表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

まるで世界に突き刺さるような

霜太郎のCDラジカセはこきたなくて傷だらけである。なぜならこのCDラジカセは霜太郎の祖父の愛用品だったのを譲り受けたものであり、年季が入りまくっているからだ


霜太郎の指が再生ボタンを押す


スピーカーが震え、汚い音を発する。空間を揺らし、霜太郎の鼓膜に音を伝える。その音は脳を貫き、霜太郎の心に突き刺さった!未曾有の高揚感に震えながら、霜太郎は叫んだ!!心が、身体が!!抑えきれない衝動を爆発させるようにのたうった!!


「これは……ヒップホップってやつか!?それにしても……」


音が汚い!まるでゲップかゲロを延々と聴かされているようだ!!それなのに精神が強制的に高揚してゆく!!この感覚は流行りのヒップホップ風オシャレJ-POPとは全然違う!!根本の部分が、精神性が、まっったく違う!!何が何だかわからないが、それだけは解る!!と興奮しつつ霜太郎は思わず歌詞カードを手に取る。そこにはこう書かれていた





歩く肉 ファースト・アルバム 「ブッ刺す」より


「刺す足」



気が違ってなんかない 気概も無い貴様の奇怪な声は届かない 俺には 起死回生の一手は無い しかし解体会議開催するしかない 意外な展開任せはつまらない!!体内充満中の活力を足にブチ込み踏ん張り効かせてしまえばもう止まらない 次々に差し出す足を地面にブッ刺し続ける それがマイライフ さぁイッツショウタイム 何故だか笑いが止まらない!!


しかし日常が容赦なく削いでいく気力 落ちる貧力 浮力失い沈んだ約束 即拘束する悔恨 倒壊 後悔 開花 置いてきたはずの宝物達が貴様を責める 何度も 何度も 何度も 沈める

求める 貴様の精神殺害 認める!!

それでいいのか?それならばいっそ 全て背負って差し出す足に 自分の死に様 乗せて行け!!


優しい世界を殺して 新世界を創造する

誰も見た事のない 自分だけの世界

さよなら サンキュー グッナイ

新しい朝を目指して行く


仇!!となるのは振り返る心 コロコロ転がる心は混迷 金輪際渾身深々進行更新しないなんて冗談じゃない しかしいつでも思想迷宮内は息苦しくて頑張れない 優しい世界が肩を叩く 懇々と混沌 今回も後悔?今度ばかりは昏倒かい?冴える自問自答 遺恨残す滑稽な解答でエンドかい……


足が動かない 愛に満ちた優しい世界から出たくない もう何も要らない 何もかも求めない なにもしたくない このまま死ぬまで動かない


動かない思想 見えない希望 否応無しに続く日常 試しているのか知らんが腐乱が悪化の一途で苦難に混乱 このまま終わってしまっていいって思ってしまって精神遭難


しかしそれでも終わらない


俺は終わらない 動き出す脳!!


惰性を捨てろ 日常は敵だ!!


刺す脳天 自己抹殺 革命起こす


覚悟しろ!俺は自由だ!!


挨拶は抜きにしてブチかまし合おう


伝説はいつでも始められるが


足が止まればそれまでだ


今この瞬間を無駄にするな


優しい世界を殺して 新世界を創造する

誰も見た事のない 自分だけの世界

さよなら サンキュー グッナイ

新しい朝を目指して行く


気が違ってなんかない 気概も無い貴様の奇怪な声は届かない 次々に差し出す足を地面にブッ刺し続けるライフ 刺す脳天 自己抹殺 革命起こす 覚悟しろ 俺は自由だ 伝説はいつでも始められる


今この瞬間を無駄にするな













聴き終わった霜太郎はラジカセの電源を切り、コンセントを引き抜くとそのまま窓の外へとラジカセをブン投げた!!生み出された衝動が体内を駆け巡り、爆発してしまったのだ。その結果本人でさえ予測不能の行動に出たのだ!霜太郎は叫んだ!ただただ叫び散らかした!!まるでこれこそが本当の意味での産声であるとでも言わんばかりに、魂の奥底から叫び上げた!!



その時唐突に部屋のドアが開いた!!思いっきり開いた!!破裂音を鳴らしつつ開いた!!そして登場純情乙女!!猟奇殺人モンスター、地獄のマントヒヒ野郎こと母である。しかも悪いことに彼女は不貞腐れていた!!


