の近くで知らない女の人をナンパしてる!」

 「え? なに? どういうこと?」

 「私だって知らないよ。あ、お店に入っていった!」

 「え? だって今日は•••」

 「知ってるよ。それでさっきまで私、飯田さんと一緒に歩きながら色々話していたんだもん」

 「た、単に私と会う前に少しだけ用事があったとか•••」

 「違うって! あれは絶対、昔の女だよ!」


 そんなこと言われたって•••。どうしたらいいんだよ•••。


 私の強い意志やら何やらは、この一瞬で消えていた。


 「お姉ちゃん、今すぐこっちに来て!」


 え? 今日のお店はどうしたらいいの?


 この期に及んで、まだアホなことを考える私。


 「場所、送信するから! タクシーでぶっ飛ばしてきて!」

 「えーっ?」


 ここからは記憶が曖昧。どうやら、タクシーをつかまえて、キミの会社の駅にとりあえず向かった•••らしい。キミから詳細な位置情報が送られて、ハッと我に返る。

 しどろもどろで運転手さんに伝えると、私の様子から気をきかしてくれたのか、地元の人しか知らないような細い道を進んでくれた。驚くくらい早く着くと喫茶店の前に立っているキミを見つける。

 運転手さんにお礼を言って、支払いを済ますと、キミのところまでダッシュした。


 「お姉ちゃん! こっちこっち!」


 私を見て、手招きしているキミ。隣まで行って


 「なに? どういうこと?」


 息を整えながらキミに聞く。


 「私だって知らないよ! とにかくお店入ろ!」

 「え? なんで?」

 「なんでって、気にならないの?」

 「そりゃあなるけど•••」

 「もう! とにかく入ろ!」


 腕を無理やり引っ張られてお店に入ると、少し戸惑いながらお店のお姉さんが人数を確認してくる。全く無視して店内を見渡しているキミのかわりに、私が人数を告げると、お姉さんは席へと案内してくれようとした。


 「私たち、あっちの席で!」


 キミはそういうと店内をズンズン進んでいく。曲がったところで私も気づいた。窓側の角席に男女が座っている。お構いなしに進むキミを追って、角席の隣の席に座った。

 呆気あっけにとられていたお店のお姉さんも慌てて追いかけてくると、あやしい視線とともにメニューを置いていった。

 背中合わせでキミと飯田くんが座り、私からは相手の女性が見える。


 かわいい感じで、美人。性格も良さそう•••。


 パチン!


 ひさしぶりに左手首の輪ゴムを使う。それくらい私の目からは完璧に見えた。

 一方、キミは私の前で明らかに不審な動きをしている。なんとか話の内容を聞こうとしているらしい。私の席では二人の声はほとんど聞こえなかったけど、女性の表情はよく見えた。

 思いつめた感じで、でも真剣な眼差まなざしで飯田くんをしっかりと見つめながら、話している。それに対して飯田くんは黙って聞いているようだった。

 女性の話が一区切りしたみたいで、飯田くんはスマホを確認する。相手の女性に二言、三言告げると、誰かに電話をかけたようだった。


 突然、私の携帯が鳴りだす。


 慌ててスマホをとると、飯田くんの生の声と、携帯からの声がステレオ状態で聞こえた。

 テンパった私はその場で


 「はい、秋野です」


 と答える。

 前には頭を抱えたキミと、驚きの表情で振り返っている飯田くんがいた。



   33


 「えー、とりあえず自己紹介ですかね•••」


 互いに遠慮しあっている三人に変わり、キミが切り出す。飯田くんが譲るかたちで、私たちは飯田くんたちの席に移った。窓側に一緒にいた女性とキミ、通路側に飯田くんと私で向かい合わせになっている。

