ネズミの嫁入り(もうひとつの昔話4)
ネズミの夫婦がおりました。
夫婦にはたいせつに育てている一人娘がいて、そろそろ嫁に行く年頃でした。
そんなある日。
「ねえ、父さん、母さん。あたしにぴったりの、すばらしいおムコさんを探して」
娘がお願いをしました。
「そうだな。おまえのような美しい娘を、ネズミの嫁にするのはもったいない。もっと立派で、強いムコを探してやろう」
「どんな方がいいのかしら?」
夫婦は娘のために一生けんめい考えました。
その結果。
地上を照らすお日様が、もっとも強くて立派だということになりました。
夫婦はお日様にお願いをしました。
「あなたは、だれよりも強くて立派な方です。ぜひとも娘のムコになってください」
お日様が首をふって言います。
「なら、雲の方が強いぞ。わたしの光は雲にさえぎられると、それまでだからな」
それからは……。
雲には風が強いと断られ、風には土壁が強いと断られ、土壁にはネズミが強いと断られました。
結局、土壁に穴をあけるネズミが一番だということになりました。
そこで。
土壁に穴のあけるのが上手な若いネズミを探し、夫婦はさっそく娘との結婚を申し入れました。
「うちの娘と結婚してくださらんか」
「わたしはたしかに土壁には強い。ですが一番強いのは、なんといってもやっぱり人間でしょう。やつらが怖くて怖くて、わたしはいつだって逃げまわっていますのでね」
この若いネズミにも断られてしまいました。
ほかにも声をかけてみましたが、どのネズミも口をそろえて言いました。
一番強いのは人間だと……。
夫婦は家主の男のもとを訪ねました。
「一番強いのは人間様だと聞きました。娘を嫁にしてくださいませ」
二匹はそろって頭を下げました。
「あんたらの気持ちはうれしいがな、オレは嫁をもらう資格がねえんだ」
男が首を横にふります。
「どうしてでしょう?」
「酒に負けたんだよ」
「では、あなた様より酒が強いと?」
「そういうことだ。酒に負けちまったせいで、これまで三人の嫁に逃げられてるからな」
男は情けない照れ笑いを浮かべました。
その後も、夫婦は娘のムコ探しを続けました。
しかしいつまでたっても、娘にふさわしいムコは見つかりませんでした。
三年後。
娘ネズミは嫁に行けぬまま、人間でいうところの四十を超えていました。
その顔には小じわさえできています。
「もうちょっと待っておくれ」
「きっと立派な方を探してくるからね」
今日も娘のムコ探しに出かけようとする夫婦に向かって……。
娘は言いました。
「ねえ、父さん、母さん。お嫁に行けるのなら、あたし、もうどんな男だっていいわ」