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第1話感出てますか

この物語を下川リオと、全ての音楽家、そして仄暗い青春を送る全ての人へ捧ぐ






1990年代某日


二人の子ども達が外遊びに精を出していた


ふっくらとしたフォルムの元気小僧、太古餅(たいこもち) 霜太郎(しもたろう)と、オシャレ艶少女、極善美(きょくせんび) 佳世子(かよこ)である



二人はご近所さんであり、来る日も来る日も飽きもせずに遊ぶ約束をし、仲良く過ごしていた


「しもたろ。わたしね!おっきくなったらね!しもたろと結婚……」

「よせよ。そこから先は、その時になったら聞くから」

「えへへ……」









それから十年後、二人は同じ高校へと進学していた


ある日の放課後、佳世子は友達とのおしゃべりに精を出しつつ、廊下を歩いていた。ふとトイレの前を通りかかると、そこではいつものようにトイレ掃除に精を出す霜太郎の姿があった


「あ、霜太郎くん……」

「ん?あ、キモ太郎だ……うぅわこっち見た!なんか真顔だし!キモッ!ねぇ佳世子、早く行こ!」

「うん!」



霜太郎の耳にはその言葉がシッカリと届いていた。ふと手を止めて昔を思い出す霜太郎。真っ先に浮かぶのは、幼い佳世子の嬉しそうな笑顔。思い出の中の霜太郎はいつだってヒーローだった


過去に浸る時間は幸せだが、浸れば浸るほど虚しい気持ちになってしまうのは、現在の霜太郎は過去の自分と比べて余りにも惨めだからだろう。特にイジメられているわけでは無いが、クラスの女子達からはキモいと虐げられ、男子からは惨めな役回りを押し付けられる日々である。とりわけトイレ掃除に関しては、専属要員として任命されているのだ



しかし彼には現状を打破するための策もなければ力もなかった。思わず変なタワシが付いた棒を握る手に力が入る


「クソォ……絶対アイツらのリコーダー舐めてやるからな!!」



そんな実現する気も無い憎まれ口は、水洗トイレの奥底へと消えていった












これは青春の光と影の狭間でもがく少年少女の物語である















永遠のライト・アンド・シャドウ


作 なかよし












トイレ掃除を終えた霜太郎は帰る支度をしていた。何故なら帰りたかったからだ。するとそこへ1人の暗黒少年が近づいてきた。彼の名は小田(おだ) 栗毛(くりげ)。霜太郎のクラスメイトであり、生粋の根暗だ。彼は根暗をこじらせている。その根暗っぷりは背後に黒いモヤが見えるほどであり、霜太郎には彼がこの世界を崩壊へと導く歪みの様なものに思えてならなかった



「シモやん。トイレ掃除終わった?」

「終わった。なんか用?」

「いや、あの……ェッと……ね……」



モジつく小田 栗毛を、霜太郎は無視した。そして帰り始めた。何故なら帰りたかったからだ。しかし学校の玄関までたどり着いたところで、霜太郎は小田 栗毛が付いてきていることに気がついた



「なに?用があるなら言いなよ!忙しいんだから!」

「いやあの、えと、あのー、、うん……」

「……」

「……」




小田 栗毛は必死にモジついた。モジつきにモジつき、モジモジ博士と化した。そんな小田 栗毛に対しては、床屋で前髪を失敗されてズタズタのガタガタになった時も舌打ちで済ませた程に心優しき霜太郎ですら、流石にイライラしてしまった


それにこの小田栗毛という男。口元のニヤけ感が絶妙にムカつく。よく見たら少し舌がでてるし、上目使いが子猫ちゃんみたいで腹立つ!なめるな!と、霜太郎は興奮した。今にも暴れだしそうになる自身の精神を落ち着けるため、霜太郎は鬱エピソードを回想して怒りを中和しようと試みた


先日霜太郎は道端で極善美 佳世子とバッタリ出会った際、彼はしま○らの服で全身をコーディネートしていた。その姿を見た極善美 佳世子は一言「その服、似合ってるね」と言い、半笑いで足早に去っていってしまったのだ



「どうせ俺なんて、一生しま○らの服を着て過ごすのがお似合いな惨め野郎なんだ」



怒っていたはずなのに何故か落ち込み始めた霜太郎。それを見た小田 栗毛は、嬉しそうに口を半開きにしてみせた



「やっぱりだ……」

「は?」

「やっぱりキミはコッチ側の人間だね」

「なん……え?」



霜太郎は戸惑った。何故なら、小田 栗毛が唐突にカバンをゴソゴソとやり始めたからだ。何を出す気だろうか……チーズちくわかな。俺の大好きなチーズちくわ。チーズちくわだったらいいな……なんて霜太郎が思っていると、小田 栗毛は何も取り出さずにカバンを閉じ、制服のズボンのベルトに手をかけ、ガチャガチャと外し始めた。その状況は霜太郎にとって、いよいよ理解不能であった。チーズちくわかと思ったら、まさか……おいなりさんか??まさかまさかのおいなりさん???いや、もしかしたら細長くてクサいチーズちくわさんが顔を出してくるかもしれないぞ、と霜太郎は戦慄した


「それ以上イッたら、こんにちわしちゃうよ?優しく挨拶してくれるの?」

「何言ってるの。言っとくけど脱がないよ?カバンにしまったと思って探したけど、ここに隠してたんだった。さっき先生に見つかりそうになったから……」


小田 栗毛はそう言うと少し恥ずかしそうにベルトを外し、ズボンの中に手を突っ込んで股間のあたりから四角くて平べったい物体を取り出した


「これ。貸してあげる」

「え、あ……」


その物体は湿気を帯びており、見るからに小田 栗毛のムレムレ股間蒸気に為すがままにされていた。霜太郎はなんとなく手を出すのを躊躇したが、ノーと言えない日本人気質をきちんと受け継いでいる彼には断る事なんかできない。なんだよもう、チーちくでもなければおいなりさんでもない、よくわからない四角やつだし、いらんし、キモくて最悪だ!!なんて思いつつも、愛想笑しながらブツを受け取る霜太郎であった


そのブツはやはり栗毛蒸気に湿らかされており、なんかベタベタしていた。霜太郎は思わずムッと言った



「それ。聴いてみて」

「あぁ……」



それはCDだった。知らないアーティストのCD。ジャケットも見たことがない。暗がりの中で悲しそうに食パンを食べるデブ。その上に汚い字で「ブッ刺す」と書かれている


「歩く肉……」

「なに?」

「その、アーティストの名前」

「あぁ……」

「とにかく聴いてみて。感想聞かせて」

「ぇぇー……」

「それじゃあ、また明日」



そう言うと小田 栗毛は去っていった。その後ろ姿を眺めつつ、霜太郎は受け取ったCDをカバンにしまった



「これハード○フ持ってったら、いくらで売れるだろ」



そう呟きつつ、霜太郎は今度こそ帰り始めた


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