 言い出しっぺのキミから女性に頭を下げて


 「島田です。飯田さんと同じ会社に勤めてます」


 キミに肘でつつかれる。


 「あ、秋野です。キミの姉です」


 さらにつつかれる。


 「な、なに?」

 「もう•••。えー、姉は飯田さんとは中学からの幼なじみで、今日はデートの予定でした!」

 「ちょっと、なにを•••」

 「ね、飯田さん!」


 急にふられて、飯田くんは一瞬戸惑ったが


 「ああ。今日、これから会う予定だったんだ•••けど•••」


 飯田くんはキミと私を交互に見ながら、明らかに戸惑っていた。

 そりゃあ当たり前だと思う。だって今日、これから会う予定の人間が目の前にいるのだから。

 飯田くんの疑問を察したキミは


 「なんでお姉ちゃんがここにいるかっていうと、私が呼んだからです。だって、飯田さん、お姉ちゃんと約束しているのに、知らない女の人とお店に入っちゃうから」


 ここで、私とキミの視線が今まで黙っていた女性の方に向く。キミは疑いの表情を隠すこともなく


 「あの•••、失礼ですが?」


 その女性は、キミの問いかけに緊張しながらも、しっかりと私たち二人を見て


 「宇田川です。飯田くんとは大学が一緒でした•••」


 会釈えしゃくする宇田川さんの頭部に、キミがたたみかける。


 「飯田さんと付き合っていたんですか?」


 顔を上げた宇田川さんはみるみる赤くなり、飯田さんはキミのストレートさに唖然とする。私は眉間をつまんで、キミが『こういうヤツ』だったのを思い出していた。

 最初に立ち直ったのは飯田くんで


 「大学の時、付き合っていた。でも卒業してから、すぐ別れた」


 ぎこちない飯田くんの回答を受けて宇田川さんも


 「はい。確かに昔付き合っていましたけど、別れてからはお互い会うこともなくて。今日、会ったのも本当に偶然で•••、いつぶりだろう?」

 「7年と少しってところだ」


 そこに私とキミの飲み物が運ばれてきた。お店の人が席をあとにするのを合図にキミが飯田くんに


 「今日、お姉ちゃんと約束していたのに、なんで•••宇田川さん? っていうか元カノと会っているんですか?」

 「ごめん」


 飯田くんは頭をバッと下げて


 「秋野さんには、もちろん連絡するつもりだった。話が早く終われば駆けつけたかったけど、どれくらいかかるかわからなかったから•••」


 コーヒーを口に運んでからキミは


 「で、今日は会えなくなったって連絡するつもりだったと?」

 「あぁ•••」


 肯定する飯田くんを見てため息をつくと、キミは今度は私に向き直って


 「お姉ちゃん、どう思う?」


 紅茶を吹き出しかけたが、なんとか咳き込むだけで抑える。


 「どうって言われても•••」


 飯田くんとは付き合っているわけでもないし、予定が急に入るなんてこと、よくあると思うし•••。それに今日、会うのは私が謝りたかったからで•••。


 「あの•••」


 宇田川さんが遠慮がちに手を上げる。みんなの視線が集まると、宇田川さんは飯田くんに


 「アキト、私に聞きたいことがあるんでしょ? 私、答えられるかわからないけど、できるだけ話すから。だから、今、ここで話すのがイヤだったら、また別の日にでも•••」

「いやいや! 元カノとまた会う約束とか! 飯田さん? こないだセリ姉に告白しておいて、それってアリ?」


 噛みつきそうなキミを抑えながら、私も飯田くんの言葉を待つ。

 飯田くんはばつが悪そうに宇田川さんを見ると


 「あぁ•••、しおり、その、俺たちが別れた時のことなんだけど•••。今、話しても大丈夫か?」


 一瞬、宇田川さんは目を見開いたが、少し考えると


 「•••いいよ。聞きたいことって?」


 私は話の腰をおるかたちで、おずおずと手を上げると


 「やっぱり私たち、席外すよ•••」


 そう言って席を立ちかけた時、


 「ママーっ!」


 男の子が走ってやってきた。テーブルの下をくぐって、宇田川さんのとなりに入り込む。


 「リク! テーブルもぐったりしちゃ、ダメでしょう!」


 男の子は宇田川さんの服に顔をうずめて、聞こえないふりをしている。


 「すいません•••。ごめん、ママ」


 男の子の後ろから来た男性は私たちに頭を下げると、宇田川さんに話しかけた。宇田川さんは男性を見てため息をつくと


 「ママ、お友だちとお話があるから、パパと待っててくれる?」


 宇田川さんの服から顔を離した男の子は、私たちをチラッと見ると


 「あーっ! パパ! この人!」


 私を指差す。私も男の子の顔に見覚えがあった。


 うーん、忘れてしまっている•••。


 男の子は興奮しているようで、大きな声で私を指差しながら


 「この人だよ! パパが言っていたイノチのオンジン!」


 命の恩人? 私が?


 だんだんと思い出してくる。


 そうだ! 私が過去に戻るきっかけになった、車にひかれそうになった子だ!


 最初の時は正直、全く覚えていなかった•••というよりは、たぶん訳もわかず車にひかれていたわけだけど、数ヶ月前の時には、男の子の顔もしっかり見ていた。

 と同時に私の頭の中に、ばく然とした思いが浮かぶ。


 これって偶然?



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