↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喪女が人生やり直したら?  作者: 斉藤ナオ
1/13

1話


   0


 ••••••あれ?

 私、どうしたんだ?

 まわりが騒がしいけど•••。

 頭がぼーっとして、耳に入ってこない。


 「大丈夫? 今、救急車が来たから!」


 なんか運ばれている?

 あぁ•••。

 意識が遠のくって、こんな感じなんだ••••••。



   1


 起きたら『今』の自分じゃなくなっていた。『今』の自分、つまり私はどんな奴かというと、29歳の社会人で、イコール彼氏いない歴の喪女《もじょ》。仕事もできず、いつも上司に怒られ、最近では飲みに行く戦友《ともだち》も結婚してしまい、じゃあ一人で飲みに行くかというと、そんな金があるならブルーレイボックスやその他の至高•••、いや嗜好品《しこうひん》を買う。それらが何なのかは、詮索無用《せんさくむよう》。

 とにかく。これが『今』の私、秋野芹香《あきのせりか》、29歳の乙女。この場合、乙女はガチな意味になるな•••。


 それが、一体全体どうなってんだ?


 見覚えはあるが、ワンルームの私の部屋とは違う天井。立ち上がると視界がおかしい。ベッドの上に立っているのに、目線の高さが普段と同じくらいだ。そして着ているのは愛用の高校ジャージじゃなく、可愛らしいパジャマ。


•••パジャマ?


 ベッドから飛び降り、鏡を探す。

 いや。そもそも私、こんなに身軽か? それにこの部屋、確かに私の部屋だけど•••。


 実家の部屋じゃん!


 あたりをキョロキョロ見回す。本棚やテレビ、ゲーム機やパソコン類すべてない。そのかわり分厚い少女マンガ雑誌や教科書、極めつけはリコーダーが転がっていた。


 マジか•••。


 もう、だいたい想像はついた。ただ、一階に降りて確かめる勇気がない。

 今のこんな状況でもリア充だったら、


 「わ~、タイムリープしてるぅ!」


 とか言うのだろうが、何度も言うが、私は喪女!


 「はぁ? なに、この地獄? またあの暗黒時代を乗り越えろっていうのか!」


 当然、キレた。

 突然、部屋のドアが開く。


 「るせーっ、ブスッ!」


 二つ上の兄、啓也《けいや》だ•••。声は高いし、すげーちっちゃかったが、間違いない。タイムリープした事実が目の前にいる。そう思うと平衡感覚を失い、フラフラと座り込んでしまった。すると、心配したのか


 「なんだ、頭、痛いのか?」


 あれ? お兄ちゃん、こんなに優しかったっけ?


 「大丈夫•••」


 なんとか気を取り直すと、お約束を聞く。


 「今って何年?」

 「は? 頭、大丈夫か?」

 「いいから、何年!」

 「ろ、6年だよ。おまえ、4年生じゃん!」


 いや、平成何年とか聞いたんだけど、っていうかマジか! 4年生って何歳だ? 9歳とか10歳か? 私、29だぞ! 20年前まで戻ったのか?


 「セリ、顔色、変だぞ? 今日から始業式じゃん。行けるのかよ?」


 もう私の耳には兄の声は入ってこなかった。


 もう、いいよ•••。なんでかわからないけど、『こんな感じ』になっちゃったってことね。

 •••って


 「あーっ、もう何なのよ!」


 いや、無理でしょ。こんなこと受け入れるの。ということで、再びベッドに戻る私。


 「母さん、呼んでくる」


 私の体調が悪いと思ったお兄ちゃんは慌《あわ》ただしく階段を降りていく。少しして再び足音が近づいてきた。


 「芹香、頭痛いの?」


 ベッドから頭だけだすと、これまた若いお母さんが心配そうに私のおでこに手をあてた。


 「熱は•••、ないみたいだけど。芹香、本当に頭が痛いの?」


 必死に頷《うなず》く。少しだけ悩んだが、一つ息をはくと、お母さんは


 「わかったわ。じゃあ、学校休んでいいから」


 こうして、とりあえず現状把握《げんじょうはあく》とこれからのことを考える時間を確保した。



   2


 私の小4時代。

 暗黒時代の前の黄金期。

 友達もまあまあいたし、クラスで目立つことも、イジメられることもなく•••。


 楽しかったなぁ。


 ただ、『それ』を繰り返す気力、というかエネルギーはない。子供だったから楽しかったけど、今や29歳だからなぁ。全《まった》く楽しくない自信がある。


 「お姉ちゃん、大丈夫?」


 布団から顔をだすと、妹の君香《きみか》が心配そうにベッドの上に顔をのせていた。うっわ! こいつ、こんな小さい時から可愛いんでやんの。20年後には二人の子供の母親だぞ、お前。


