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ゴンドラと飛行船  作者: クロスピース
1/3

おんぼろ真白なゴンドラは今日も水路を歩く

波はどこまでも静かに


街のざわめきも 騒ぎ立てる子供の声も 照りつける日の光さえも


一度水面を通し やわらかな音に変えて


私の耳へ運んでくれる

ゴンドラに寝そべって空を見る。 


今日も、乗客はこぎ手である僕だけ。


そらとうみの境界線で濡れない水に浮かび、そっと空に手を伸ばす。


こうしていると、空にふれている気がする。


空の色が手についてしまいそうな、そんな感覚。


「あぁ、ずっとこうしていたい」


そう独り言をもらした僕の手を、何かが掴んだ。


「つかまえた」


白く小さな手、隣に住んでいるレイラだ。


「なに?また客なし?」 「ちょうどいいわね、浮島まで連れて行って!」


「お客様、本日は満席でございます。またのご予約をお待ちしております。」


僕はそう告げると、レイラはニコリと笑って僕のゴンドラに乗り込んだ。


「そしたら、明日までここで寝て待たせていただきますね。」


そう言って僕の隣に寝そべってきた。


「はぁ…。急ぎ?」


「そっ、後10分で浮島まで付かなきゃ遅刻。」


「わかったよ。」


「さっすがリーフ!優しいね!」


頭を撫でられた。


「明日までこのままより、10分で送って帰ってきた方がのんびりできそうだからね。」


「えへへ。それじゃぁ、レイラ号浮島に向けて出発~!」


少し皮肉を込めて言ったのに全く応えていないようだった。


「いつからこの船はレイラの船になったの?」


「いいからいいから!」


この街には水路がある。というよりほとんど陸路がない。

50年ほど前から急激に水位が上がり、街の大半は水に浸かっている。

どの家も一階部分は水で満たされており、二階より上の階で生活している。


いつかは海に沈む街。そんな風に呼ばれている。


だから大抵の家はゴンドラを持っているのだが、レイラの家は持っていなかった。


代わりと言っては何だが、レイラは飛行士だ。

この街で唯一の飛行船を持っている。


彼女は毎日空を飛び、人々を各地に送り届けている。

この街を出て、新しい生活を送ろうとしている人々を。


「レイラ。着いたよ。」


飛行船の唯一の発着場である浮島。

ここもいずれ海底に沈み、この街は他の地域と隔離されるのだろう。


レイラを送り届け僕は元居た場所へ戻ろうとすると、


「帰りは、7時だからね~!」


と何やら図々しいことを言っているのが聞こえたような気がした。


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