沈んでしまった宝物②
潜水していられる時間は、1回で約3分が限界だ。
2階の柱にくくりつけたロープを持ちながら、水に浸かりきった1階まで潜っていく。
階段を下り、周りを見渡す。
思ったより物が多い。
階段を降りた先、居間と思われる部屋の壁にたくさんの写真が掛かっている。
1枚目の写真は、10年いや20年ほど前のものだろうか、齢50くらいの男と女が写っている。
男がギターを弾き、女はピアノを弾きながら歌ってる。
じいさんと5年位前に死んだばあさんだな。
2枚目の写真は、随分古い。十代位の青年が草原の中で笑ってる。
まだ草原があるってことは、50年以上前だ。
ということは、この写真の青年はじいさんか?
結構なイケメンだ。もしかしたら、これが探し物かもしれない。
とりあえず、1度に全ての物を運べる量じゃない。
目につくものを持って行こう。
まずは、居間にある写真からだ。
かき集めて二階に引き上げて、じいさんに見せると、じいさんは手に取り、嬉しそうに声を上げた。
「おお!懐かしいのぉ!」
おっ、もしかしてもう帰れるか?
「良かったな。いきなり当たりか?」
潜水服の水抜きを始め、早々に脱ごうとしたが、じいさんに止められた。
「懐かしい…が、これではないのぉ。」
ふぅ。
まぁ、そんな簡単には見つからないよな。
「わかったもう一回行ってくる。」
再度一階へと潜り、居間を見渡す。ギターだ。
弦は完全に錆びているが、母材は、生きているようだ。
これは、建物の基礎となる木と同じ物が使われているな。
水に浸かっても脆くならない特殊な木だ。
とりあえず右手にギターを取り、近くにあった小箱を左脇に抱え、ロープを手繰り二階へと戻った。
小箱を空けると紙切れが1枚だけ。
ギターは、爺さんに渡すと、弦を張り替え、思い出の曲とやらを弾いてくれた。
「写真のころよく婆さんと弾いた曲だ。」
「どうだ?いい曲じゃろ?」
ご機嫌だ。しかし探し物はこれでもないという。
結局あらかた1階の居間にあった物は引き上げてきたが、当たりはなかった。
まぁ、最初の一部屋で帰れるとは思ってなかったけどな。
じいさんのつくったカラスガニのパスタを食べ、思い出の曲とやらをもう2,3曲聞かされたあと、2つ目、3つ目の部屋を探した。
そして、日が暮れるころには、結局最後の5部屋目を探していた。
「じいさん、これ以上はもう無理だ。」
「ドでかい家具と食器類、カーペット位しか残ってないぜ。」
「そうか。」
「いや、リーフ、すまんな…。ようやく見つかったよ。」
「あん?そうすると、この杖が探し物だったのか?」
俺は、最後に持ってきた、古ぼけた杖をじいさんに差し出した。
じいさんは、杖を手に取り、引き上げてきた物を指し、ニヤリと笑った。
「すまんな。リーフ。これら全部がわしの思い出の品じゃ。」
何だって?
「おい。じじい。嵌めやがったな。」
「まあまて、代わりにこの中で飛びっきりいいものをやろう。」
じいさんは、小箱の中から1枚の紙切れを取り出した。
「宝の地図じゃ。」
「わしはもう随分と生きた。」
「わしにはもういらん。」
「欲しかったものは手に入ったし、家族や愛したものはすでに思い出に変わった。
何かを求めるのは若者の特権だ。」
「今日お前さんが持ってきてくれたものより、たくさんの宝物が見つかるよう祈ってるよ。」