 「大丈夫。いってらっしゃい」

 「お姉ちゃんも元気になってね」


 いや、妹よ。こんな状況で元気のある奴いねーよ。リア充だろうが、喪女だろうが無理なものは無理。妹《キミ》が部屋を出ていくと、再び布団に潜《もぐ》る。


 これから、どうする? とりあえず明日からは学校に行く? っていうか、行かねーとヤバいよな•••。うわーっ、小学生となんか話せないよ。顔わかるか? 誰と話していたっけ?

 とりあえず、ベッドから這《は》い出て、ランドセルから鉛筆とノートを出す。鉛筆だよ、懐かしい•••。覚えているかぎりの学校、家族の当時の状況を整理してみた。

 そこに、ちょうどお母さんが部屋に入ってくる。ベッドで落書きでもしていると思ったのか、持ってきたトレイの桃缶を入れた小鉢と私を交互に見た後


 「本当に頭痛いの?」

 「うん」


 元気よく答えてしまったが、嘘ではない。ガチで頭がおかしくなりそうだった。肩をすくめて、お母さんは黄桃をくれた。寝てなさいよ、と言って部屋から出ていくのを見送ると、私はその桃にがっついた。コンビニスイーツもうまいが、お母さんの桃缶はめっちゃうまかった。

 甘いものをとったからか、頭が動きだす。三十分ほどで一応できた。あとは、私がうまく立ち回れるかどうか。実はそれが一番心配だった。

 29歳の私と小4の頃の私。コミュニケーション能力が全く違っていた。そして、それは残念なことに今の29歳の方が下だということ•••。いや、小4の私もそんなにスゴかったわけじゃないけど、今の私は皆無。ゼロ。いったい二十年間、何をしてきたんだ•••。

 突然、ブルッとなる。


 •••トイレに行きたい。


 多少悩んだが、自然の摂理には勝てず、階段を降りる。いきなり身体が小さくなって、視野が低くなるというのはかなりの違和感があった。階段の壁で身体を支えながら、ゆっくりと降りる。


 「いやだ、本当に大丈夫?」


 通りかかったお母さんが心配そうに見ている。トイレだと言って、逃げるように横をすり抜けた。ちなみに29歳の私だったら、廊下ですれ違うのは、かなり大変。この二十年で、だいぶ太ったから。


 ふ~。


 今まで緊張していたのを自覚する。ドッと肩を落として視線を下に向けると、ペタンコの胸と腹が見えた。


 本当に子供に戻っちゃったよ•••。


 だいたい、なんでいきなりこんなことに? なんかあったような気もするが思い出せない。それにしても、もう一回人生やり直すの? そんなこと、願ったことも、考えたこともないのに?。力なく部屋に戻るとベッドに倒れこむ。

 とにかく、いつ、また29歳に戻れるかわからない。それまでは、なるべく人と話さないようにしよう!

 これが私のひねり出した対応だった。



   3


 あれから一週間。

 なんでこんなことになったのか、まだ思い出せない。

 そんな中、私はなんとか日々を過ごしていた。

 何日かは、まわりも私の変貌《へんぼう》ぶりに困惑していたみたいだったけど、お母さんいわく、芹香も大人になったのよ、という感じで納得されたみたいだった。ただ、大人になった、というのを拡大解釈したお父さんは、私への態度をギクシャクさせていた。いやいや、違うから。

 あと、風呂についてもお父さんとお兄ちゃんとは入らないと言った。だって、見た目は子供だけど、中身は一応、大人だからね。どこぞの名探偵と違って、こちらは喪女だけど。

 一方、小学校生活は、というと。ほっとんど口をきかないでいた。ちなみにマスクをして、カモフラージュはしている。

 29歳になった今では、小学校時代の友達は一人もいない。なので、私が29歳に戻った時、この時代の私に、その間の記憶が無くなっていたとしても、将来的にはなんの影響もない。

 ここで気づいた。元に戻った時、この時代の私のために、日記を残しては? ということで、ここ一週間の出来事を書いた。ちなみに私自身のことは、というと•••。

 将来の自分を知らせて、自殺でもされたらマズいので、そこは適当に『未来の私』としておいた。さらに、この日記は状況を整理する上で役にたった。いつまでもマスクをしているわけにもいかなかったので、基本無口キャラは通したが、当時仲良かったアヤちゃんとは、心配してくれていることもあって、少しずつ話すようになった。