「死ぬより恐ろしい事とは何だと思う?それはつまりこういう事だ」



母は秘蔵の砂糖水を霜太郎の全身にブチ撒けると、様々な形をした昆虫達を虫カゴから放った。そして……


*ここから先はモザイクコーナーです。音声のみでお楽しみください*



「ギァアアアアアアアアアアアアア!!」ブゥウウウウン!!ブチッ!ブチュッドンッ

「ギャハッギャハッ!!」

「ヤメッ!!うわっ!!アガアアア!!」ジャッジャッぬるるっ!ぽん★グチ、じゅるん!

「あぁーあお前そんなにして。昆虫潰してお前それ汚いなぁオイ。残骸それアレだからな。お前の晩飯。残さず食えよ。残したら明日も同じ事するからな」

「ヒィイ!!いぎぃ……」ドチャッ……ブゥウウウウンブウンプチプチ

「フンッ!だらしない。失神しやがった」シュウウウウ!!



*モザイクコーナー・エンド*



残虐マントヒヒウーマンが無遠慮に撒き散らした殺虫スプレーにより昆虫達は全滅した。霜太郎は大量の昆虫塗れになりつつ失神していた。その姿を見たマントヒヒはほくそ笑むと、部屋を後にした



このように霜太郎は母から虐待を受けていた。それは霜太郎が小学3年生の頃、両親の離婚がキッカケで始まった。母はそれまで心優しき純情マントヒヒウーマンオブ専業主婦だったが、離婚をキッカケに知り合いのツテで生保レディとして働きに出るようになる。しかし思うように上手く働けず、仕事と家事の両立に疲れ果て、いつしかそのストレスを霜太郎にあたるようになってしまっていたのだ


霜太郎の精神が暗く歪んでいるのは、この虐待によるところが大きい









数時間後


真夜中に気が付いた霜太郎は、全裸でベットに横たわっていた。部屋の真ん中には傷だらけのCDラジカセが置いてあり、昆虫達は見当たらなかった



「母さん……」



マントヒヒウーマンの心は過度のストレスにより崩壊の一途を辿っていた。そのため衝動的に霜太郎を虐待してしまうのだが、ふと我に返った時に後悔し、激しい自己嫌悪に襲われるのだ。今回もそうして後悔し、そっと後片付けをしたらしい


霜太郎はそれらの事情を全て分かっていた。この虐待は母の想いと現実との間で起こる摩擦のようなものであると納得していた。だからこそ激しい虐待にもメゲズに何も覚えていないフリをするのだ。何故なら、たとえ何をされようとも霜太郎は母を愛しているのだ


「俺は一体何を……何も覚えていない。そしてなんで全裸なんだ……そこは本当にわからない。はぁ……お腹すいたな。チーちく食べたい」


ふと見ると、床に昆虫の足が落ちていた。霜太郎はそれを手に取ると、じっと眺めた


「これが……俺の晩御飯……そんな気がする。何故だかわからないけど……多分そうだ」


霜太郎は昆虫の足を口に運ぼうとしたが、涙が溢れてきて出来なかった


「ちくしょう……むかつくなぁ、ちくしょう」


霜太郎は愛ゆえに、その怒りを母へと向ける事が出来なかった。加えて今はどこにいるかもわからない、昔は優しくてカッコよかった父にも。その他自身を取り巻く諸々の人物にも向ける事ができず、ただただ無力な自分を憎む事しかできなかった


「何もできないなら死んでしまえばいいのに」


霜太郎はそう呟きつつ、死ぬ勇気すら持ち合わせていない自分に心底嫌気がさして、思わずムセた


昆虫の足をティッシュで包んでゴミ箱に捨て、ベッドに横たわる


「優しい世界を殺して 新世界を創造する」


ひどく打ちのめされた霜太郎の精神の奥底で、無意識に歩く肉の曲が再生されていた


「伝説はいつでも始められる 今この瞬間を無駄にするな」


うるさい、俺にそんな事出来るはずないだろう……と、霜太郎は心の中で悪態をついた


ふと窓の外の月が目に入る。いつもは綺麗に見える月さえも、今は自分を(あざけ)っているように見えてしまう。月のウサギが中指立ててこっちを(にら)んでいる気さえする


あぁ、息苦しい。息苦しくて仕方がない。何故俺の世界はこんなにも息苦しいのだろうか……なんて思いつつ、霜太郎はため息をついた。そのため息に込められた鬱憤が世界に穴を開け、そこを起点に全て崩壊してしまえばいいと心から願ったが、そんなこと起こるはずもなく。結局霜太郎は月から隠れるようにカーテンを閉めてうずくまると、祈るように眠りについた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