 その内容を毎日、日記に書く。小学生の会話だから大したことは話してないけど、29歳の私自身、日記のためにしっかり聞いて、誰かのために書くことで、喪女特有のひねくれた妄想にも陥《おちい》らずに済んでいた。


 そして数日が過ぎ、事件が起こった。


 というか、私が忘れていただけなんだけど。今では、そんなことがあったなぁ、という感じだ。思い返してみても、後にも先にも、この一回だけだよなぁ。若い時、十代や二十代前半は、この思い出にすがりついていたこともあった。


 「秋野、俺、お前のこと、好きだ」


 クラスの男子で2~4位人気くらいの男の子。29歳だってのに、軽くときめいちゃったぜ! 真っ赤な顔をして、でもちゃんと私を見ている。

 ちなみに当時、私の返事というか、私のとった行動は•••。

 この場からダッシュで逃げ出したんだよ、事もあろうことか•••。

 今ならわかる。勇気を出して、告白してくれた相手に、トンデモないことをしたってこと。

 望月《もちづき》和樹《かずき》くん。

 当時の彼は私にフラれたと思っただろうな•••。


 実際はテンパって逃げただけなんです。本当、すみません!


 ちなみに過去に起こった事実を変えたらマズい、未来が変わる、みたいなSF話は昔からよくあるわけで。だから私もできるだけ、未来に影響しないように気をつけていた。

 だから、付き合わないという結果を変えないように、ということだけが混乱する頭の中をグルグルまわる。


 じゃあ、なんて言えばいいんだ?


 フル回転で今まで見たマンガ、アニメ、映画などなど、とにかくこの場にふさわしい、結果的には断る場面を思いだそうとした。


 「あ、秋野は俺のこと、どう思っているんだ?」


 考えろ! 考えろ!


 「も、望月くんは、嫌いじゃないよ」


 ヤバい! 変な声になった。

 咳払いを一つ。

 その後、暗黒時代という嵐の海で死ななかったのは、望月くんの告白という暗い海に浮かぶ一本の木にしがみついていたおかげッス!

 でも、なんで当時の私は逃げ出した? 29歳が小4男子を前にして、ガチにテンパっていた。


 「も、望月くんのことは嫌いじゃないよ。でも、まだ好きとか私、全然わからないから•••。だから! だから、望月くんじゃない人から同じこと言われても、今と同じように•••こんな感じに•••なると•••」

 「•••そっか。わかった。ゴメンな、いきなり呼び出して」


 そう言って、望月くん『が』この場から走り去った。


 これで良かったのか?


 私もフラフラと家に帰った。

 夕食もあまり食べられず、すぐにお風呂に入って、自分の部屋のベッドに倒れ込む。


 なんて書きゃあ、いいんだ?


 とりあえず、日記を開いて、書き始める。


 『私へ


 今日、びっくりすることがありました。同じクラスの望月和樹くんから、好き、と言われました。』


 ピタッと鉛筆が止まる。

 テンパって、その場から逃げ出しました、と過去の事実を書くのか?

 それとも、今日、私がしたままのことを書くべきか?


 この日記には過去のことじゃなく、今回あったことを書いてきた。だって、普段の細かいことなんて過去にどうしていたか一つ一つ覚えているわけないし、たぶん過去と違う行動なんか、しまくっているわけで。


 何をいまさら迷う! 事実を記《しる》すのみじゃ!


 『返事は断りました。過去を変えるにはいかなかったので。』


 自分ではウソをついているつもりはなかったけど、なにか腑《ふ》に落ちなかった。とりあえず書き進める。


 『望月くんには、嫌いじゃないけど、好きとかは、考えたことがないって伝えました。望月くんは、わかった、と言ってくれました。』


 あれ? 望月くんに言ったのって、違くなかったっけ。好きとか『わからない』だっけ? テンパってたからなぁ。

 29歳の今では『彼氏』という単語自体、捨てているからなぁ。悩む以前に、そもそも何なのかがわからないわ。

 気を取り直して、日記に戻る。


 『明日から望月くんとは、また普通の友達として、接するつもりです。』


 あ、嘘、書いちゃった。過去の私は望月くんのこと、シカトしていたんだよね•••。当時については本当に反省。


 よし! がんばって本当のことにすればいいんだ!


 日記を閉じて、ベッドに入ると、頭から布団をかぶる。明日、望月くんと本当にちゃんと挨拶とかできるかなぁ?


 しかし、そんな私の心配は無用となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。